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いいセミ

兼近さんがnoteに短文をのせたら、その日あったことをサポート時に140字にまとめ報告する、ということを勝手にやっており、それを膨らませてnoteに書くって感じで更新をしていたけど
彼も忙しいのか、課金されて困っちゃうのか
めっきりなので、すっかり忘れていた。


「ハエが生まれとる所が分かったわ!」
昼下がりの眠くなる時間帯に、部長が元気よく事務所に入ってきた。最近、事務所内にコバエが発生しているが、誰も根源を見つけられずにいたのだ。
ウトウトしていたので、眠気覚ましに野次馬するか、と部長に続いて廊下へ出る。

「ここ!いま、ここから出てきてん!ほらまた!!」
と指さすのは、給湯室のプラゴミ箱。
弁当ガラは流してから捨てろと幾度となく呼びかけているが、絶対やらない人は便器にうんこを付けたままでも気にしないのだろうか。別にいいけど、会社でするなら処理する人の気持ちを云々。なんてのは絵空事か。

おい部長、このハエは君たちが育てているのだ。君も飲み物1センチ入ったまま捨てるだろ。ここはハエにとって社食みたいなもんだ。私がハエなら真っ先にここに来るよ。君もハエならそうするよ。と思いながらゴミ箱を観察する。とんかつソースの香り。
「でも、ここで生まれてたら、もっとワンサカ居ますよ。どこかから出入りしてるんじゃないですか?袋も、清掃の方が週2で変えてくれてますし。」
「確かにそうやな。。さっき来た時、ソースのええ匂いしたから、ハエも誘われたんかもな」
君もソースの香りにそそられてるんかい。

部長といろいろ推理していたら、
同僚がアースジェット片手にやってきた。
「これで全員殺します!!」
大人しそうな顔して突然バトルロワイヤルな同僚。
「お!それゴミ箱にシューッてやったらこいつら終わりやな!」ノリノリのサイコパス部長。
放たれるアースジェット。
「おれたちのユートピアがあぁァ!!!」
コバエの気持ちを代弁し始めるわたし。

ゴミ箱の中、給湯室、会議室にも、廊下にもアースジェットは散布された。さようなら、ハエたち。お前らきっと、人間に呼ばれて来たのにな。2人のテンションが高すぎたので、何となくハエの魂に思いを馳せてしまう。
「そういえば、いま非常階段にセミ死んでるんですよ!」
アースジェットの同僚が小学生みたいに言う。
3人で今度は非常扉へ。

言い出しっぺの同僚はまだ動くかもと怖かったようだが、セミはもう8日目だった。部長が手に持って見せてくれる(変な会社)。
「なんか…すごい夏っぽいですね。」
9階の踊り場は、蒸し暑い夏の空気だ。セミが手に持たれている様子が懐かしく、本当に今年は夏っぽいことしてないな。と思ったら、そんなふうに言っていた。

部長:「ほんまやな。こいつ、なんかキレイやな…」
同僚:「たしかに、緑なんですね。。」
御:「あ、ミンミンゼミか、ヒグラシですかね?」
部:「いいセミやな…」
同:「いいセミです。。」

ちょっと待ってくれよ。
2人とも先程まで殺戮の天使だったじゃないか。
こいつら完全に気持ちよくなってやがる。
御:「…いいセミですね。」
いいセミて。


9階には土がない。
いいセミは、近くで息絶えていたカナブンと並べて置かれた。蒸し暑い外気を挟み込みながら、ゆっくりと非常扉が閉まる。いい大人3人が寄り集まって、一瞬の夏休みみたいな時間だった。お陰でちょっと目が覚めた。

デスクに戻りそれぞれ仕事をし始める。と、
  ╲ バン!!!╱
近所のデスクから突然の打撃音。
「殺しました!!!」
仕事してる時より生き生きしながら同僚が言う。
まだコバエが残っていたようだ。「え!こっちにまだおった?どれどれ。あーこいつやな。」


後でもう1回、いいセミを見に行った。


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