桜がきれいだと伝えるように
「以心伝心」
仲が深まって相手を深く理解していくと、
言葉で伝えなくたって伝わる、
相手が汲み取ってくれると感じるようになる。
以心伝心できるような深い関係性には
憧れる、、、。
夏の気配を感じるようになった頃、
髪の毛を染めた。
少し赤みがかった茶色、
日が当たるときれいに赤が発色するけれど、
暗い場所ではあまり分からない。
蛍光灯の下で見ると、やわらかい茶色。
スペインで食べた、チュロスに付けるチョコレートを思い出して食べたくなったりする。
家に帰ってから、今にもとろけ出しそうな
私の髪の毛には言及せず、
インスタグラムのサブアカウントでストーリーを
あげた。
大学、サークル、アルバイト、たくさんの人と
つながっているアカウントの他にも、
いくつかアカウントを持つのが
若い世代の間では主流だ。
関係の深い数十人しかつながっていないこの
サブアカウントは
私にとって、居心地のいいコミュニケーションの場になっている。
一息ついて晩御飯を食べている時に
スマホの通知が鳴った。
「髪染めた?」「似合ってる!」
どうやら、友達がストーリーに対して
反応をくれている。
ストーリーの中にいる自分。
髪の毛の変化は分かりにくい。
それなのに変化に気づいてくれたこと、
褒めてくれたことがうれしくてたまらなかった。
私が新しく獲得した”チョコレート”を
褒めてくれた彼女とは出会って早5年が経つ。
高校時代、家族よりも長い時間を共に過ごした、
ダンス部のメンバーの1人だ。
私が大阪を離れて別府に引っ越してからも、
むしろ関係は深まっている。
いつも冷静で一見クールに見える彼女は、
秀でた観察力がありながら好奇心旺盛で
誰よりも素直だと思う。
一言で表すなら、ツンデレ。
私の変化にすぐに気づいて、
感じたことを言葉で伝えてくれる。
私はその度に彼女のようになりたいと思う。
言わなくても相手に伝わっている、
言うまでもない当たり前のことだと思わず、
ちゃんと言葉にして伝えられる人に。
私の書く文章が好きだと伝えてくれたり、
容姿を褒めてくれたり、
共感していることも自分が持った新しい意見も
言葉で伝えてくれる。
私は言葉を受け取ることで、
うれしくなるし、安心するし、新しい発見もある。
彼女につられて私も素直になれる。
2人の関係がどんどん深くなっていると
感じるのは、
これまで交わしてきた言葉たちが蓄積されて
互いを理解することにつながっているからだろう。
”いいね”を押せば相手へのポジティブな気持ちが
伝わっていると思ってしまうこの時代。
受け取る立場になって初めて、
複数のハートのうちの1つでしかないんだと
気づく。
ハートに込められた思いは1つ1つ違うのに、
すべて同じ大きさのピンクのハートだ。
感じたことをそのまま繊細に伝えたいけれど、
今の私は、伝えるための言葉をどれだけ持っているだろうか。
「以心伝心」
言葉を交わさずとも互いに理解し合える
関係になっても、
自分の言葉を紡いで想いを伝えたい。
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