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あなたの知らない街

わたしが、どこに住んでいて

どんな職について働いていて

誰と一緒に日々を過ごすのか

ママは、わたしに関心がなかった。

海の目の前に、住んだことがありますか?

誰にも話せないことを

何度も、何度も、永遠と繰り返す

波の前で過ごしました。

わたしの人生は、少し不思議で

たまに、知らない人が

ふらりと現れて助けてくれはするけど

やっぱり飽きて、みんないなくなります。

けど、わたしだって

ある日とつぜん、世界一周に出かけて

すきな国をすきなだけ旅したら

誰も知らない所で、消えてしまいたい、って

計画していたくらいだから

それくらい薄情な方が

ちょうどいいかもね。とも、思う

そんな私だけど

ほうれん草の胡麻和えを作るたび

あなたと同じ味、と不思議な気持ちになる。

みりんたくさん、お砂糖たくさん、お醤油少し。

卵焼きは甘かったっけ、しょっぱかったけ。

そんなことも、もうどうでもよくなっちゃった。

ねぇ、海の前に住むと朝の空気が冷たいんだよ?

でもわたし、この町のことがすごく好き。

知ってる人もいないけど問題ないよ。

坂が多すぎてヒールの底がすり減るけど

あちこちにアイスクリーム屋があって最高なのさ。

カフェに入ったら、都会の人?って聞かれて

大笑いしちゃった。

あなたが教えてくれたより、私はずっと強い女だったとおもうの。

細いヒールの白い花模様のサンダルで

自由に歩けるようになってしまったわたしは、

同じ家に住むことを

すこしずつ、少しずつ

諦めるようになって

人の家、もしくはホテルに一人

転々と、暮らしています。

世界中、どこを探しても

代わりの効かない大切な人から

ぞんざいな扱いをうけていると

無意識のうちに、どんどん

自分のことも、忘れていくような気がします。

どんな食べ物がすきで

どんな会話をして、すごしていたのか

今はもう、全く思い出せなくなりました。

なにも、希望がなくて

ただ、春に咲く桜の花のことだけを

うっすらぼんやりと考えています。

叶わなくても

しずかに、祈りつづけていて

ただ、今はもう、とても疲れました。

また、私は、誰にも知らせることなく

遠くへ来て、1日中歩いて、疲れ果てて

さえない駅前のホテルで眠るところです。

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