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夜は短し歩けよ乙女

本の持つ力は、とても不思議です。

運命の1冊と出会うと、
価値観が大きく変わるだけではなく、人生の風向きまでも変わってしまう…。
そんな摩訶不思議なことも、
起こりうるようです。

『更級日記』の作者・菅原孝標女が、『源氏物語』を読み、京の都にあこがれていたのと同じように、
播磨国の小さな田舎町で生まれ育った私の中の、「都人になりたい願望」にさらなる火をつけた書籍がありました。

森見登美彦さんの『夜は短し歩けよ乙女』です。

高校生の頃から愛読しているので、
もうぼろぼろです。

物語の内容を簡単に説明致しますと、

京都の某国立大学に通う
好奇心旺盛でチャーミングなソロ活ガール「黒髪の乙女」と、
彼女にほのかな桜色の想いを寄せるも、上手く距離を縮められず、「永久外堀埋め立て機関」と化しつつある、不器用な「先輩」による、
楽しくて素敵なキャンパスライフを描いたお話です🍎🥂🌙

もしかすると、いわゆる「恋愛小説」に分類されるのかもしれません。

ですが、一般的な恋物語とは異なり、
『夜は短し歩けよ乙女』の世界はかなり独特で、
謎の高利貸し「李白翁」
天狗を自称する年齢不詳の男「樋口さん」
酔うと手当り次第に人の顔を舐めようとする怪しい美女「羽貫さん」
「古本市の神」「学園祭事務局長」「詭弁論部」などなど…
奇天烈な人々が、沢山出てきます。

そして、物語を彩る摩訶不思議であり尚且つ魅惑的な小道具の数々(「〝偽 〟電気ブラン」「ラ・タ・タ・タム」「韋駄天コタツ」「ジュンパイロ」「緋鯉のぬいぐるみ」…etc)

京の街で繰り広げられる、四季折々の面白イベント(春の木屋町での飲み比べ、夏の下鴨納涼古本祭りでの激辛火鍋大会、秋の学園祭でのゲリラ演劇「偏屈王」と「プリンセス・ダルマ」、李白風邪が蔓延する冬の京都を舞台にした乙女のお見舞いクエスト)

まるで、おもちゃ箱をひっくり返したかのようなとっても賑やかな世界観ですので、
「恋愛ファンタジー」と呼ぶ方もいます。

私はこの小説に出てくる
「黒髪の乙女」がとっても大好きなのです。
たくさんいる、憧れの女性たちの1人です。

彼女は作中で「乙女」と記されるのみですので、大変残念ながら本名は不明なのですが…。
京都の某旧帝大のとあるクラブに所属しており、
地方を離れて、一人暮らしをしている女子大生です。

幼い頃から本をよく読み、
「二足歩行ロボット」のステップを踏んで夜の木屋町を飲み歩き、鰻のようにのらりくらりと「詭弁踊り」を踊り、
秋の学園祭では射的の屋台で撃ち落とした巨大な緋鯉のぬいぐるみを背中に括りつけてキャンパスを闊歩し、「パン食連合ビスコ派」のデモ行進に参加する。


そんなユニークな彼女ですが、
意外なことに、底無しにお酒が強く(夜の木屋町で怪しい高利貸しと偽電気ブランの飲み比べをして勝利を収める)、
好奇心があまりにも旺盛なため、
周りの目を気にせず、どこへでも1人でお出かけできてしまう強さを持っております。

私が思う、黒髪の乙女の1番の魅力が、
彼女の持つ、瑞々しい感性です。
黒髪の乙女は、何事に対しても、「面白い!!」「楽しい!!」と、素直に感動できてしまうのです。

実際に作品を読んでいただくとよくわかるのですが、乙女は喜怒哀楽の感情を言葉にして表すのが、とっても上手です。
本当に、素直。

乙女のように、目に映るひとつひとつの出来事に、素敵な部分を見つけて、
自分の気持ちを大切にして生きていられると、
すごく人生が楽しいのだろうなあ〜と、私は思っています。

そんな素直な黒髪の乙女だからこそ、
1人でお出かけした先々で、(本人も知らぬ内に)「主役」の座を射止め、
樋口さんや古本市の少年、李白さん等を初めとする、
たくさんの面白い人達と楽しいひと時を過ごせるんだろうな。と思うのです。

この小説を読み、
「黒髪の乙女」の魅力に取りつかれた高校時代の私は、
ますます都への慕情を募らせ、
大学受験戦争の前線に赴き、
地元の私大を蹴って、京都の母校を選びました。
執念で、黒髪の乙女が住む世界へ足を踏み入れたのです。

大学生活は不安でしたが、
有難いことに沢山の素敵なご縁に恵まれ、「黒髪の乙女」のようなキラキラした楽しい大学生活を過ごせました。(大変幸運なことに、私はお酒が強い遺伝子を持つ家系に生まれたようなのです!!)

さてさて、夜の繁華街でお酒をがぶがぶ飲み、その時の自分にとっての面白い事に「無我夢中」で、「男女の駆け引きにまつわる鍛錬を怠ってきた」黒髪の乙女と私。

彼女と私の間には、決定的な違いがありました。

男運。ひいては、男を見る目です。

黒髪の乙女に想いを寄せる先輩は、
いわゆる「腐れ大学生」として描かれている冴えない青年ですが、
自分の価値観を無理矢理他人に押し付けない優しさを持つ、
不器用だけれど、憎めない、真面目なキャラクターです。

物語の中で、「先輩」が乙女の背中を見つめる眼差しは、とても温かく、
乙女が幼少期に紛失した絵本(『ラ・タ・タ・タム』)を手に入れるために、危険な火鍋大会に挑む所なんて、
とっても素敵だなあ…と、私は思うのです。

恋愛のこと、よくわかりませんし、
今まで痛い目を見てきたので、
自分らしさをちゃんと掴めるようになるまで、しばらく天岩戸に隠れておこう。と、心に決めて修行に挑む日々を過ごしているのですが、

もし、何かの間違いで、私にも、素敵なご縁が訪れる奇跡が起こるのだとしたら、
『夜は短し歩けよ乙女』の「先輩」のように、
「路傍の石ころ」と化しながらも
私の感性を否定せず、
さりげなく危機を救ってくれる…。
そんな人となら、
ずっと一緒にいても、
自分を失わずにいられて、楽しいのかなあ、と
ぼんやり、この頃思うのです。

はあ、moon walkでお酒を飲みたい。

『夜は短し歩けよ乙女』の舞台版があるのですが、
私の推し・乃木坂46 3期生の久保史緒里ちゃんが、「黒髪の乙女」を演じておりました。大好きな女の子が、大好きな女の子を演じるなんて、あまりにも夢のような話でした。
舞台のパンフ。「黒髪の乙女」と言えば、林檎と赤。私の頭の中で思い描いていた「黒髪の乙女」が目の前で動いていて、とっても嬉しかったです♡
円盤も買いました!!!
「あなたは一体推しが何人いるんだ」問題に関しては、深く追求しないでください…。たくさん、います…。日々、増えています……。皆平等に、深く愛しております。(そう思うと、女の子に生まれて良かったです。もし光源氏だったらこの世から消されてました。)