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バイト先の先輩は、吃音だった。
Sさんとの出会い
数年前、私がキッチンのアルバイトをし始めた時のこと。
初日に店長に迎えに来てもらい、会話しながら店に向かっていると
「キッチンのSさんは話し方に特徴があるねん」
「きつおん、って知ってる?」
…知ってます。笑
服を着替えてキッチンに入ると、Sさんがすでに働いていた。Sさんと初めての挨拶を交わす。
それがSさんとの出会い。
Sさんは、誰がきいてもどもっているとわかるくらいすごく連発。
30代、この飲食店で10年ほど勤めているそう。
連発吃音でも悩んでいない?
飲食店のキッチン業務は、時間との闘い。
でもSさんは忙しい時間であっても1つ1つの作業を丁寧に私に教えてくれた。
説明をしてくれる時いつもどもっているけど、コツや注意点が明確でとても分かりやすかった。
泡だて器で豪快に粉を混ぜるSさん。
たくましい腕が印象的…
Sさんは吃音に悩んでいないのか?
吃音があっても気にしていないのか?
そんな疑問が湧いてきた。
初日にSさんに私も吃音だということを話そうとしたが、忙しい時間にのまれ、タイミングを失う。
それから結局Sさんがその飲食店を辞める数週間前まで、「私も吃音である」ことを言わないことになる。
逃げない”かっこいい”姿
Sさんはおそらく話し好きで
他のバイトさんや社員さんとよく会話していた。
口元に付けたマスクが連発でどもってよく動くけど、いつも笑顔。
キッチンの業務であっても、接客の機会はある。
・客の入退店時の挨拶
・新しいドリンクや料理を入れた時にホールの人に聞こえる声で伝える
・オープンキッチンのため客が話しかけてくることもあり
私はあまりはっきり発音しないように流すように言ったり、足踏みをしたり手を動かしたりタイミングをつけたりして、なんとか声を出すけど
正直”めんどくさい”とか、”まあいっか”と思って言わないこともあった。
でもSさんは違った。
「あああああああありがとうございました~~」
ホールに響くSさんの声。
気づいた限りのお客さん全員に、どもってもちゃんと退店時の挨拶などをしていた。
かっこいい。
Sさんの背中を見て、逃げている自分が恥ずかしくなった。
一生忘れないよう目に焼き付けた。
実は私も…
私がバイトに行く回数が少なくなっていた頃、ちょうどSさんとディナータイムの出勤がかぶった。
忙しく業務を終えた22時頃
Sさんが椅子に座り、いつものように周囲と会話していた。
その時、Sさんがもうすぐこの飲食店を辞めることを知った。
今しかないと思い
「実は私も吃音なんです」とSさんに伝えた。
すごくびっくりされて、たしか全然わからなかったというようなことをSさんに言われたと思う。
Sさんにとって私は
初めての自分以外の吃音当事者であったらしい。
その日はSさんと、吃音について色々話した。
俺のメンタルは豆腐
Sさんと吃音について話した日以来、
出勤がかぶったら吃音のことを色々と話すようになった。
Sさんは私と違って、話し出せば吃音であることがすぐにわかるくらい連発でどもる。
でもいつも会話自体を楽しんでいて
落ち込んだり傷ついたりはしないのか?と聞いたら
「俺のメンタルは豆腐や」
豆腐という言葉のチョイスといい、その内容といい、予想外だった。
「でもメンタルが弱い分、フィジカルを鍛えたりしてるよ」
たしかに、袖をまくり上げたSさんの腕は
たくましかった笑
Sさんもすごく悩みながら生きてきたのだと思う。
当時学生の私にできることは自分の持っている吃音に関する資料を渡すことぐらいだった。
その後私もその飲食店をやめてから1度お会いした以来、Sさんと連絡をとっていない。
働いていたときは本当に本当にありがとうございました。そして出会えてよかったです。
今もお元気でいることを願っています。
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