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意中のギャル

2年ほど前から通っている脱毛サロンに、生粋のギャルがいる。

はじめは素っ裸で閃光を照射する/されるだけの仲だったのだが、会話を重ねるごとに、おたがい「自分とは遠い惑星に住むおもしれー女」として好奇心が沸き、仲良くなっていった。

そんなギャルと、半年前からご近所さんになった。

家が近いということもあり、照射をともなわずに会うことが増えた。そして、会うたびに彼女のことをめちゃくちゃ好きになっている自分がいる。彼女自身の放つ閃光に心を鷲掴みにされてしまったのだ。

この気持ちの昂りを誰かに伝えずにはおられないので、見苦しいことは承知のうえでインターネットに吐露することにする。


ギャルの好きなところ①
誘い方

私がInstagramに食べ物の写真をアップしたある日、彼女があるコメントを残した。
「おいしそーてかそろそろ」

"てかそろそろ"
私はこの6文字に、衝撃を受けた。
なんたる表現力と奥行き。

てかそろそろなにがしたいのか、あるいは何があるのか。このとき久しく彼女と会っていなかったので、私にはこれが「そろそろ会いましょう」という誘いなのだと推察できたが、他者には分かり得ない。私と彼女との間でしか通じない言葉である。

もはや現代の和歌と言ってもいいくらい完成されたフレーズ。

"遊ぼ"でも"飲みいこ"でもよかったはずなのに。

不特定多数が見るコメント欄にこのメッセージを残した彼女の無意識の知的さに、私は面を食らった。只者のギャルではない、そう確信すると同時に、死ぬときの最期のひとことはこれにしよう決めた。「てかそろそろ」で逝きたい。

ギャルの好きなところ②
言葉の純度

ギャルは建前を知らない。
ギャルは回りくどい言い方を知らない。
故にギャルの言葉は高純度である。

これは、家系ラーメンを食べに行ってみたいもののひとりでは恥ずかしいというギャルの呟きから、さすれば一緒にと初心者ふたりでオロオロしながら豚骨の香りが充満するラーメン屋に行った時のこと。

「うちら、性格真逆じゃん?だから蓼川ピと仲良くなりたいと思ったんだよねー」

別れ際に、なんの気なしにそう告げられた私は、その場で倒れるかと思った。理系陰キャに、そんなド直球なことを言ってはいけない。ギャルに仲良くなりたいと言われる世界線は我らヲタク共の永遠の憧れであって実存するはずなどなく……その間にギャルはそそくさとママチャリにまたがり、「じゃあねー」と手を振りながら遥か彼方へと走り去った。呆然と立ち尽くした私は、ただはにかんで手を振るしかなかった。

そのほか、我が家へ遊びにきて帰った後に「おやすみだいすき」などと申したり、彼氏と喧嘩した話を聞いてあげたら「もー!マジで蓼川ピと付き合いたい!蓼川ピが彼氏だったらぜったい穏やかなのに!」と口走ったり。

こうしたあまりの真っ直ぐな言葉に、毎度私の中のヲタクくん脳が沸騰してしまう。恋愛とはまた違う、どでかいトキメキに張り倒されてしまうのだ。

まったく、罪なき罪である。

ギャルの好きなところ③
優しさ

ある土曜日の夜、ギャルと近くの銭湯に行った。さっぱりしたのちに散歩をしながら、猫が飼いたいとか野菜はどこのスーパーで買うといいとか、そんな他愛もない会話をして我が家まで帰ってきてみかんを食べるなどしたのだが、翌る日、彼女の座っていた椅子の下にヘアブラシが落ちているのを発見。銭湯バッグの中から落ちてしまったのだろう。

連絡すると、出勤前に取りに来るという。朝9時過ぎにインターホンが鳴った。玄関を開けるとママチャリと彼女。ヘアブラシを渡し、頑張ってねと手を振ろうとした時、目の前に巨大な銀色の包みが差し出された。

「蓼川ピのあさごはん!もってきた!じゃあね!」

彼女が走り去ったあと、まだ温かいその包みを開けると、ラップに包まれたねぎの炊き込みご飯が。彼女が昨夜、銭湯の帰り道に話していた手作りの炊き込みご飯だった。私が美味しそうだなぁと言った炊き込みご飯だった。日曜日の朝から押し寄せる感動の波。ギャルへの気持ちが爆発した。


愛すべきギャル。愛おしいギャル。彼女にはどうかいつまでも健やかでいてほしい。そして私のヲタク心を翻弄し続けてほしい。

duolingoで50日以上韓国語の勉強続けてるのも偉すぎるし、ショートカット追加できること教えた時の嬉しそうな顔は忘れられない。

恋愛感情とは違うけれど、意中の人はいるかと聞かれたら、私は堂々と近所のギャルと答えます。

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