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そんな終わり、そんな始まり3(pixiv_2015年10月31日投稿)

「何か映画とか見たいけど、テレビで何やってる?」
夕飯も済み、風呂にも入り終わってのんびりしているとリモコンを片手にザッピングをしている諫山に声を掛けながらソファーへと向かった。
「んー、あんまりないですね…」
そう呟いて番組表を開き、面白そうなものを探してみるが特に琴線に触れるものもなく目だけを動かす。
ソファーに座りながら諫山が動かさなくなったリモコンを手に取ると、フカミチも探し始めた。
「借りるのもなあ…あ、これでいいや」
「何ですか?」
「不朽の名作アニメ」

ソファーに座って居るその体にクッションを体に凭れかけるように置く。
何だ?と思っていると、それを敷いて膝枕のように頭を膝の上に置いた。
「…、」
「直接だと足痺れるからなー、」
「別にいいですよ?」
「二時間はキツイだろ」
大丈夫です、と言おうとして確かにになと納得してそのまま動かずにまたテレビに目を戻す。
自然な動きで手が背中に触れるか触れないかの位置で止まる。
微かに感じる体温を感じ取りながらまたテレビに意識を戻した。
何度見たかわからないアニメだが未だに楽しいと思いつつも横になっていると眠気が襲って来る。
同じ所で笑い、自分が込み上げて来そうになれば少し体を動かす振りをして落ち着くのを待つ。
上にある顔を窺い見ると、少し前のめりになっていたり、泣きそうに画面に食い入るのが見えて人知れず笑いながら画面に目を戻す。
自分ではあまり感情が動かなかった所で涙を拭っているのが見えた時は少し驚いて画面に目を戻した。

エンドロールが流れて思わず深く息を吐く。
テレビで何度か放送しているのは知っていたが、最初から最後までこんな真剣に見るのは初めてだなと思い、知らず知らずのうちに体中に入っていた力を抜いた。
膝の上で動かなくなったその顔を見下ろす。
目は閉じられていて、そっと頭に手を置いて頭を撫でた。
起こした方がいいのかこのままにしておいた方がいいのか考えあぐねる。
夕飯は食べ終わり、風呂にも入り、あとは寝るだけ。
ゆっくりとクッションを押さえながら立ち上がって、静かに頭を横たわらせ、横抱きにしてベッドに寝かせればもしかしたらいけるかもしれない。
――あ、でもその前に掛け布団をどかしておかないと駄目か。
これからどう動くかを必死でシミュレーションし、視線だけを動かしてイメージを構築して行く。
出来る範囲は全てやり尽くし、後は運ぶだけだとゆっくりと息を吐く。
クッションを支えて足をスライドすると寄り掛かっている頭が動いたのに思わず諌山は動きを止めた。
全神経を集中させてゆっくりまた元の位置に戻る。
手に無駄に汗をかき、息を止めて何とか眠る姿を見下ろしたが起きる気配はない。
そのままゆっくりと息を吐き、クッションをソファーに下ろすと、音を立てないようにソファーから立ち上がる。
一つ、深呼吸をしてその姿を見た。
起きる気配はない。
もう一度落ち着く為に息を吐いた。
――…運べるかな、
自分よりは低いが成人男性。
自分の腕力でどうにかなるとは思えないが、寝ている体とソファーの間に腕を差し込み、ゆっくりと自分の首に腕を巻き付かせ、極限まで体を密着させてゆっくりと持ち上げてみる。
――重い物を持つ時は体に密着させて持て。じゃないと腰痛めるぞ。
と昔先輩が言っていたことを必死に思い出しながら抱え上げた。
――あ、いける。
先輩、やりました、と思いながらゆっくりそっと歩く。
薄暗い寝室に入り、掛け布団に乗らないように気を付けながらそっと横たわらせる。
また息を止めて体をベッドに沈めるとゆっくりと腕を抜いた。
起きる気配はなく、数歩後退して大きく息を吐く。
――よくやった、俺。
人知れずガッツポーズを繰り出し、リビングへ戻って部屋の電気を消した。
ガスの元栓や窓の鍵などを確認し、ベッドへと戻る。
先程と変わらぬまま眠っているその姿を見ながらそっと掛け布団を掛ける。
目を閉じるのが惜しくて目の前の顔をじっと見て起こさないようにゆっくりと腕を伸ばした。
頬に触れ、唇に触れ、頭を撫でる。
起きる気配もなく眠る姿に思わず顔が綻びたが、それ以上は何もせずそのまま目を閉じる。
そのまますぐに記憶は途絶えた。

体がびくりと跳ねて急に夢から覚めた。
真っ暗な部屋の中、今どこに居るのか記憶を辿り、背中に気配を感じてゆっくりと振り返る。
「…」
最近見慣れた顔がそこにあって、起こさなかったことにほっとして寝返りを打った。
「…」
心臓が早鐘を打っている。
微かに息が上がり、うっすらと汗をかいていたのに気付き、ほんの少しだけ距離を取る。
きつく目を閉じて深く息を吸い、それをゆっくりと吐き出した。
夢を見た。
もう忘れたと思っていた夢。
先程見たアニメを思い出す。
もう何年も前に、同じように隣に並んで見たのを思い出す。
――…あいつと同じ所で泣いてたな、
ふとそう思ってはっと気付き思わずきつく目を閉じて湧き上がる感情を押し込んだ。
起こさないように深く息を吐く。
心臓の音は未だにうるさく体中を鳴り響いていた。

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