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ゴム人間はつらいよ

数年お世話になっている美容師Oさん。

彼の前でのみ、私は「ゴム人間」ということになっている。

きっかけは「羽生結弦ゴム人間疑惑」だった。

ある日、髪を切りながらOさんが私にこう語った。

「最近、陰謀論者の女性が来店したんですよ。彼女の話によると、有名な政治家やアーティスト、スポーツ選手にこの頃"ゴム人間"が紛れ込んでいるらしい。例えば羽生結弦選手。彼の美しい回転をよく見ると首のあたりが遠心力でたわんでしまっている。だから彼もゴム人間なんだとか。」

この手の話はどうして尽きないのだろう。レプティリアンと手法がまったく一緒である。こてこてな感じがたまらない。

そんなことを考えながら話を聞いていると、



「ところで、蓼川さんは、ゴム人間ですか?」



不意打ちだった。


吾輩は人間である。素材はゴムでない。
しかし、いまここで「そうです」と言ってしまえば、Oさんの認識上でのみゴム人間であることができる。

これは、おそらく一生のうち一度しか巡ってこないであろう、ゴム人間になれるチャンス——


「ゴム人間……ですけど?」

お母さんお父さんごめんなさい。
あなたの娘は、今、ゴム人間になりました。撫でてくれた頬も、押してくれた背中も、ゴムになりました。


「ああ、やっぱり。そうかなーと思ってました」


そこから私は、ボディーソープ選びには細心の注意をはらっていること、夏の"ベタつき"が不快なことなど、ゴム人間の生活がいかに大変か、Oさんにこんこんと語った。ため息混じりに話すうち、自らの身体がほんとうにゴムである気がしてこなくもなかった。もしかしたら自覚してなかっただけかもしれない。


それからというもの私はOさんから、れっきとしたゴム人間として扱われるようになった。半個室の美容室だが、隣の部屋にも我々の会話は聞こえているだろう。そう思うと他の店員さんと目を合わせることができず、「お疲れさまでしたー」と見送ってくれる廊下を、毎度、送検される容疑者のようなうつむき加減で通り過ぎることしかできなくなってしまった。無愛想な客で申し訳ない。ゴム人間は目を見て挨拶ができない、と裏で悪口言われてるかもしれない。家に帰って自分の子どもに、「きちんと挨拶しなさい!ゴム人間になるわよ!」と叱っているかもしれない。

たまに忘れて普通の人間スキンベースで会話してしまうと、Oさんからすかさず

「あれ?ゴムですよね?え、設定…だったんですか?」

と鋭いツッコミが入る。


ゴム人間はつらいよ。

嘘は自分の首を絞めることになるって本当だね。絞めてもあんまり痛くないんだけど。

ゴムだから。

さいごに、本気側の人が書いたゴム人間にまつわる紹介記事を貼っておきます。

ゴム人間の存在はTwitterのフォロワーさんから聞きました。もちろん、証拠付きでですよ?それ故にゴム人間がいるということは真実なんだなとなりました。

『りかちゅうの持論』HP
https://www.rikachu-idea.com/what-gomu-people/

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