言わなきゃわからないこともある〜垣谷美雨『定年オヤジ改造計画』4
小説『定年オヤジ改造計画』をベースに「言ってくれなきゃわからない」についてシリーズ化している今回は、「言わなきゃわからないこともある」。
体調を崩していたり、悲しんでいたり、凹んでいたりする人に対する
「言ってくれたらよかったのに」
という言葉には、
「言わなかったあなたが悪い」
という非難が含まれているように私は感じています。
その一方で、
「言ってくれなきゃ、わからないよ」
と考えていることもあったりします。
「美味しい」なんて言わなくてもわかる？
我が家であったのは、こんなケースです。
夫は、私の手料理に対して「美味しい」と言うことがありません。
家事全般が苦手な私でしたが、料理に関しては、数年かけて私なりに進歩した自覚がありました。
そんな私に対しる夫のフィードバックは……
「出汁、変えたんか？」
「いつもと違う味噌やな」
「どこの肉？」
など、いつもと味が違う理由を推測するのみで、「美味しい」の一言が、ない。
子どもたちが「美味しい」と言ってくれたときでさえ、言わない。
なぜ夫はその一言を口にしないのか、私は考えました。
（「俺は味の違いがわかる男だ」と主張したい？）
（「美味しいと言ったら負けだ」とでも思ってる？）
夫に対する怒りがわいてきていることに気づいた私は、あるとき、訊いてみました。
なぜ「美味しい」の一言が出ないのか、と。
すると……
見たらわかる？
え？
耳を疑いました。
「見たらわかるやろ。
いつもより食べるのが速かったり、お代わりをしたり」
その説明に、しばし呆然とした私でしたが、気を取り直して、言いました。
「〈美味しい〉って言葉にしたら、言われたほうも言ったほうも、どちらも嬉しいし、もっと美味しくなると思うんだけど？」
って。
でも、通じませんでした。
「そんなことは言わなくてもわかる」
そう。
夫は〈以心伝心〉が好きなのです。
ですが、私にとっては〈以心伝心〉よりも、「想いを伝える＆伝わる」ことのほうが大切でした。
当時の私は、最高の価値観（人生で最も大切に思っていること）なるものを知らず、言語化もされていませんでしたけれど、
「自分が大切に思っていることに、まったく共感してもらえなかった」
と深い悲しみが残りました。
想いをちゃんと伝えたい
「いつもありがとう」
「美味しいね」
「素敵！」
「嬉しい」
こうした言葉は、何度言っても言い足りないくらいだと私は思っています。
「言ったほうも、言われたほうも嬉しくなる言葉は、どんどん伝えたい」
といくら私が考えていても、
「自分にとって大切にしていることこそ〈以心伝心〉で受けとってほしい」
と考える人には、共感されない。
そんな状況で私が主張していたのが、
「言わなきゃ、わからないじゃない」
でした。
主人公の娘さんの言葉が私の胸にも刺さったのは、当時のことが思い出されたからでしょう。
「母さんもそれならそうと言ってくれればいいじゃないか」
「言わなかった母さんが悪いってこと？いつも母さんが悪者だね」
「嬉しそうな表情を見ているだけで幸せ」
非言語でもちゃーんと愛を受けとれる人もいらっしゃると思います。
ただ、私は言葉がほしかったんですよね。
一方の夫は、非言語で受けとってほしかった。
この場合、どちらがどう歩み寄るのが、正解だったのでしょう？
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「どちらがいい／悪い」ではないんですよね。
この経験は、「想いを伝える＆伝わる」という最高の価値観を私に痛感させ、「どうすればそれが実現できるのか」を真剣に考えさせてくれるものでした。
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ここまで読んでくださったあなたは、どんなことを思いましたか？
・言わなきゃ、わからない
・言ったほうが早いでしょ
・もっと私を喜ばせてよ
それとも
・皆まで言わすな
・言わぬが花
・それくらい察しなさいよ
ふだんの口癖、思考癖をふりかえるきっかけになりましたら幸いです。
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✳︎あとがき✳︎
ここまで書いて、気がつきました。
「言わなきゃわからない」ではなくて、
「ちゃんと言ってほしい」。
私は愛を求めていたんですねー。
「愛してほしい、それこそ言わなきゃわからないよ」
でした、笑
「私が私である」ことの確信へ導く魔法使い
御影石 千夏
▼無意識の言動から「人生で最も大切に思っていること」がわかります
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