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身体活動の「シン基準・指針」は、最新エビデンスやセグメントした啓発で、どう変わり、どう伝わるのか

6月26日開催の「第1回健康づくりのための身体活動基準・指針の改訂に関する検討会」を傍聴しました。
「第1回健康づくりのための身体活動基準・指針の改訂に関する検討会」資料

身体活動基準・指針の改訂が始まりましたね。

第1回なので、事務局からの本検討会の方向性と論点、澤田亨構成員から元となる研究事業の説明、そして以降は、改訂に向けての論点を中心にオープンディスカッションという構成でした。座長は、日本整形外科学会理事長・九州大学教授の中島康晴先生です。

●健康日本21(第二次)の評価では、国民の「歩数」「運動習慣」は変化なし

健康日本21(第二次)における12年間で「歩数」も「運動習慣」も変化がなかったという評価となりました。データを見ると、歩数は、増えるどころか、減ってきているのでは、とさえ感じます。成人女性の運動習慣の少なさも気になります。

資料1 「身体活動・運動に関するこれまでの取組について」P5

2024(令和6)年度よりスタートする健康日本21(第三次)では、「歩数」「運動習慣」など身体活動・運動分野の目標は、下記になります。

資料1 「身体活動・運動に関するこれまでの取組について」P7

現状を踏まえ、健康日本21(第三次)のコンセプトでもある「実効性(Implemenation)」「誰も取り残さない(Inclusion)」を踏まえることに重点を置いた指針・基準づくりとなりそうです。

●前回積み残した課題と、研究事業への展開

前回の「運動基準・運動指針の改定に関する検討会 報告書」 (2013年)で

「8.おわりに 今後、こどもの身体活動基準、高齢者の運動量の基準、座った状態の時間の上限値、全身持久力以外の体力(特に筋力)の基準等について、科学的根拠をもって設定できるよう、研究を推進していく必要がある。〜〜」

運動基準・運動指針の改定に関する検討会 報告書 令和5年3月

といった積み残した課題が記載されており、これを受けた研究事業が行われ、下記の研究成果が、研究代表者でもある澤田亨構成員から報告されました。今回の改訂では、下記内容が反映されることになりそうです。
ちなみに、前回のアクティブガイドの内容はエビデンスが確認され、継続した啓発がされるようです。

○成人に関して、新たなエビデンスを確認しても、これまで同様に身体活動基準2013の基準値やプラス・テンを継続することが有益であることが確認された。 ○長時間の座位行動が健康リスクであることを確認した。 ○筋力トレーニングが健康にとって有益であることを確認した。 ○成人や高齢者において、身体活動量と健康リスクの間に負の量反応関係があることを確認した。 ○子どもや青少年において、身体活動推進や座位行動の減少が有益であることを確認した。 ○高齢者において機能的なバランスと筋力トレーニングを重視した多様な要素を含むマルチコンポーネント運動(マルチコ運動)の効果を確認した。 ○慢性疾患を有する人にとっても身体活動推進が有益であることを確認した。
資料3「ガイドライン改訂に向けた研究班のとりまとめ」P26

研究事業の報告書はコチラに
厚労科研「最新研究のレビューに基づく「健康づくりのための身体活動基準2013」及び「身体活動指針(アクティブガイド)」改定案と新たな基準及び指針案の作成」

●「改訂に向けた論点について」のフリーディスカッション

研究事業を踏まえて、事務局にて「改訂に向けた論点について」として下記の5つの論点が提示されました。それぞれの論点の詳細は資料4にまとめられています。

【論点1】属性等を踏まえた構成について
【論点2】「座位行動」の取扱について
【論点3】「筋力トレーニング」の取扱について 
【論点4】「マルチコンポーネント運動」の取扱について
【論点5】こどもにおける推奨値について
 

資料4「改訂に向けた論点について」


ここからは論点について構成員の発言で気になったところを
(事務局や澤田構成員から回答もありましたが、今回は議論という点で発言のみ記載しています)

【論点1】属性等を踏まえた構成について
簡潔にわかりやすく、3つ折りリーフレットという構成など、工夫を凝らした前回の指針「アクティブガイド」でさえ、認知度はあまり変わらず15%程度。
より実効性のある取組(Implemenation)、誰一人取り残さない (Inclusion) という点から、認知度を高める手立てとして属性ごと、具体的には、こども、働く人、高齢者、慢性疾患を有する人の4種リーフレットなどの構成をイメージしているように感じました。

○前回のアクティブガイドは「生活習慣病予防」というアウトカムが明確だったが、今回はセグメントすることで、アウトカムがぼやけてしまうのでは。
○セルフチェックなど、自分ごとと感じる仕掛けが必要ではないか。
○心身の障害のある人などへの情報が必要では。
○慢性疾患を有する人については、各学会のものと整合性を。
○大前提となる「誰にとっても身体活動が大切であること」をしっかり伝えることが大切。

【論点2】「座位行動」の取扱について
○座位行動という言葉がわかりづらい、また、座位時間を中断して立ち上がりさえずればよいという、身体活動へのモチベーションを下げる可能性や、車いすの人など座っていることが多い人へ誤解がないように、表現の仕方や伝え方に注意を。
○リモートワークが増えた人、ゲームやネットをみすぎる子どもなど、属性に応じた「座りすぎ」へのメッセージが必要ではないか。

【論点3】「筋力トレーニング」の取扱について 
○筋力トレーニングは心血管疾患・糖尿病予防だけでなく、健康長寿によいという、日本らしい表現を入れては。
○示されたデータはリスクがV型になっており、筋トレのやりすぎについても記述すべきでは。
○強度について提示しないのか。

【論点4】「マルチコンポーネント運動」の取扱について
○ラジオ体操やご当地体操などは、マルチコンポーネント運動か。今までの運動とマルチコンポーネント運動をどのように扱うのか。
○「マルチコンポーネント運動」の定義を。

【論点5】 こどもにおける推奨値について 
○こどもの身体活動は両極化している。運動時間は「60分以上」だけでなく「○○分以下」も入れるべきでは。

●検討会を傍聴して

今回の議論は、改訂全体についてのためか、「健康づくりのための身体活動指針(アクティブガイド)」と「健康づくりのための身体活動基準(運動プログラム?)」と一緒の議論となったため、どちらにどこまで記載するのかが、少しわかりづらく感じました。
澤田構成員からは、一般向けは「アクティブガイド」、専門職、政策立案者向けは「身体活動基準」。
目的も「アクティブガイド」は国民の元気・幸福感、「身体活動基準」はアウトカムとお話しいただきました。
ここらへんが、次回以降に具体的なものが出てくると、すっきりと理解が進むかと思いました。
啓発への新しい試み、そして座りすぎや筋トレなど、新しいエビデンスが加わった「シン指針・基準」はどう変わるのか、楽しみにしています。

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ただ、こどもの身体活動の議論で、「こどもは、健康づくりのためでなく、運動したくなるようにすることが重要」という話を聞きながら「いゃあ、大人も同じじゃないかなあ」と思う私でもありました。

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