高速道路で車がパンクした話

友達と4人で木曽駒ヶ岳に行こうと思っていた。
が、辿り着けなかった。車がパンクした。

私と、私がやっているYouTubeの相方のジュン、そして私たちの友達2人との旅だった。
3連休、本当は4人で東北へ登山旅行へ行く予定だったんだ。
早池峰山まで北上し、翌日休憩を挟んで最終日に月山へ。
緩めの登山を3日間の中に二回詰め込み、関東よりも少し早い東北の紅葉を味わうプランだった。

しかし、不安定な秋の空。当然3日間気持ちのいい晴れとはいかない。
土曜も日曜も結構なぐずり模様の空、月曜日だけはなんとか晴れそう、ということで、旅行は規模を縮小して、月曜日の日帰り登山に変更された。
その時点で宿のキャンセル代が少しかかってしまうくらいの日程だった。
私たちは、こういう直前の山変更をしょっちゅうする。
何としても、日本列島にかかった大きな雲の隙間の、わずかな晴れに齧り付きたい。


そうして向かうこととなった木曽駒ヶ岳。
4人で登るのはもう5回目以上だが、2人とも私とジュンほど登山に馴染みがあるわけではない。
そのため2人と登る時は、なるべくサクッとお手軽に綺麗な山をチョイスするようにしている。
それで今回は、木曽駒ヶ岳だ。

標高2900mを超える木曽駒ヶ岳は、バスやロープウェイを駆使して、自分の足で登る距離が最短になるよう機械の力で運んでもらえる山だ。
ロープウェイを登った先の千畳敷は、全く汗をかかずに高山植物や下界の暑苦しさから解放された空気を楽しむことができる、貴重な場所。

当然観光客にも溢れているが、スニーカーでお花畑を見に来た観光客を尻目に、「俺らはもっと先の景色を見に行くぜ」とドヤ顔をしながら、最高峰、宝剣岳を目指す。
途中、テント場があるので、余裕のあるコースタイムのなかで山ご飯を楽しむ余裕と広さもある。
とにかく、初心者ハイカーが山を楽しみつくすにはうってつけの場所なのである。

久しぶりの4人での登山。張り切っていこう。
私たちは2人で山ご飯の計画を立てた。
メニューは前回の登山の時と被るが、その時に味わい尽くせなかったので煮込みハンバーグにしよう。
今回はチーズもパンもつけてもっと豪華にしよう。
デザートは何か秋らしいものがいい。キラキラのシャインマスカットにしよう。

それぞれの持ち寄るものの分担を決めた。
なんせ旅行に行く予定だったため、月曜に向けて山の準備をする時間は十分にある。
私は日曜に地元の商店街に出向き、八百屋を何軒か回って、1番大粒に輝いていたシャインマスカットを購入した。


木曽駒ヶ岳のロープウェイは、事前に予約ができるらしい。
ジュンに予約をしてもらった。バスとロープウェイ代合わせて、1人約五千円。
なかなかリッチな旅だ。
同行の友達に、「今回は機械の力で上まで運んでもらって、お手軽にいい景色を見る旅なの…だからお金の力が結構働く」と言ったら「最高じゃん」と言っていた。
つまり、前回の男体山が相当きつかったと、つまりそういうことだ。ごめんね。

ロープウェイの予約は事前にジュンが行ってくれた。いつも先回りして考えてくれて本当にありがたい。
時間の予約を入れる項目がなかったので、きっと時間の指定がないのだろう。
始発は5時15分とのこと。うーん早いね。駐車場300台。きっとすごく混むね。
なるべく早く着いていたいから、始発を目指そう。

ということで、東京を2時に出発することとした。はえー。

車を出してくれる友達に2時発であることを伝えたら驚愕していた。
2時はもう前日だよ…?とのこと。私もそう思うが、これは決めの問題。


日曜日はお昼寝をしたし、22時くらいに寝られたので、合算睡眠時間5時間くらいにはなって、シャキッと起きる事ができた。
みんなで集合して、いざ!木曽駒ヶ岳へ。


と、車を出してくれた友達が、何やらそわそわしている。
「大丈夫かな…心配だな…」と。

聞くと、この車、先週左の後輪がパンクしているらしい。
釘がガッツリ刺さっていたんだそうだ。


今週のこの旅があるから、元々する予定だったタイヤ交換の時期を早めようとしてくれたらしいのだが、適切なタイヤがなく、来週末に延期になっていたのだそう。
そしてパンクしたタイヤは修理してもらっている状態。
整備士さんに今回の旅の概要を伝え、「高速のるし長野まで4人で往復するんですけど大丈夫ですかね?」「本当に大丈夫ですかね?」と確認し
「大丈夫っす。」という返答をもらったのだ、とのこと。

ちょっと心配はあるものの、
きちんと修理してもらっているし、「大丈夫っす」と言われた言葉を信じよう。
何かあったらすぐに停めようね
という話で、私たちは東京を後にした。

夜中の中央道で、長野へ向かう。

この時間走っている人たちはなんなんだろう。
ものすごく夜更かしな人か、私たちと同じくものすごく早起きな人か、ものすごく働いている人か。
長野まで行くというのに、眠たいせいでテンションの上がりきらない車内で、宇多田ヒカルを流してもらって、高速道路を滑るように運転していた。
いつも山に向けて出発する時、明るくなる東の空を見て「今日も晴れそうだな」って思うのだけど、真っ暗すぎて、晴れるのかどうか見当もつかない。
当たり前だ、2時はまだ「前日」なのだから。


宇多田ヒカルの透き通った声と、ハイビームをしても問題ないくらい車とライトが少ない高速道路はよくマッチし、ふわふわした気持ちで山梨県へ突入。
運転は私がしていた。

宇多田ヒカルに飽きたころ、「別の曲にしてほしいな」と友達に頼んだら、
槇原敬之の「僕が一番欲しかったもの」を流してくれた。
いいじゃん、と私が言うのと同時に、車は笹子トンネルに突入した。

トンネルを入ったあたりで、車に大きく異変を感じ始めた。

ガタガタする。

車体が低いせいで、元々振動を感じやすい車なのだが、その比にならないくらいガタガタする。
これは完全におかしい、ということで、いつでも止まれるように左車線によった。
ただここはトンネル内。ちょうどよく路肩やサービスエリアが見当たらない。
とにかくギリギリの速度で進んで、なんとか次の停車位置を見つけるしかない、と思った瞬間、

ガタン!!!!

と大きく車が揺れた。


やばい、停めよう!!!
車をゆっくり減速させ、左車線の脇に停めた。
一旦ハザードをたく。
後ろで寝ていた友達も起きていた。


時刻は3時台。まだまだ車は少ないものの、隣をビュンビュンとトラックが通り過ぎていく。
車内に取り残されてしまった私たち。音が。音が怖すぎる。
トンネルの中と言うことも相まって、反響した走行音がより不気味に感じる。
いつ衝突されてもおかしくない。

友達が発煙筒を焚いて、車の後方に置いた。
車の持ち主がJAF会員なので、JAFに連絡。
救出の要請と、この場の対応を聞いた。

全員すぐに車を出て、車から少し離れた場所で待機してほしいとのこと。
全員、助手席側から、路肩に登り、車から離れた。
路肩の手すりは、錆きっていて、触れたところが真っ黒になった。

1時間ほどで救助に向かうとのこと。こんな時間に申し訳ない。


…と、ドキドキしていたのも束の間、ハプニングが。
発煙筒が切れた。

どうやら発煙筒は数分しか持たないらしい。
そりゃそうだ、花火みたいなものなんだから。

ハザードは炊いているものの、万が一追突されたらどうしよう。
車が大破して、相手の運転手さんが怪我や死んでしまうなんて事があったら。

そう考えると怖くて、対策を考えるしかなかった。
調べてみたら、車の中にコーンのような発煙筒が切れた時の代替のものが収納されている事があるそうだ。電波のある場所でよかった。

ただ、それを調べるには、車に戻って近づかないといけない。
…怖い。


車どおりが少ないタイミングを狙って、トランクを開けた。
後ろを確認するひと、トランクの中身を確認する人で役割をわけ、死ぬ思いでコーンを探した。
コーンは見つからなかった。

下に降りたので、ついでにみんなのザックを取り出した。
山に行く気まんまんだったんだな、っていうザックを4つ取り出し路肩に投げ置いた。

ジュンともう1人が、ヘッドライトやソーラー電池のライトを点滅設定で車の後方2箇所に置いてくれた。

これがとてもよく、遠くから見ても点滅と、それが緊急事態を表していることがものすごくよくわかった。
これで、衝突されてしまう心配は一旦ないだろう、と安心することができるくらいの応急対応だった。

とりあえず、車からそこまで離れすぎないところで、
でも安全な場所で待機、とのことだったので、
数10メートル後方にあった非常口の近くに移動することにした。

非常口は右側にあったので、移動するには2車線を一度越えなければいけない。車が全く来ないタイミングを見ているとはいえ、なかなかのスリルだった。

非常口の扉を開けると、今自分たちがいる場所がどこなのかわかった。
入り口から2200m。出口まで1900m。つまりちょうど真ん中だ。
簡単に逃げられない場所に停まってしまったのだということがよく理解できた。


こんな時にもお腹は空くようで、ジュンが朝ごはん用に握ってきてくれたおにぎりを食べた。
友達2人は、「今は大丈夫かな」と言っていたので2人で食べた。
優しい味だった。

非常口のスペースにいると、右側を通過してくる車が目の前を通るので、そのスピードに圧倒された。
こんなの、ぶつかったら確実に死ぬ。
人の力で動かしているものだけど、人の力でどうにも敵わないパワーを体感し、また怖くなった。

非常口に移動して、10分も待たないうちに、サイレンを鳴らしながら車が近づいてきた。
黄色い車だ。「ハイウェイパトロール」と書いてある。
今まで、気に留めたことがなかった高速のパトロールカーが、こんなに心強いものなんて知らなかった。
私たちのために出動してくれたパトロールカーは、私たちがずっと心配していた後方からの衝突を避けるべく、かなり距離をとって大きく電光掲示板を掲げて停車し、さらにその奥にカラコーンを並べた。

お馴染みのオレンジ色の服の隊員が降りてきて、手際よく状況を確認すると、とにかくテキパキと何かの作業を始めた。
私たちは安心して、左側車線の側道に移り、隊員さんに「決まりなので」と渡された黄色いベストを着た。
圧倒的に強いものに守られている感覚を得て、張り詰めていた緊張感が少し解けた。
ベストを着て「今どき逆におしゃれじゃない?これ」「一周回ってダサい」「一周回ってかっこいいじゃなくて!?」と少し冗談を言う余裕ができた。時間があったので、一応写真を1枚だけ撮った。


そこからまた数分、JAFが現れた。1時間待つという話だったが、もっともっと早かった。
とにかくすぐに対応してくれたという印象。みなさんとてもかっこよかった。
私が少年なら、将来の夢はハイウェイパトロールになると言うだろうし、婚活中ならハイウェイパトロールの人と結婚したいわと言うだろう。
そのくらい正義のヒーローだった。


JAFの人が到着されてから、車に乗り込んでシートベルトを閉めるように指示された。
どうやら車ごと高速の外に運んでくれるらしい。
車の中にいながら、車に乗せられるのは初めての体験だったので、ドキドキした。
友達は横揺れが怖いと言っていたが、私はJAFやパトロールの心強さに心打たれてしまっていたので、100%身を委ねる事ができ、リラックスして運ばれていた。横揺れすらも心地よかった。

高速を出る時、ちょっと失礼しますね、とJAFの方が運転席からETCカードを抜いて精算していた。
「こんなことになっている時点で絶対に目的地に辿り着いているわけないのに、ちゃんと交通費は取られるんだな」とちょっと思った。ごめんなさい。


ここで作戦会議。この後の対応は2択になるそうだ。
1つは、このままJAFに車ごと担がれて、東京の整備士のところに戻る。しかし、800円/km。東京まで戻るとすると、10万くらいかかる。4人で割ったとしてもなかなかの額だ。
もう1つは、ここから一番近いオートバックスに運んでもらい、10時の開店を待つ。タイヤを変えてもらって、そのまま車で帰るorもしタイヤがなかったら、車を置いて電車で帰る。だ。

車ごと担がれて東京まで戻るのは正直楽しそうと思ってしまったが、料金が半端ないので現実的ではない。10時まで待たなければならないが、後者を選択するのがベターだろう。
と言うことで意見がまとまった。
途中のエネオスにたくさんタイヤが積んであって、絶対この中に合うやつあるだろ、と思っていたら、ちゃんと寄ってくれて、ちゃんと確認してくれて、ちゃんと合うものはなかった。残念。

オートバックスまで運ばれた時刻は5時前。空は少しずつ明るくなってきていた。
近くにすき家もあるし、ローソンもファミマもあるし、バーミヤンもあるじゃん。
公園もあるよ。なんでもできるね。
と、オードバックスの駐車場ではしゃいだ。車の持ち主だけは落ち込んでいた。

続く。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?