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好きな人が出来ました。2(pixiv_2015年6月29日投稿)

いわゆる情報屋、と加瀬さんは自分の仕事をそう言った。
俺と最初に会った時も警察が踏み込む為の最終確認の為にあの場に居たのだそうだ。
俺の事は潜入で入らせていたからと説明して事なきを得ていたらしい。

あの部屋は加瀬さんのダミーの部屋。
前に一緒に働いていた人が主にそこに住んでいたらしく、生活品が揃っていたのはその為で。
その人は潜入でちょっと顔がバレたらしいので海外に飛んでほとぼりを冷ましているらしい。

俺とセックスしてくれたのは『思い出作り』。
溜まってた自分の為でもあったと言っていたけど、多分俺のしつこさに免じてくれたんだと思う。
でもあの時には「情が湧いてたしな」とそんな言葉を聞いて思わず泣いた。

年齢は何と22上。
「親子でもおかしくねえんだなー」
と年齢を聞いたら加瀬さんがそう呟いていた。
弛んでいないその体を見ているから俄には信じられない。
でもあの日、俺を助けてくれたあの『大人』の姿に、心の底からほっと出来た。
それが積み重ねて来た年齢のものだとしたら、俺はこの人に惹かれるべきして惹かれた。

「若い子の未来潰しちゃいましたね」
加瀬さんの自称腹心、大神さんがにやりと笑って俺を見る。
その顔にむっとしていると、「若いならまだ元に戻れんだろ」と加瀬さんもその意見に乗っかって俺を見る。
夕飯でもどうぞと大神さんを誘ってテーブルに小鉢を並べていると、二人で肘を付いて俺をじっと見て来た。
「戻るってなんですか。俺は加瀬さんと添い遂げますよ」
「加瀬さんが死んでから若い子貰って子ども作れって」
「今からでも間に合うだろ」
「しつこいな! 俺は加瀬さんがいいんです!!」
笑えない。
全く笑えないその提案に俺もそろそろキレそうになる。
その顔を見て大神さんは笑顔で、加瀬さんは呆れた顔で溜息をついた。
「愛されてんなぁ」
大神さんが楽しそうに首を振って腕を組む。
「愛されてんねぇ」
加瀬さんが更に呆れた顔で目の前に並ぶ夕飯に目線を落とした。
「愛してますよ!!」
どん、と乱暴にテーブルに出来立ての玉ねぎを多めに入れた牛丼を置くと、加瀬さんは気にした風もなく木の匙を手にして食べ始める。
ちゃんと「いただきます」と手を合わせて。
それに倣って大神さんも手を合わせて食べ始める。
「俺も嫁欲しいなぁ」
「俺らの場合は俺が嫁になんのか?」
そう加瀬さんは俺に問いかけると俺は大きく頷いてみせる。
「かなりの姉さん女房ッスね」
「なー。何がいいんだかな」
「老け専なのかな?」
二人で俺をネタに話に花を咲かせていく。
「もー!! いいからとっとと食べて下さいよ! 食後の果物もあるんですから!」
「ホント、こんな嫁が欲しいわ、」
呟きながら大神さんが味噌汁を啜った。
俺がイライラしながら溜息を付いていると、加瀬さんが楽しそうに笑っているのが見えてふと肩から力が抜けた。
初恋は実らないらしいけど、俺は実った。
次の恋なんかない。
俺の一生かけて全うする、そんな人が出来た。
「加瀬さん」
「んー?」
「一生かけて、俺を選んでよかったって、言わせますから」
「…」
二人が俺を見上げる。
大神さんが「うわぁ、」と楽しそうに笑い、加瀬さんが「うわぁ、」と呆れて溜息をついた。

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