見出し画像

サッカーボールと絵の具 浮気②(pixiv_2015年11月17日投稿)

「どうします? 嵯峨野さんが女の人と浮気したら」
「またその話かよ」
苦笑いで槇さんが笑う。
以前の浮気話がなんとなく面白かったのでまた聞いてみた。
テーブルに突っ伏して腕を伸ばし、だらけた姿勢で、紅茶をいれて来てくれた槇さんを見上げる。
槇さんは正面に座ってゆったりとソファーに凭れ掛かって私を見た。
「…んー、相手が独身ならいいんじゃねえの?」
「えー?」
「家庭壊したとか言うなら俺も注意するけど、独身なら別に。法律上は何の問題もないわけだし」
「槇さんの気持ちとしては」
「…今言った通りですけど」
「えー!?」
どうせだったらぐずぐずに泣いて欲しい。
俺の事もう好きじゃないのかよって取り乱して欲しい。
と、槇さんに言ったら更に苦笑いで引かれた。
「でもなー、」
腕を組んで少し天井を見上げる。
「嵯峨野のあの遺伝子残せないっていうのは何となく惜しいよなー、」
「それだけ?」
「それだけ」
「浮気許せて、出来れば誰かに嵯峨野さんの子ども産んで欲しいってことですか」
「そうだねー、」
「…」
あっさり頷くその思考回路がホントに理解できない。
それが顔に出ていたのか槇さんが笑う。
「男と女の考えの違いなんじゃねえの?」
「…うーん?」
「俺はどうしたって子どもなんか産めないし、お前はどうしたって産める機能がある。だからこそ相手しっかり選んで、その人の子ども産もうって決意して、10ヶ月も自分の腹の中で育てて、命懸けで産んで育てるわけだから、男側から見る浮気と女側から見る浮気は重さが違うんだろうな」
「…あー、」
「いい男探せよ?」
浮気されてる場合じゃねえぞと念を押される。
大丈夫です。そいつとは別れたんです。
何か達観して信じ合っている二人を見ていたら、もっと私を愛してくれる人を探そうと思ったんです。
そう唸るように告げると槇さんが笑った。
「子ども欲しいんですか?」
「んー、その選択肢もあったら楽しそうだよな」
そう考えている姿はナチュラルで。
必死さも渇望もないようにみえる。
でもいざそういう場面に遭遇して、誰かの父親になるとしたら、きっとこの人は良い父親になるんだろうなぁと思う。
嵯峨野さんも。
この二人の間で育つ子は、どんな子になるんだろう。
「…んじゃあ、いざという時は私、嵯峨野さんと槇さんの子ども一人ずつ産みます」
そう言うと、槇さんは一度爆笑して、「おぉ、そうしてくれ」と楽しそうに私を見下ろした。
「…パパ二人とママ一人の複雑な家庭になりますけどね」
「いいんじゃね?」
「そしたら私この家に住めますかね」
「部屋は空いてるからいいぞ」
そんな話をしていると、遠くで嵯峨野さんの声がした。
槇さんがその声に応えると、間もなく嵯峨野さんが部屋を覗き込んで来た。
「ただいま」
「おかえり」
いらっしゃいという笑顔を机に突っ伏したまま見上げる。
「こいついざとなったら俺らの子ども産んでくれるって」
「おぉ、ホントに」
楽しそうに笑う顔を見上げながらいれてもらった紅茶を自分に引き寄せる。
マグカップを両手で包んで二人を見上げる。
不思議な感覚のまま、話は呆気なく打ち合わせに移行した。

.

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?