見出し画像

サッカーボールと絵の具 晴れと雨(pixiv_2015年6月28日投稿)

槇晴跳。
俺が生まれる一週間前から前が降ったり止んだりの天気が続いていたそうだ。
予定日を過ぎても生まれる気配もなく、どうしたものかねという話になって。
ある日、からっとぴかっと晴れ渡った日、急に産気付いて俺が生まれたそうだ。
しかもかなりの安産で。
その翌日からまた雨の日々で。
晴れの日に跳ぶように生まれたから、晴跳。
名前の由来としては単純だと思うが、生まれた時から俺っぽいと思った。

晴れの日は俺の日。
そんな事を口にするわけではないが、何となく晴れの日は俺の日だった。

高校で友人が一人増えた。
嵯峨野降。さがの、こう。
雨の日に生まれたそうだ。
熱い日が続いて雨が降らず、うんざりするような日々が続いていて、産気付いた時にまるで呼ばれるように雨が降ったのだという。
暑かった世界は冷えて、夏なのに冷たい空気が気持ちよかったんだよ、と昔誕生日になる度に言われたらしい。
だから雨はあいつの日。
あまり好きじゃなかった雨の日が何となく好きになった。

仕事が終わり、あとは寝るだけという時に雨が降っている音に気付いてぼんやりと外を眺めていた。
あいつは今海外。
個展を開催しているらしく、ここ数ヶ月会っていない。
久し振りの雨の音。
携帯を取り出して撮り溜めた写真を見る。
何となくほっとしてそのまま眠気が襲って来た。
雨の音は癒しの効果があるらしい。

嵯峨野降。
雨の日に生まれたらしい。
日照り続きの毎日に嫌気が差した頃、世界を冷やすような雨が降り、その日に生まれたらしい。
雨はみんな憂鬱になるけど、そんな憂鬱な日でも今日は俺の日と前向きに生きろと言う由来で付けられた。
前向きにねぇ、とさして興味もなく聞いていた。

高校で友人がひょんな事で出来て。
そいつの名前に晴れの日が付いていた。
後からその漢字を見たのだが、「あぁ、そんな感じ」と納得出来る名前で。
雨の日は俺の日らしいけど、晴れの日も俺の日になればいいと思えた。

そんな出会から数年後。
海外に一週間目。
日本と違ってからっとした空気が心地いい。
見慣れた風景じゃない風景。
匂い、人、目に止まるもの全部、未だ慣れずに面白い。
見上げて真っ青な空が頭の上に抜けるようにあると、槇を思い出す。
こんな日に生まれたんだろうなぁと俺の知らない時代に思いを馳せてみる。
晴れの日には、幸福感や満足感が上がるそうだ。

.

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?