【推し活免許証】⑤無理と努力の違い

しょうがトイレとドリンクバーから戻ってきても、日空ひそらは背中を丸めた同じ体勢で考え込んでいた。
「推しも、無理してんのかな」
翔が座ると、日空が表情を変えて話しだした。
「へ?」
「推しもかっこいいってことは無理してるってこと?」
「そこはノットイコールでしょ。三段論法って知ってる?」
「出たそれ、ダマスの受け売りでしょ。だからぼく、翔の先輩だぞ」
ダマスとは、翔と日空の母校の数学教師のニックネームだ。
毎年高校3年生を担当して、一番最初の授業で三段論法の話しかしないことで有名な名物教師だった。
「無理をするってのは少し違うんじゃないの。日空の推しは、好きでやってるんでしょ、その仕事を」
「まぁね」
「無理することと努力することは違うよ」
「分かるよ」
「分かってない」
「分かるよ。だって推しは努力してるもん」
「いや分かってないよ。日空がしていたのは努力なのに、さっきは無理してたって断言したじゃない」
「本当につらかったんだもん。大学に行けば解放されるってことだけを心の支えにして毎日過ごしてた」
「俺には、そんな風には見えなかった。日空は輝いてるように見えた。少なくともアイドルを応援して自分のことを疎かにしている今の日空よりも、あの頃のほうが、ずっと!」
翔は思わず声を荒げてしまった。
ハッとした時には日空の目には影が落ち、翔の頬には涙が落ちた。

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