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タイ と 龍 と 私 。
日本にいるとき弥勒菩薩について考えていた。私はどっちがいいのか。人に訊かれ続け自分で訳がわからなくなったがそんなことは全て369が包んでくれた。そして私は龍なんだと。飛行機の中ではずっとBillie Eilishのアルバム、HIT ME HARD AND SOFTを無限リピートしていた。全部好きだけどCHIHIROが1番好きかもしれないと思った。プーケットにきて369の疑いからも抜けられた。どんなに美味しい食事よりも景色のいいホテルよりもバイクタクシーに乗るのが1番好きだった。いつだってバイクの後ろに乗るのは好きだ。過ぎ去って行く木々を見ながら「神様ありがとう。神様ありがとう。神様ありがとう。」と毎日心から唱えた。具合が悪くなったその晩、一緒に来た先輩がたまたま「千と千尋の神隠し」をつけていたので観ることにした。ハクの背中に乗り千尋が大切なことを思い出すシーンまでみて涙ぐみ、出かけた。「君だったんだね。」私は龍でもあり、千尋でもある。私にとってこの世界は、“あの”世界だ。エントランスでにおいが色みたいに分かれていることに気がついた。夜露の中バイクタクシーに乗るとだんだん血の気が引いていった。次から次へと色が襲いかかってくるように臭いが変わる。途端に吐き気と腹痛に襲われ、耐えきれなくなって走るバイクの上で嘔吐した。鼻からも口からも溢れ出る汚物がまるで蛇口を捻ったように溢れ、後ろへ飛ばされてゆく。暫くして運転手が驚きバイクをとめた。降りて地面に這いつくばい悶え、「後何分でつくか?」と訊くも英語が一切通じない。だが帰らないといけないので再度バイクに跨った。山を上っては下り、崖の淵まできた。そこでまたもや我慢の限界。込み上げる汚物を胸に薄汚れたメキシコ料理屋へ駆け込んだ。上からも下からも悪夢は続き、見渡す限りに立ちこめる磯の香りで吐き気は増す一方だった。小一時間滞在し、朦朧とした意識の中店を後にするとバイクは未だ私を待っていてくれた。というより待つしかなかったのだ。私は彼のヘルメットをしたままだった。そこから5日間食事を断たざるを得なかった。私の五感は鋭敏になりすぎていた。眉間の間の少し上、おでこの内側がぼわぁととけるような感覚が頭全体に広がり脳内は独り言をやめる。するととけゆく脳とは裏腹に眼はどんどん渋く強く厳しくすわってくるのだった。道路を歩くだけでさまざまな悪臭と悪臭を放つ動物的な魂の視線が飛び交っており、もうその時には帰国するしかなかった。生気の無い水を含んだスポンジのような果物、粉でできたヨーグルト、粘土とゴムを擦り合わせたようなソーセージ、家畜の体液を水で薄めた牛乳。少し舐めただけで私にはそう感じた。
帰宅すると父が宮崎から送ってくれたマンゴーが一つだけ残っていた。母が剥いてくれて、余った部分を自分に、綺麗に凹凸が出ている方を私にくれた。それをひとくち口に入れると、目の前に太陽の光が差した。太陽の味だった。神様ありがとう。
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