『 47RONIN 』ハリウッドのハリウッドによる日本人のための異世界映画

最近キアヌ・リーヴスと浅野忠信が出てる映画を立て続けに観たため、そういえば両者が共演しているハリウッド時代劇があったなと思い、いまさら DVD 借りて観た。以下感想。

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内容自体は当時もひどいひどいと言われていたようだが、まさかここまでひどいとは…という内容。
とにかくツッコむ対象に飢えている人には強くオススメできる映画。この作品観てて一番楽しめるのは間違いなく日本人だろう。
話自体は一応『忠臣蔵』なんだがキアヌ・柴咲コウ・菊地凛子演じるヒーローヒロイン悪役が三人とも架空のキャラ。
ストーリー的には真田広之演じる大石内蔵助が実質的な主人公だと思う。

キアヌ演じる主人公は見た目が明らかに日本人じゃない謎のハーフブリードとして周囲から動物並みの扱いを受けながらも、主君である浅野内匠頭の恩情に応えようとする健気な毛唐という感じで、主君の一人娘である柴咲コウと密かに愛し合っているありがちな設定。

出鼻からいきなりもののけ姫じみた巨獣駆逐シーンから始まる。
ハリウッド時代劇なので考証がハチャメチャなのは織り込み済みだが、開き直るのが早すぎというか「要するにこういう映画なんですよ」というメッセージをありありと感じる。
浅野家は将軍を迎えるために巨獣駆除しているようだ。巨獣に正社員サムライが殺されそうになるので、キアヌが助けるついでに仕留める。すると正社員サムライは「貴様に助けられるくらいなら死んだほうがマシだった」とか平然と侮辱をかましつつキアヌの手柄を横取り。おいおい… そういう感じでサムライ達のモラルがかなり曖昧な作品だ。
悪役の吉良上野介は魔性の女狐(菊地凛子)を使って浅野内匠頭を亡き者にしようと企んでいる。
吉良上野介は浅野忠信が演じている(名字と役柄が紛らわしい)。この浅野吉良が通常運転の浅野忠信というか、いちいち悪そうな笑顔を浮かべるんだが記者会見とかで見せるあの朴訥とした笑顔の延長という感じで、彼だけ演技じゃなくメイキング映像を使っているような浮遊感がある。というかあんまり悪そうな感じがしない。どちらかというと浅野内匠頭を演じる田中泯さんのほうがおどろおどろしい悪のオーラがあるから、田中さんのほうが適任な気がするし、ラストで髪を振り乱しつつ未練がましく逃げ回ったりしてほしかった。

菊地凛子の妖術にハメられた田中泯さんが浅野吉良を殺そうとしたところで「殿中でござる」になり、即セップクということで将軍、家臣、家族、さらに吉良まで見守る中、ライブ的に果てる。田中泯さんの引き締まった上半身が印象的で、高齢だが現役で体を使っている人はさすが違うと思わせる。真田広之と並んで作中に緊張感を与える数少ない存在だっただけに途中退場は残念。

というかこの作品、菊地凛子の能力が強すぎる。誰に対してもガード不能の催眠術をかけてくる。最初から将軍に着手したらいいと思うがなぜかそれはしない。縛りプレイみたいなものだろうか。
赤穂の正社員サムライは全員クビになって「マスターレス・サムラァイ(主君無き侍)」である RONIN に堕ちるが、リーダーの大石内蔵助だけは浅野吉良から警戒されていたので地下牢に幽閉され、ここでいきなり一年飛ぶ。
この時点でオイオイとなる。一年地下牢に幽閉されて解放されたときには柴咲コウと浅野吉良の婚礼まであと一週間しかない。ならあと一週間幽閉しとけよと浅野吉良にツッコんでしまう。
残された大石の家族もさぞかし苦労しているだろうと思いきや、確かに貧しそうではあるがそこそこしっかりした小屋の中で暮らしており、息子である赤西仁もそこまで焦ってないし、サムライはクビになったが死ぬほどでもないって感じ。全体的に言えることだが浪人になった恥辱とか生活苦とかがほとんど描かれない。生活レベルは落ちて刀は失っても何故か立派な馬は飼ってるし。監督もイマイチ武士のメンツとかわかってないんだろうなとは思う。
何はともあれ大石りくという忠臣蔵を代表する内助の功キャラも登場し、ようやく時代劇っぽくなったな…と思っていたら赤西仁がメシを食いながら「キアヌ? 出島に連行されてオランダ人に売られたよ」みたいなことを平然とぬかし、すべてが水泡に帰した(というかここが一番爆笑した)。

キアヌ奪還のために真田広之は馬に乗って長崎出島まで向かう。赤穂(兵庫)から出島(長崎)まで馬だけで移動しているが、基本的に下関とかは無いことになってるんだろう。あまり考えるな。
この出島の描写がすごい。多国籍的な帆船が駐在するパイレーツ・オブ・カリビアン的な世界観でオークみたいな大男と殺し合いをさせられるキアヌ…という異世界コロシアムが繰り広げられている。もう考証的に日本っていうより、すでに地球ですらなくなった感がある。

キアヌを奪還した真田広之は赤穂浪士たちと合流。
ここでデブの水浴びというどこの誰に需要があるのかわからんシーンがやたらクローズアップされる。いや本当なんだよ、映画開始 59 分で止めてほしい。サービスシーンほぼ皆無な本作だがデブの水浴びだけはある。そして水も滴るデブの裸形をしっかり目に焼き付けよう(肌はきれいだなと思いました)。

方方に散ったとか言われる赤穂浪士だが普通に山で自生してるっぽい。いったい何やって飯食ってるんだろう。農業とか狩猟採集だろうか…普通だと町民に身をやつした浪士たちが生活の傍ら徐々に力を再結集していく様がドラマになるのだが、本作だと大石が一年間幽閉されて解放されたあとの一週間ですべて決するため、そういう臥薪嘗胆的なドラマはない。
というかそもそも赤穂浪士たちの表情にあまりに危機感がないため、真田広之が呼びかけなかったら仇討ち自体、行動に移さなかったんじゃないか…というマッタリ感がある。うーんこの…

ここで刀が足りないということになり、武器収集シークエンスに入る。ゲーム的な展開になったなと思っていたらここでキアヌが「オレは赤穂に来る前は天狗に育てられていた」とか出生をとうとうと告白しはじめる。いいかげんにしろ。
天狗のところに行けば武器も貰えるしパワーアップも出来るということで、キアヌと真田広之は天狗ダンジョンに突入。試練か試練じゃないのかよくわからん強制イベントを経て大量生産した感じのコンパチ天狗ソード× 99 を手に入れた。ふつう武士って自分の業物にこだわったりしないのかな…

武器も手に入れて帰ってきたら、浅野吉良は今夜外出します! という報を受ける。ソースも確認しないままホイホイ外出先へ乗り込んだら案の定、菊地凛子の魔法攻撃で浪士が死ぬ死ぬ。水浴びデブも死んで一同に結束が芽生える。あの半裸シーンはヒロイン的な演出だったのか。
吉良側も吉良側というか、愛刀が落ちていただけで大石内蔵助討ち取ったり! な雰囲気になる。実際にこれで赤穂浪士サイドは終わった扱いになっており、キアヌも「オレたちは死んだことになってるからむしろ敵の目を欺くチャンス」みたいなことを言い出す。情報弱者同志のリテラシーの低い応酬が続く。
この辺で吉良邸の見取り図とか、見張りが減る時間帯を探るとか、そういう作戦がでてきて良さそうだが一向にそういう気配はない。目の前を偶然通りかかった見世物芸人たちは吉良邸の結婚祝賀会に出演するということがわかり、彼らに協力を要請。ご都合主義的に吉良邸侵入の糸口がつかめる。

ここでクライマックスへ向け血判状を作るシーンだが、なぜかわざわざ屋外に机をおいてアウトドアな感じで連帯を誓い合う。冒頭で手柄を横取りしたサムライもキアヌと和解し、彼に水浴びデブの脇差しを託す。キアヌ二本差しモードになったところでついにラストバトルへ。
この討ち入りシーンがひたすら雑で、ザル警備とサル知恵のバカしあいという感じで語る気力も失せるがとにかく真田演じる大石は浅野演じる吉良を討ち取り、キアヌ柴咲凛子は捏造キャラだけの最終決戦にケリをつける。
その後は最後の切腹シーンにつながるわけだが、よくドラマである一人ずつ順番が来て切腹していく描写ではなく、花見会場みたいな場所でこれまた将軍、家臣、家族とギャラリーが見守る中、一堂に会した四十七士がいっせーので同時にセップクする( Without 介錯 )。あとなぜか赤西演じる大石主税は直前になって「生きて治世せよ」的ニュアンスで見逃される。史実を捻じ曲げるジャ○ーズの力だろうか。
最後は「この映画は忠臣蔵に脚色して作った」「毎年 12 月 14 日は赤穂浪士の墓は参拝客で賑わう」みたいな適当なナレとテロップで完。とりあえず腹でも切ろうか…

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いろいろツッコんだが久々に一気に感想書ききったし、トータルでは楽しめた。全体的に「もう勝手にやってろ」と言いたくなるタイミングで見知ったワードなりシーンがでてきてストーリー自体はまったく面白くないに関わらず最後まで見てしまう。本来ならもっと割り切って楽しむべきなんだが、割り切って抽出したストーリーがひたすらつまらないので、割り切らずにツッコむくらいしかやることがない。旧作料金でここまで楽しめたら御の字だ。
しかしこの監督、これが長編初挑戦でこれ以降は特に映画撮ってないみたいだし、こういう無謀な企画がどういうルートで通るのか本当に気になる。『たそがれ清兵衛』であんな名クライマックスを演じながら約 10 年後にこんなハリウッド資本のトンデモ映画でまた共演することになろうとは、真田さんも田中さんも想像だにしなかったのではないか。

ここまでハチャメチャやったんだからもっとハッチャケて、最後は四十七士全員が天狗パワーで魔法剣士化するとかだと面白かった。「フォー・アコー!(赤穂に栄光を!)」とか「アコー・グレートアゲイン!(赤穂に再興を)」みたいなフレーズは笑った。柴咲コウはやっぱりきれいだなーと思いながら観た。ふたりとも架空のキャラなんだから、キアヌと一緒に逃げるハッピーエンドでもよかった気もする。

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