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終電。 6(pixiv_2015年7月9日投稿)

赤葉の足の間に菱川がすっぽりと収まり、携帯を覗き込みながら二人で会話もなく過ごすこと数時間。
スーツから赤葉の服へと着替え、すっかり寛いでいる。
腕の中で動きを止めた菱川の体重を感じながら、赤葉は目の前にある頭に顔を寄せた。
――いい匂い…。
思わず息を吸い込んで目を閉じる。
顔を覗き込めば両目は閉じられていて、穏やかなその表情に思わず顔がにやけた。
――これで41かぁ…。
信じられないなぁと思いながら、凭れ掛かる頭に指を絡めて頭を撫でた。
携帯をゆっくりと手から抜き取ってテーブルに置き、明かりを絞った。
起きる気配はない。
敷いてある布団にどうやって移動するかを考えながらも、動くのももったいなくて動けずに居た。

『明日休みだって言ってたよね』
仕事終わりに電話が来て、うきうきと電話に出るとそう問われた。
はいと答えると「これから逢えるかな」と思いがけない言葉に一も二もなくはいと答えた。
最寄り駅に着くと改札前に菱川が居て更に驚いた。
「ごめんね。了承得る前に、」
「いや、嬉しい。てかここでどれだけ待ってたんだよ」
「えっとー…」
「まぁいいや。行こ、」
そのまま手を取って歩き出す。
菱川は不思議そうにその手を眺め、少し顔の赤くなった赤葉を見上げた。
「ふふ、」
笑いながら指を絡めて、少し寄り添うように近付いて来る。
その顔を見下ろしてにやける顔が抑えきれなくなった。
駅からアパートまで、誰も居ない数分の距離。
そのまま風呂に入り、部屋着を渡し、メールの話になって数時間。
仕事の疲れも出たのか菱川は眠ってしまっていた。
赤葉も体は疲れて眠いはずなのに、目の前にあるその穏やかな表情を見ていると目を閉じるのが惜しくなる。
飽きることなくじっと見たまま、もう何時になったかもわからない。
拳一つ分の距離でその顔をじっと眺めた。

目が覚めるとその腕の中に菱川が居て驚いた。
そう言えば昨日家に来たのだと急速に巻き戻った記憶に息が荒くなる。
いつの間にか菱川を抱き締めるように眠っている自分にも驚いたが、その腕を離す気にもならなかった。
胸のあたりに顔を埋めているその姿に苦しくないかと一瞬思ったが、気にもとめず寝息が聞こえているのが聞こえてほっとする。
――何時だ、
そうは思っても体を動かす気にはならない。
また勝手に目が閉じる。

頭を撫でられていると、赤葉の頭がぼんやりと覚醒していく。
目だけを動かすと壁に寄り掛かって自分の頭を撫でている姿が目に入った。
目が合うと微笑まれる。
「おはよう、」
「…」
頭を撫でていた手を引き寄せ、逃げられないようにしがみつく。
一瞬驚いて体に力が入ったが、背中を擦っているうちにその力も抜けた。
「…おはよう、ゴザイマス」
「まだ眠い?」
「眠いというか…離れたくないというか」
「ふふ、そうだね」
胸の上に乗っている顔が見上げてきて微笑まれる。
髪を梳くように撫でると気持ちよさそうに目を閉じた。
「…たまんねぇな、」
「うん?」
少し上半身を起こして顔を近付けると菱川の顔も近付く。
触れるだけのキス。
離れた瞬間に、また唇は重なる。
愛しそうに頭を撫でられる。
そんなことが飽きずに繰り返された。
何もしないまま時間が過ぎて行く。
そんな穏やかな休日。

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