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そんな終わり、そんな始まり4(pixiv_2015年11月21日投稿)

「今度の週末で、三ヶ月、ですね」
「あぁ、」
いつものごとく個室で向き合って夕飯を食べていると、気まずそうに諫山が呟くように口を開いた。
今までの会話と何ら違いもなく受け答えをするその姿に、言った諫山の方が継ぐ言葉が浮かばず黙々と食べ続けるフカミチを伺うように見た。
「…答えは、もう、出てるんですか?」
控えめに問い掛けると、片肘をテーブルの上に乗せ体を前に突き出すようにしてみせた。
「お前は答え出てるのか?」
「出てますよ」
「そっか」
「…」
ふーんとばかりに視線を外したが、また何事もなかったかのように食べ始めた。
それからまたしばらく普通に会話をし、沈黙も苦痛でない時間を過ごし、会計を終えると腕時計に目を落とすのが見えた。
「んじゃあまた来週末なー」
くるりと身を翻すと、振り返ることなくフカミチは帰って行った。
その背中をぼんやりと見送り、見えなくなると思わず俯いて両肩が落ちた。

翌週は諫山の家にフカミチが訪ねて来て週末を過ごすことになった。
夕飯を食べ、テレビを見て、風呂に入り、少し酒を飲んでだらだらと時間を過ごしながら無意識に触れた。
指を絡めて、手を繋いで、凭れ掛かって居るうちに距離がなくなる。
肌寒いと思っていた外の空気も忘れる程の暑さに汗も滴り落ち、額に張り付く前髪を掻き上げてまた深く口付ける。
荒く乱れた息も熱も収る頃ベッドの上で抱き合って、微睡みの中を行き来しながら目の前にある体に腕を絡めた。
同じように背中に回された手は優しく包み込むように抱きしめているのに気付き、頭の上にある眠るその顔を見上げる。
その目は閉じられていて、もう眠ったのかもしれないとぼんやり思う。
「恋愛のピークって三ヶ月らしいぞ」
静かな声が聞こえる。
腕の中でもごもごと動いているフカミチを見下ろし、諫山が閉じていた目を開くと、見上げて来るその目と合う。
普段見るようなからかうような顔も何もなくそう言い放った顔は少し眠そうにまた目を閉じた。
「…だから?」
「後は下降の一途だろ。楽しいと思える今のうちに別れておくのが得策じゃねえの?」
「…それは、お互いの努力次第です」
そう言ってみても閉じた目はもう開かず、「俺努力嫌い」という言葉だけが微かに聞こえてそのまま体の力が抜けたのがわかった。
「…」
先程まであれだけ熱かった体は寒いぐらいになり、思わず目の前の体を起こさぬように気を付けながら強く引き寄せた。

『三ヶ月目の夜はどう過ごしたいか考えとけ』
週の真ん中にいつも通り絵文字も何もない簡潔なメールが来て、その文面を何度も追っているうちにもう終わりなのかもしれないと眼の前が真っ暗になる。
『フカミチさんちに行きたいです』
と送れば『わかった』とあっさり返事が返って来て、週末に会う約束を取り付けた。
先週末のベッドの上での会話を思い出すだけで気持ちが落ち込む。
フカミチも別に落ち込ませる為に言ったのではなく、そういうのは一般的に言われていることだとただ言っただけかもしれない。
しかしどうしても考えれば考える程に気分は落ち込んで、背中が丸まっていくのに気付いて思考を切り替えた。
出来るだけ背筋を伸ばし、気合を入れる為に両手で顔を叩く。
「…仕事しよう、」
俯いていた顔を上げて深く息を吐く。
声を聞きたい。
会いたい。
自分をからかって笑うあの笑顔を見たい。
――楽しいと思える今のうちに別れておくのが得策じゃねえの?
「…」
週末が早く気て欲しいような、怖いような気持ちが上下する中、約束の日が来た。

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