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あなたを夢に見ることはない(pixiv_2015年7月11日投稿)

結婚をした。
好きだと言い続けて付き合って、結婚してくれと言い続けて結婚した。
結婚前から妻は忙しい人なんだと思っていた。
会える日を聞いてもわからないからまた連絡すると言われ、ふらりと気まぐれに会ってセックスし終わったらすぐに帰ってしまっていた。
浮気をしているのは知っていた。
家に男が居たこともあるし、その場に居合わせたこともある。
旅行に行って来るねと堂々と男が迎えに来たこともある。
結婚をしていた。
昨日離婚をした。

時計の音が気になって目が覚めた。
時間を見れば夜中の一時半。
溜息をついてまた目を閉じるがすぐに目を開く。
もう眠れない。
テレビの前に座って何となく流れる画面を見る。
音量を絞っているので声は聞こえないが、みんなが楽しそうに笑っている映像がずっと流れていた。
時計の音が気になる。
目を閉じてみても眠気は襲ってこない。
妻が出て行った家はがらんとしていて、未だに消化出来ない思いが燻る。
結婚生活は二年間だった。
二年も、なのか、二年だけ、なのか。
それでも同じ名字になって、家を買って、彼女の帰る場所はここなんだと思えれば嬉しかった。
とても優しい人だった。
その分とても自由奔放な人だった。
何をしても悪びれない、そんな人だった。
その自由さに惹かれて一緒に居たいと思った。
でも彼女は一人に縛られるのは嫌だと言い、じゃあもう分かり合えないねと離婚を切り出したのは自分。
「慰謝料も何もいらない。今までありがとう」
と、キスを一つして笑顔で出て行った。
扉が閉まる間際に「またね」と彼女は笑った。
その自由奔放さが好きだった。
多分彼女は浮気をしているとすら思っていないのだと思う。

めざましの音で目を覚ます。
気付けばいつもの起床時間で大きく溜息をついて起き上がった。
寝室まで戻り、目覚ましを止めると、もうひとつ溜息をついてのろのろと身支度を始める。
顔を洗い、朝食の準備をし、着替えてテーブルに付く。
自分で用意をしておきながら食欲もなく、手に取ろうとしてまたテーブルに戻した。
溜息が出る。
なのに不思議と涙は出て来なかった。

「お前顔疲れ過ぎだぞ。何だ、離婚が堪えてるのか」
「…」
不躾過ぎるその楽しそうな声に隈の出来た顔が睨むように向いた。
隈を隠すための眼鏡が少しずれ、それをゆっくりと戻しながら溜息をついた。
「…声でかい、」
「それが俺だ」
バシバシと背中を叩きながら肩を組んで体重を掛けて来る。
それに耐え切れずによろけると、また楽しそうに笑う声が聞こえた。
「…宇野、」
「昼まだだろ、一緒に食おうぜ―」
「…しょくよくない、」
と言っているのに気にした風もなく引きずられるように食堂へと連れて行かれる。
広々とした食堂は空席もあまりなく見回すがいい場所もない。
「外行くか」
そう言いながら腕を引かれて外へと出る。
ワゴン車で販売する店が数台色々見え、物色しながら歩く。
「何食いたい?」
「…しょくよくない、」
「あ、カレーいい匂いだな。カレーにするか」
全く話の聞いていないその態度にうんざりしながら引きずられていく。
「ビーフカレーと、お前は?」
「…しょくよくない、」
「じゃあキーマカレー」
「…」
がくりと項垂れているとカレーを手渡され、「あそこ座ってろ」と指をさして示された。
抵抗する意欲も失せて言われた通りに座る。
ざわざわと聞こえる音が風に乗って抜けて行く。
「ほら、お茶」
と、烏龍茶のペットボトルを渡される。
「空きっ腹に飲むなよ。胃荒らすからな」
「…」
そう言いながら早々とカレーを食べ始めるその姿を見てまた溜息を付く。
「食わしてやろうか」
楽しそうに覗き込んで来るその顔を睨む気力もない。
微かに俯居て頭をゆっくり振ると、蓋を開いた。
カレーのスパイスのいい匂いはするものの、何となく手が出せずじっと視線を落とした。
「あーん、」
そうしているとぐっと顎を掴まれて頬を押され、思わず口が開いた所にスプーンが無遠慮に入って来た。
そのまま口を塞がれ、仕方なく咀嚼して飲み込むとにこおっと笑う顔が満足気に離れて行った。
「食え。冷める」
「…」
「それとも何だ。拒食症か」
「…」
「口移し、」
「食べます!」
そう宣言してもスプーンは進まず、先端に少し乗せて口に運び、また少し乗せては口に運ぶ。
溜息が出る。
半分も食べられず、そのままスプーンが完全に止まった。
勿体無いと思いながらもどうしようも出来ない。
給食が食べられずに居残る子はこんな心境なのかとぼんやりと思う。
「食わないんだったらもらうぞ」
その提案に躊躇いながら差し出す。
「…食べかけだけど、」
「お前綺麗に食べんな―、」
人の話を聞いているのかいないのか、気にした風もなく豪快に残りを食べ進めていく。
みるみるうちになくなっていくカレーにほっとして、ペットボトルの蓋を開けた。
がさがさとビニールに器を入れて縛ると邪魔にならないように横に置く。
そのまま何をするでもなくぼんやりと座って居た。
「夕飯何食いたい?」
「…しょくよくない、」
「久々に回転寿司とか行くか。今って何皿ぐらい食えるんだろうなあ?」
「…」
溜息が出る。
そのうち「あ、時間」と立ち上がり、のろのろと立ち上がっているとそのまま腕を引かれてまた引き摺るように会社に戻る。
また溜息が出る。

仕事は捗る。
そこはぼんやりとせずに仕事が進み、その分現実から頭が離れた。
気付けば周りは真っ暗で、残っている人も然程居ない。
時計を見れば納得の時間で、そろそろ帰るかと身支度を整える。
「お! 帰りか? ちょうどいい。回る寿司屋行こうぜ―」
「…」
どんなタイミングなのか宇野が鞄を手に近付いて来た。
既に退社した隣の席に座り、片付け終わるのをじっと待っている。
「…しょくよくない、」
「じゃ、行こっか」
「…宇野、」
再び腕を掴まれて引きずられるように会社を出て行く。
気付けば回転寿司の席に座って居て、また溜息が出た。

「めーいちゃーん?」
「…めいちゃん言うな…」
テーブルに突っ伏していた顔がゆっくりと上がる。
「五月鳴。さつき、なる。どっちも『めい』じゃん」
「…めいちゃん言うな…」
ビールの瓶を避けながら同じこと繰り返す五月にはいはいと宇野は宥めるように頭を優しく叩く。
ストレル発散には酒だぜ、とコップ一杯差し出してそれを飲んだのは見た。
空きっ腹とストレスとなのか、早々五月はテーブルに突っ伏した。
「帰る?」
「…」
返事はない。
本当に寝たのかと思ったがゆっくりと顔が上がり、そのまま立ち上がって財布から金を出した。
「昼の、カレーの分と、」
千円札が数枚手渡され、そのまま店を出て行った。
ふらついている足取りが危なく思えてすぐに後を追う。
周りを見回すと道路をぼんやりと見ている五月を見付けて宇野はすぐに横に並んだ。
「電車?」
「…歩いて、帰る」
「ここ近所だっけ?」
そう問い掛けると住所が告げられるが、とても歩いて帰れる距離じゃないと頭の中に広げた地図に結論が出る。
「じゃうち来る?」
「…歩いて帰る、」
そう告げたはずなのに、また腕を引っ張られて気付いたら宇野の部屋で水を飲んでいた。
「着替えはこれな。下着は新品。はさみ取って来る。風呂どうする? 酔い覚めたか?」
「…」
「答えないなら脱がすぞ―、」
そうふざけて言ってみるものの、五月は眠ってしまったのかソファーから動かない。
仕方ないとばかりにネクタイを外してベルトを外す。
座って居た姿勢からソファーに足を上げて寝かせながら靴下を脱がしてズボンも取り払いそのままタオルケットを掛ける。
脱がした服を足元に掛けて置き、頭の方に回りこむ。
眼鏡をゆっくりと外し、何の反応もないその顔を暫くじっと見ていたが、眼鏡を目の前のテーブルに置くと、そのまま部屋の電気を消した。

夜中にまた目が覚めた。
時計を見ればまた一時半。
すっかり体のリズムがそうなってしまっているのだと諦めるように溜息をつく。
ふと見回せば知らない部屋でゆっくり立ち上がるとシャツと下着姿の自分に少し驚く。
ゆっくりを周りを見回す。
そこは何の音もせず、何の気配もせずに徐々にうるさかった鼓動が元に戻っていった。
リモコンが見つかって手を伸ばす。
音を絞りながら画像が流れるテレビをぼんやりと眺めた。
またテレビの向こうではたくさんの人が笑っている。
目を閉じてみてもやはり眠気は襲ってこない。
「寝られないのか?」
急に背後からする声に勢いよく振り返るとそこには宇野が居た。
Tシャツに短パンというラフな格好で五月をじっと見ていた。
「…おじゃましてます、」
「おぉ、」
その意外な一言に思わず笑うとソファーに座りテレビを見た。
「寝れないのか?」
「…うん、」
「横になって目瞑ってるだけでも体の疲れ取れるぞ」
「…」
「だからあんなに隈出来てんのか」
合点がいったとばかりにぽんと膝を叩く。
「もしくは溜まってんじゃねえの? 風呂でもトイレでもいいから抜いて来いよ」
「…あのな、」
「今度風俗でも行くか」
「…行かないよ」
そう呟く声は掠れ、肩が落ちた。
「性欲減退、食欲減退、睡眠欲減退ってお前もう駄目だな」
「…」
俯いた頭にぽんぽんと手が優しく叩く。
「…うの、」
「んー?」
「…眠れないんだ、」
「…」
「…ねむれないんだ、」
その言葉にゆっくりと頭を撫でる。
しばらくそうしていたが、おもむろに両脇に腕を差し込んで体を持ち上げた。
「!?」
「暴れんなよ―、」
先にそう言われて荒げそうになる声を抑えこむ。
そのままベッドに寝かされて、抱き枕のように抱きしめられた。
「…うの、」
「…大丈夫、」
頭の後ろに手を這わされてゆっくりと撫でられる。
背中をぽんぽんと叩かれながら頭を撫でられ、大丈夫と繰り返される。
微かに息を吐く音が聞こえる。
徐々に体の力が抜け、気付くとゆっくり目を閉じた。
「…」
しばらくして規則正しい寝息が聞こえ、宇野がほっと息を吐く。
「…そのまま起きるなよ、」
宇野は眠りにつくまで頭を撫でた。

「…」
めざましの音と共に起きた。
隣に宇野の顔を見ながら。
かなりの大音量に驚きながら慌てて止めるが、宇野は未だに起きる気配もない。
「…起きろ、」
「…」
「…おい、宇野。起きろ、」
「…んー…?」
少し荒めに揺らすと宇野は大きく伸びて起き上がった。
「…寝たか?」
「…寝た、」
「おぉ、よかったな。これが今はやりのソフレってやつか?」
「…」
あくびをしながら起き上がり、眼の前で淡々と身支度を整えていく。
五月もソファーに戻って身支度を整えると時計を見上げた。
普段よりは少し遅めの時間に気分が落ち着かなくなる。
「…間に合うのか?」
「間に合うって」
「朝飯は?」
「食う? それともどっかで食う? それともどっかで買って会社で食う?」
「…しょくよく、」
「なくても食っとけ。胃が小さくなって更に食えなくなるぞ」
「…」
珍しく正論を言われて言い返せない。
「じゃどっかで買って会社で食うか」
と早々支度をして部屋を出る。
人混みに一瞬だけ吐き気を覚えたが何とか堪えて最寄り駅まで着いた。
宇野はいつの間に買ったのか大きめのサンドイッチを手にまだ人の居ない休憩室に座って窓の外を見る。
天気がよく階層の高い休憩室はとても見晴らしが良かった。
「一口でいいから食え」
そう言うとおずおずと一口分だけ千切る。
その大きさに一瞬大き過ぎたとばかりに溜息をついたが意を決して口に運んだ。
それすらも多くて食べ終わると大きく息を吐く。
「じゃあと貰うな―、」
その食べっぷりにまた息を吐く。
「昼何食うか考えとけ」
そう言われてまた俯いた。

そんな風に食事に誘われているうちに少しずつ食欲も戻って来た。
しかし相変わらず眠れなくて食欲が戻ってはまた食べられなくなる、を繰り返した。
宇野は顔を突き合わせる度に「隈ひどいなー」と笑って肩を叩く。
その不躾な態度にほっとし、また一緒に食事をする。
一緒に寝るかと冗談めかして言われるがそれは断った。
また一人で眠る。
また一時半に目が覚める。
テレビの前でうとうとしているとまた目覚ましが鳴って、また会社に行く。
繰り返しても繰り返しても変わらない自分に、うんざりした。

「風俗行くぞ」
「行かない」
腕を掴んで連れて行かれそうになったので、そこは断固拒否した。
「えー」
「行きたいなら一人で行けよ」
「性欲は戻った?」
「…別に問題はない」
「ふーん。じゃ何食う?」
「…」
次々と変わる会話に付いて行けず、溜息が出る。
宇野はそれに気付くこともなく時計に目を落とした。
「金曜日でどこも混んでそうだから何か買ってうちで飲もうぜー。五月んちって一軒家だっけ?」
「え、」
「遊びに行きたいなー」

断る間もなく家に辿り着いた。
楽しそうに部屋を歩き回り、買って来たものを並べるとようやく落ち着いて座った。
「あ、先風呂入るか?」
「そうだな、スーツ脱いじゃいたい」
「じゃあ用意しとくから風呂入れ。服洗濯機にに突っ込んどいてくれればいいから」
「おー」
会話をしながら風呂場に案内し、五月は部屋に戻る。
サイズが大きめのものを選んでバスタオルと一緒に置いておいた。
下着は先程コンビニで買っているのを見たので問題はない。
もう一度部屋に戻ると自分も部屋着に着替えてスーツを脱いだ。
自分の家に誰かが居る気配は久し振りで、何となくどきどきした。

「家建てたんだもんなー。凄いよな」
「…」
「家目当ての女とか気を付けろよ」
「…大丈夫だろ、」
そう言いながら缶を手に飲んでいく。
直箸で色々食べながら身もない話に花が咲く。
空きっ腹になのか、体質なのか相変わらず酒の回りが早いように思える。
「相変わらず不眠症?」
「…あぁ、」
「一回病院とか行ってみれば?」
「…薬は、飲みたくない」
「って言ったって、寝られないんだからしょうがねえじゃねえか」
「…」
「後は走ったりして体疲れさせれば?」
「…走る体力も、」
「ねぇわな」
わかってますとばかりに頷いて缶を呷る。
時計を見れば一時半。
「…いっつもこの時間に目が覚める、」
そう呟くと宇野も時計を見た。
「土日も?」
「土日も」
「…明日起きなきゃっていうプレッシャーとかでもないのか」
「…わかんない」
「まあな」
暫く沈黙が続く。
食べ終わったものを流しに運んで水に浸しておく。
リビングを振り返ると五月は俯いて眠っていて、その姿に起こさないように静かに歩いた。
キッチンに戻り静かに水を流し、スポンジを見付けて食器を洗う。
飲み干した缶も一応洗い、全て片付け終わると五月の横に戻った。
そういや寝室はどこなんだと運ぶべき寝室を探しに立ち上がる。
いくつか扉を開けてきちんと整えられたベッドを見付け、扉を全て開いてリビングへと戻った。
起こさないようにゆっくりと自分に凭れ掛けて抱き上げる。
前よりは幾分重さを持った体だが、今尚簡単に持ち上がる成人男性に驚く。
「…ったく、」
あれだけ食わせているのに駄目かと呟きながら部屋の電気を消し、ベッドに寝かせる。
寝息が途切れることなく聞こえていてほっとしながら立ち上がる。
そのまま足元にある布団を掛けて部屋を出た。

家の中はすっかり男の一人暮らしと言った感じだった。
散らかったり汚れたりしているわけではないが、妻が居ますという雰囲気は微塵も感じられなかった。
もともとこんな感じだったのか、それとも離婚してこうなったのか。
離婚したなと口には何度も出したけれど、深いところまでは何も知らない。
相手の顔も、どうして結婚したのか、どうして離婚したのかまではさすがに聞けずに居た。
小奇麗に整えられている部屋はきっと五月の性格上のものだろう。
どこにも『妻』のものは感じられなかった。
――ここに一人か。
そう思ってしまうと、やはり辛いかと溜息が出る。
宇野自身は結婚も離婚も経験がない。
推して図るには情報が何もなく、諦めてソファーに戻った。
部屋の明かりを消してソファーに座ってテレビをつける。
音を絞って五月がしているであろう行動を倣ってみた。
時計の秒針が聞こえる。
テレビの向こうは楽しそうに笑っている。
腕を組んで目を閉じる。
うとうととしているとがたん、と音がしたのに気付いて目を開いた。
「…あーあ、起きちゃったか」
「…うの…?」
「?」
何だ、と呟く声がして力が抜けるのが見えた。
「何、奥さんだと思ったってか」
そう指摘すると慌てたように目が合った。
図星だったようでまたすぐに目が逸れる。
「ほら、寝ろ」
「…」
背中を押して寝室まで誘導するが、その足は重くベッドに入る気配もない。
「ベッド、貸すから…俺、テレビ見るし」
「…」
そう言いながら部屋を出て行こうとする腕を掴んだ。
「…、」
「いつまで引きずってんだよ」
「…え?」
「もう帰って来ねえってわかってんだろ」
「!?」
そのままベッドに押し倒した。
暗闇で顔は見えない。
額を付けて鼻先が触れると、息を詰めた音がした。
恐怖で両手はガードをするように胸の前に動き、全身が強張っているのがわかる。
「とっとと忘れろ。ちゃんと寝てちゃんと食え」
「…」
「じゃないと力任せに眠らせるぞ」
「…ちから、まかせって、…!?」
下半身に宇野の手が伸びる。
その手を掴もうと手を伸ばしたが力では敵わず下着越しにやわやわと揉まれた。
「…ひ…、っ!?」
「体力なくなって、頭空っぽになれば、よく眠れるんじゃねえの?」
「…やめ…、」
掠れて震える声が耳に届く。
耳に鼻を近付けて舐めると引き攣った声がした。
シーツを握りしめる手を離して手を絡ませる。
そのまま抱き締めた。
背中を擦り、指同士を擦りつけながら親指で手を撫でる。
「…うの、」
「――」
強張る体が徐々に力を抜いた。
驚きが涙を誘ったのか、そのまま泣く声がする。
背中に腕が回り、縋りつくようにシャツが握りしめられた。
嗚咽がどんどん大きくなる。
――それでいい、
泣けばいい。
吐き出せばいい。
夢を見ることなく深く眠ればいい。
それがまた出来るようになるまで、自分は横に居ると決めた。

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