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大人が楽しむ姿を子どもたちへ。人生を豊かにするための多軸的な生き方への挑戦 / 卓さん

「フリーランス行政マン」
https://www.open-innovation-team-kyotango.com/

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サーフボードを持ったリクルートスーツの女性。
昨年の夏、このサムネイルをご覧になった方はいらっしゃるでしょうか。
京都府の最北端、京丹後市が新しい職員採用の形として始めた「ふるさと創生職員」プロジェクトです。


ふるさと創生職員とは
半行政、半フリーランス。副業禁止が当たりまえという公務員の世界で、週2〜4日は行政で働きながら残りの時間で副業・兼業にチャレンジできる。任期は3年だが、行政職員として有休や賞与もある。

この画期的でチャレンジングな取り組みに、2020年度は募集枠の約5.4倍の応募がありました。現在は、5名のふるさと創生職員の方が着任しています。

どんな方がどんな想いで着任し、今どんな仕事や暮らしをしているのかを描いていくインタビュー企画です。


5人目は、卓(すぐる)さん。

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卓さんが就職活動を始める時期は、バブルが弾けて就職氷河期に突入した時代。衰退する日本経済を見て、将来に展望がもてず一度は海外へ。

中国、アイルランド、イギリスと3カ国での様々な経験を経て、日本へ戻ってきたとき、国際化が進む世界で、日本の若い人たちが活躍する社会にするために「教育を変えなければ」と、今度は教壇に。

常に高い志を持って、様々な挑戦を繰り返してきた卓さん。果たして、次はどんなビジョンを描いているのでしょうか。

卓さんが実現したいまちづくりと、将来の「ありたい姿」をお伺いしました。

バブル崩壊。国の衰退。就職氷河期への突入…。危機感から「日本脱出」計画!? 

ーまず、卓さんのこれまでの人生の岐路をお伺いしていきたいと思います。以前は、京都市で教壇に立たれていたとお伺いしておりますが、ずっと教員をされていたのですか?

いいえ。教員になる前は、海外に拠点を置いて生活していました。

ー海外に!? それはどういった経緯で行かれたのでしょうか?

大きく2つの理由があります。
1つ目は、私が就職活動を始める頃に「就職氷河期」に突入したことです。それまで急成長を遂げていた日本の経済は、一気に急降下。いわゆる、バブル経済の崩壊ですね。

それまでは「大学の偏差値で卒業後の人生が決まる」時代だった思います。例えば、偏差値が高い大学を出れば、給料の良いところに就職ができて、生活もある程度の水準が保証されているというイメージですね。

それが、私が大学を出る頃には「大学は出たけれど仕事はない」という時代になっていったんです。

ーなるほど。最も国が元気のなくなった大変な時期に将来の選択を迫られたんですね。

はい。円高で産業の空洞化が進み、製造業を中心に多くの企業が賃金の安い途上国へ移動していくわけです。あの時代はほとんど中国へ向かっていました。大手メーカーが行けば下請けも行くんです。

中国に行けば仕事がありますが、日本国内においては何十社受けても受からない、というのが現実だったんです。

ーそこで海外に飛び出したということですね?

そうなんです。仕事がない国にいたって仕方がない。
「日本を脱出しよう!」
腹をくくって海外へと目を向けるようになりました。でも史学科卒でもあったので、歴史の先生か、海外で働きながら文化を学びたいと思っていました。だったら今は世界を見るチャンスだ、と思って飛び出したんです。

ー大きな挑戦ですね!最初は中国に?

はい。初めは当時登り調子だった中国へ行きました。生活費が安いのも魅力的でした。渡航前に三か月、サーカスの裏方でアルバイトをして、お金を貯めました。

まずは中国語を話せるようにならなければいけないので、中国の大学に別科生(語学留学生)として入学し、1年間学びました。漢字という共通の文化がありますので、現地である程度勉強すればそれなりに話せるようになります。

ーその後、中国で就職をされるんですよね?

はい。香港の日系企業の人材斡旋などをしている会社に登録をして、面接を受けて香港の日系企業に就職しました。製造業の多くは、中国の大陸内に集まっていたのでそこからは香港支社から出向という形で、広東省の工場で働き始めたんです。資材管理・電算室管理を担当していました。驚いたのは、工場が5000人規模だったこと。しかもそれが3つくらいあるんですよ。

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ーえええ!!それはすごい!!

当時、中国の平均給料は日本の20分の1。5千人の工場の場合、日本の1人あたりの月給を20万とすると、年120億の人件費ですよね。それが中国だと20分の1になるので6億円。百億円以上の差分の利益が出るわけです。いくら日本が価格競争をしたとしても、勝てるわけがない。そのことに気がついた瞬間、世界の工場としての日本は過去のものだと思いしりました。

ー中国の勢いは圧倒的ですね…。

中国の急成長と何も変わらない日本、いやバブル経済からずっと所得は下がってきていますね。あともう一つ、中国にかなわないと思った出来事があって。

当時の中国は、昔の日本と同じで「勉強をして良い大学を出れば良い将来が約束されている」という風潮があったので、学生はとにかく猛勉強をするんです。朝の6時からぞろぞろ寮を出てきて、必死になって英語を勉強しているんですよ。競争社会を努力で這い上がっていく、豊かになるためにがむしゃらに勉強する、そのハングリーさは日本にないものでした。

ー近代の日本ではあまりみない光景ですね…

あの必死な姿を見ると、ここでも日本は勝てないと思いました。中国の経済がどんどん成長していくのを目の当たりにしながら、時々日本へ帰るじゃないですか。
"何も変わっていないんですよ”
これは、日本という社会が衰退するのもうなずけました。

ーなるほど。それで日本の将来に対して、強い危機感を持たれたのですね。

そうですね。このままではますます厳しい方向へ行くと思って、根本的な教育から変えていきたいと考えたのです。

ーそれで教師になるわけですね!

そうなんですけど、やっぱり人生まだ遊びたい、もっといろいろな経験をしたいじゃないですか。もともと歴史が好きで世界を見てみたいという思いもあって、中国で稼いだお金は、ヨーロッパ旅行へつぎこみました。

ーはははは(笑) ところで、ヨーロッパはどちらに?

半年はアイルランド、残り半年はイギリスのロンドン。
語学学校に在籍しつつ、その2か国を拠点に旅行をしたり、博物館を回ったりしていましたね。そして、お金も底をついてきてそろそろ帰国しないといけないなぁ、なんて思いながらアイルランドの本当に小さな町の語学学校で、偶然目にとまったのが山川出版の「世界史B」の教科書。

ー高校時代、表紙をボロボロにした懐かしい教科書!!そんなところで!?

私も驚きました。でも、この出会いもご縁だな、と。
これを見つけたとき、「よし、日本へ帰って社会の教師になろう」と決めたのです。
もともと歴史の教師になるか、世界で働くかの二択だったので、最後の一押しになってくれました。

子どもたちへ新しい時代の教育を! 

―帰国後、教育の道に進まれたということですが、教員としてのファーストキャリアはどのようにして始まったのでしょう?

京都市の学校で常勤講師として働きました。そこで探究的な学習活動の最前線を見ることができたんです。その後は実家のある四国で教員となったのですが、そこはいい意味でも、悪い意味でも昔と変化はなかったんです。

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ーそれはどうしてでしょうか?

25年前、私が高校生だった頃のA先生が50歳だったとしましょう。A先生はその時から35年前はもちろん高校生なわけです。そしてA先生が高校生の時に指導していたB先生が当時50歳だったら?
私は25年前のA先生の影響で授業をするでしょう。
でもそのA先生は今から60年前に50歳だったB先生の影響を受けているわけです。

そしてB先生は今から95年前の先生の影響を受けているわけです。
ただ、これは悪いことではありません。 受け継いでいく大切さもあるので、連綿と続く教師の歩みを断ち切ることは反対です。
ただ、この縦の流れだけでは社会とかみ合わない。縦糸を補強する横糸が必要だと思います。

―ではどのような補強が教育に必要なのでしょうか?

四国から再び京都市に出てきて教員となりました。そこではICTを使って、子供たちを外の世界とつなげようとしました。これが補強となる横糸です。
学校で教える日本の伝統や文化という縦糸と、大学や企業、地域の人、海外の同世代などをICTの横糸でつなぐ教育です。

―今までのご経験がここで集約されたのですね。

そうですね。目的は伝統を受け継ぎつつも新しい世界で対応力、創造力、企画力をつけること。これがないと、新しい時代の新しい生き方に子どもたちは対応できないと思っています。

昔ながらの教育で、”とりあえず大学に合格させて、それで良かったね”、では今の時代では生きていけない。それはあまりにも無責任であると思っていました。人口増の時代では、市場は自然と増え、労働力を効率よく、また大量に求めるための画一化された教育が適していたのでしょうが、これからは難しいでしょう。

ー「ふるさと創生職員」への応募はどういった経緯でされたのですか?

年齢的に人生が折り返しとなる今、探究学習の構造的な問題を気にしていました。それは先生たちの負担です。新しいことをするにはあまりにも先生たちの負担が大きい。個性に応じて才能や活動場所を広げていく探究活動は、究極的には個別指導です。ユニークが求められる時代、その方向性は必要だと思っていますが、指導できる人は少ない。国語の先生に数学を任せるようなものです。その逆もしかり。

これからは地域の多種多様な人材が子供たちの教育に関わっていく時代なのでしょう。私も外部から子供たちの才能を伸ばしたい、そして先生たちの負担を減らしたいと考えています。

そういう時にふるさと創生職員の募集を見たんです。
教育に関わりつつ、子供たちの探究活動に参加できるのではないか、と。

多軸的な生き方を模索する

「新しい働き方」を子どもたちに教えていく中で、やはりキーになるのが「多軸化」です。

競争が強まる現在、1つの軸(学校や職場などの所属)だけでは社会は守ってはくれない。学校生活がしんどいと思う子も多いでしょう。でもそれは学校だけが居場所、もしくは居場所であると本人も周りも思っていることが多いんです。勉強はどこでだって、何歳からだってできるし、趣味と勉強を両立させる場所もあるはずです。大人だって、会社に行きたくない人は多いでしょう? 

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たとえ軸の一つが折れたとしても、他の軸が支えればいいんです。だから副業をすることで、多軸的な生活を楽しめたらもっと人生が豊かになるのではないか、とずっと考えていました。

それにこれからはこういう生き方もある、って子供たちに実践例を見せたいじゃないですか。

ーなるほど。そういった経緯で京丹後市に来られたのですね。

仕事と副業、見えてきた課題

―今はどんな活動をされているんですか?

京丹後市未来人材プロジェクトの一環として、今年「ICT甲子園」という全国規模の大きな大会が京丹後市で開催される予定です。運営の企業と高校を結び付けるたり、調整したりする活動をしています。またテレワーク推進のために、京丹後の地域資源を生かした新しい働き方の提案や、必要な資料をまとめたりしています。

副業の方でいうと、シナリオライターとしての仕事を受注して進めていますね。

―色々な方面でのお仕事をされているんですね。実際にこれまで働いてこられてどうか、良ければ今のお気持ちを率直にお聞かせ頂いてもよろしいですか?

いずれは本格的に教育の現場に入っていきたいです。いまはその準備中といったところですね。やりたいことは多いのですが、自分のやりたいことと、地域のニーズはもちろん一致しているわけはありません。外部からの押し付けになってはいけませんしね。

そのためroots(京丹後市未来チャレンジ交流センター)でのイベントに積極的に参加して、京丹後市の子供たちの考え方などを知っていこうと思います。

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今後のビジョン、これからやっていきたいこと

―では、最後にこれからの展望についてお聞かせください。何か「ふるさと創生職員」というチームとして今後行っていきたいことなどはありますか?

どの地方も人口減少は止められないと考えています。学校もそうですがいずれ役所も職員が減って、外部委託の業務が多くなると考えています。ふるさと創生職員は、身分は公務員ですが、立ち位置は民間と市の両側の視点があると考えています。

新たな視点での提案をしつつ、地域の実情に合わせて最適化・スリム化していく。そういう活動をみんなでしていきたいですね。そしてまだまだ未完成な部分もあるふるさと創生職員の在り方を、3年という期間で形を作っていきたいです。


聴き手/文・撮影:能勢ゆき 

オンラインイベントのご案内

最後まで記事を読んでくださった方へ、
この度、第2期の募集を開始するにあたり、特別企画としてテーマ型のオンラインイベントを開催することになりました!

第1期で採用された5名の方から、それぞれテーマを投げかけていただき、それについて、対話・交流していくものです。

テーマに関心のある人であれば、基本的にどなたでも参加可能です!

今回、インタビューさせていただいた、卓さんは、大きな時代の変化の中を生き抜くため、海外でのキャリア、そして、”探究学習”をテーマに教育者としてのキャリアを歩まれてきました。

そんな卓さんにぴったりの、
『シンギュラリティ後の地方における理想の学校デザイン』
というテーマで開催させていただきます。

シンギュラリティって何??と思われたそこのあなた!
AI(人工知能)が自ら人間より賢い知能を生み出す事が可能になる時点を指す言葉です。現時点で、2045年に来るとされています。

実際に来るかどうかはわかりませんが、
来るとすれば、私たち人間はどう生きていくべきなのでしょうか?
また、その時代を生きていく子どもたちに必要な学校とは何でしょうか?

テーマに関心のある人であれば、基本的にどなたでも参加可能です。
ぜひ、お気軽にご参加ください!


京丹後市ふるさと創生職員(フリーランス行政マン)第2期募集開始!

第2期募集ページは👇
https://www.open-innovation-team-kyotango.com/ 
(※2021/6/1 までは、昨年度の募集記事となります。)

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