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2022.10.13

今私はカリフォルニアにおります。
こちらに来てからなんだかんだで約1ヶ月が経過しました。
日記を切り貼りしたり手直ししたりして、ちょこちょこここに載せていこうと思います。
みなさま、お付き合いよろしくお願いします。


ひょんなことから、いざとなったときに走り続けることのできる強い身体でいようと決意し、最近はちょこちょこ時間を見つけて走っている。
さらにさらに、大学内のジムが無料ということで、複雑な気持ちを抱えながらも運動は大事だと言い聞かせて週に何回かずつ通ってみている。どうした私。
しかし、というかやっぱり、ピラティスやキックボクシングやサイクリングマシンやランニングマシンにお世話になることで汗をかいて気持ち良くなることはできるが、やっぱり、外で走ることの代わりにはならないことが判明した。

中二病のラダイト

ピタピタしたポリエステルはプロテインを閉じ込めてラッピングしている。ツルツルですべすべで、みょうに形が整ったものは逆に不自然に見えてくるんだよなあ。韓ドラにどハマりしてた時期にソンガンの体を見たときにも感じた気がするけど、増築された部屋に似た何かがぎこちなく肩やら胸やらお尻やらに乗っかっている。

工場では日々部屋が生産されて然るべき場所に乗っかり、大きくなったり小さくなったりしている。新しく作られた部屋は新しい家具がデザイン通りの配置にきちんと収まっていて、まるでIKEAか何かのCMに出てくるような理想的な部屋だ。もちろん清潔で、髪の毛どころかまつげや眉毛の一本も落ちていない。脇毛なんかもってのほかだ。どうやら部屋は使われていないらしい。中はひんやりしていてとても気持ちが良い。ぐるっと一周見渡してみる。窓がある。外は真っ暗だ。部屋が丸ごと何かにピッタリ覆われているらしい。窓のそばまで近づいてみると、外には、猫みたいな動物やカーブのかかったチェックマーク、三本仲良く並んだ直線、などなどの見覚えのある形がうっすら、ぼんやりと浮かび上がっている。なるほど、この覆いのおかげで部屋の中はジメジメせず、サラサラすっきりした快適な空間が保たれているようだ。よくできている。

でも、なんでこの部屋は使われていないんだろう。

この部屋は何のために作られたんだろう。

すると何やらテカテカ光るものがすうっと近づいてきた。
“Just do it!”
耳元でささやくと、キラッとウインクを残して去っていった。
窓の外の景色からチェックマークが消えていた。

カーヴィーなチェックマークに導かれ、身体の規格化だ!と心の中でブツブツ言いつつランニングマシンを使ってみるとその便利さに気づく。自分でスピードをコントロールしなくていいから、爆音で流れるケイティーペリーのビートに乗ってただ足を動かしておけばそれが勝手に「走る」動きにデザインされていく。何だか、マシンの一部になって動いているみたいだ。だんだんだんだん、その場の形にフィットしていく。「あるべき形」にはまっていく。これはものすごく楽ちんだ。

それでもやっぱり気持ち悪い。こんなランニングマシン如きに私のペースを握られてたまるかと腹が立ってくるからスピードをずらして脚をジタバタ動かすけど、そんなもがきは無駄だと無表情に言い放ってマシンは動き続ける。危うくこかされそうになるところを持ち堪えて、工場の隅っこで私は攻防戦を繰り広げる。このまま奴らの思い通りになってちゃダメなんだ!と世界の危機に気付いて孤独に戦うヒーローの気持ちが少しだけわかった気がする。しかしながら私の戦いはバッドエンドに終わってしまった。マシンは待ってくれない。私は疲れてマシンのリズムに身を委ねる。汗が滲んでくる。鶏胸肉はタンパク質になって吸収され、チョコクッキーは脂肪からエネルギーになって消費され、体外へと水と老廃物が排出される。増築工事のサイクルは途切れなく続く。
吸収消費排出吸収消費排出吸収消費排出吸収消費排出吸収消費排出吸収消費排出
にっくきマシンが生み出す機械音に身体が絡め取られていく。
ウィーンウィーン。

ここでもベルトコンベアに乗せられてしまった。


「渋滞を起こさないようにするには、究極、車の流れが永遠に止まらないように道路を設計することを考えればいいんだよ。」
LAのハイウェイは今日も膨大な数の車を運び続けていることだろう。

“The goals of this course are listed on the syllabus. Check it out after the class.”
私はといえば、今日も教授が用意したアジェンダに身を任せ、授業を受けるだけだ。


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