ぬん
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すべてを捨てて東京へ逃げてきたあの日の朝とよく似た、気持ちのいい朝だった。さっきまでの地獄と地続きだとは信じがたい穏やかな風が吹いていた。 四年前の夏、私は…
すべてを捨てて東京へ逃げてきたあの日の朝とよく似た、気持ちのいい朝だった。さっきまでの地獄と地続きだとは信じがたい穏やかな風が吹いていた。 四年前の夏、私は始発の新幹線で東京へ向かっていた。窓に映る顔は青白く目はうつろで、絶望と諦観と少しの恋しか知らない人間のそれだった。これから新しい日々が始まる。とうとう自分の人生を生きることができるようになる。死に物狂いで切り開いた未来が目の前に迫っているのに、私は手放しで喜ぶことができなかった。 家を去るとき、玄関で二匹の犬を