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新曲 イエローテイル 解説

こちらの動画のネタバレ解説です。
まずはご覧ください。


こんにちは、朽羊歯ゾーンです。
ハマチを国にしました。

ギミック的解説

とりあえず、なぜハマチを国にしたのか(そもそもハマチを国にするとはどういうことか)は置いておいて、この曲のギミックを解説しますね。ハマチ、直接関係ないし。

言い伝えというのは、少しずつ変わっていくものですよね。
今回は、3つの言い伝えがぐちゃぐちゃに混ざり、最終的に8つの歌になってしまったという設定で曲を作りました。8つの歌を同時に歌うと、最も使われているフレーズが際立って聞こえ、1つのストーリー(「モジャコ国の王子は~」から始まるので、以下モジャコ史)が現れます。

もう一つ、「拍子をずらす」というギミックも使いました。

まず、モジャコ史を、切るところによって意味が変わる文章として制作します。そして、間違った場所で切ったもの(以下偽モジャコ史)を他の歌詞と混ぜることにより、1~8番を制作しました。

正しい区切りから3分の1小節(2拍)早いところで切ることで、偽モジャコ史になるように、メロディーを調整してあります。逆に言えば、3分の1小節遅いところを基準に演奏すれば、正しいモジャコ史が現れるわけです。

9番は、1~8番を同時に歌っているだけです。ただし、そのままで現れるのは偽モジャコ史です。伴奏のリズムを3分の1小節遅らせることで、メロディーや歌詞の切れ目が変わり、正しい史実が明らかになるという趣向でした。

(厳密に言えば、1~8番とは別に、モジャコ史だけを歌っているパートも補強として入れています……せっかく地域ごとの伝承の差異をモチーフにしたのだから、日本の各地方を体現したキャラクターに歌ってもらおうと思ったのですが、一人余ってしまって……)

モチーフ解説

この曲は、地方による言い伝えの変遷という設定で書かれているため、MVは研究発表スライド風にしました。フィールドワークを終えた大学教授か大学院生あたりが、この画面の横に立って解説していると思いながらご覧ください。

本当のことを言うと、スライド風にしたのは時間がなかったがゆえの苦肉の策だったのですが……結果、架空のはずのストーリーに奥行きが生まれて、そういう構造の短編小説やSCPに特有の雰囲気が醸し出されたので良かったです。サムネ、気に入ってます。


さて、こちらは動物ソング投稿祭2024参加作品です。
厳密には遅刻組です。1分だけ遅刻しました。動画の書き出しの残り時間を見ながら、主催のunuiさんに「1分遅れます!」と連絡したら本当にぴったり1分遅れました。逆にテンションが上がりました。遅刻したのはごめんなさい。

動物ソング投稿祭は、動物に関する曲を投稿するイベントです。そりゃそうです。この名前でそうじゃなかったら怖すぎる。
というわけで、まずはモチーフの動物を決める必要がありました。これについては、1年前に開催された、第1回動物ソング投稿祭のときから決めていました。

これが去年の曲です。
作り終わったとき、「じゃあイエローテール(ハマチ)も必要だよなあ……来年はそれだな……」と思ったのでした。

レッドテールキャットやイエローテールの「テール」は「tail」、つまりしっぽのことですが、これを「tale(物語)」と読み替えてファンタジー風の物語にできないかなあ、という発想はありました。当然、タイトルは「イエローテイル」。

ハマチが出世魚(大きさによって名前が変わる魚)だということも知っていたので、主人公が出世してだんだん名前を変えていくんだろうなあ、というイメージだったのですが。

いざ曲を作るにあたって、詳細を決めるために、「yellowtail」で検索したところ、出るわ出るわ。

「yellowtail」の一言で表されるもの、ぶれすぎ! どうまとめんの!
と、思っちゃったわけです。
ハマチはyellowtailかjapanese amberjack、ヒラマサはyellowtail amberjackとか言われちゃうともうわけわかんなくて。おまけに、「yellowtail moth」が2種類いた上日本語文献が全く出てこなかったりして心が折れました(片方は調べ方が悪かった。もう片方は和名がなかった)。

なので、諦めて、「yellowtailという言葉の意味、めっちゃ入り乱れてます!」ということをテーマにすることに決めました。脳内のごちゃごちゃをそのまま出力。結果、

  • ハマチをモチーフとした、大きくなるとともに名前が変わる王国の話(モジャコ史)

  • 名前にyellowtailとつく、ハマチ以外の魚をモチーフとした王国の話(以下王史)

  • 名前にyellowtailとつく、魚以外の生き物をモチーフとした妖精の話(以下妖精史)

の3つを作り、切り貼りして先述の方法で一曲にまとめることとなりました。


それでは、それぞれの歌詞について詳しく見ていきましょう。

モジャコ史

モジャコ国の王子は天下統一を目指した
隣国を迎え新しい国の名はワカナへ
大層なその夢を他国にも説く
合併国は命名もツバス
決闘五日後 公的国名構想
ハマチへと向かうがすぐ名は消ゆ
メジロに変わり最後の戦場へ
今や周りに国他にありや? ブリ王国となる

モジャコ国が他の国を取り込みつつ名前を変え、最終的に天下統一してブリ王国になる過程が描かれていますね。

元ネタはハマチの名前の変遷。
モジャコ→ワカナ→ツバス→ハマチ→メジロ→ブリ
と名前が変わります。地方によって全く違うのですが、個人的になじみ深い「ハマチ」が入ったこちらを採用。

調べるまで一番大きいのがハマチだと思っていたのですが、最大、かつ全国共通の名前はブリだそうです。とはいえ、養殖物をハマチ、天然物をブリと呼び分けているケースもあるそうで……こういうのでごちゃごちゃしたんですよ、私の脳内は。現実って、秩序を持って変化するとは限らないんだなあ。

ちなみに、名前の変遷以外の部分は、それっぽい言葉で埋めただけです。生き物要素を入れることより、切れ目を変えると意味が変わる文章を作る方を優先してしまいました。
そもそも、「ハマチへと向かうがすぐ名は消ゆ メジロに変わり最後の戦場へ」って文章も違和感あるし。「国の名前はハマチにする方向性でいったん話が落ち着いたけど、いろいろあってすぐにメジロに改名したよ! で、メジロ軍は最後の戦場へ」って言いたかったです。

偽モジャコ史(文の切れ目が間違っている方)も貼っておきますね。

モジャコ国の王子は天下統一を目指した
隣国を迎え新しい国の縄は
叶えたいそうなその夢を 他国にも説く
合併国はめいめい持つ
バスケット いつか後光 敵国め 行こう 走破
町へと向かうがすぐ名湧き 夢路
牢に代わり最後の戦場へ
今 山割りに行くに谷あり 破り 王国となる

こちらに至っては、モチーフをなぞるどころか、意味すら通っていません。

なんでバスケット持ってるのか。後光はどこから出たのか。考えてはいけません。「切れ目を変えて生まれる、一瞬それっぽく聞こえるだけの文章」ですから。

比較用画像

主人公の名前じゃなくて国の名前が変わるのは、「出世魚モチーフで人間が出世して名前変えるの安直じゃね?」との思いからです。特に意味はありません。

(そういう参加作があったらごめん。私以外の人が作ってたら安直だなんて思わない。だって他の人はサウンドとか言葉選びとかで感情に訴えるものを作れるから。ただ、そういうのが苦手な私は、意外性に全部賭けてるんだ。)

王史

次行きましょう。「王の名を~」から始まる歌詞です。

王の名を持つ者の仲間は
姿を変えられた殺し屋と
道化師と青いカメラマン
そして黄色い尾の猫
南の者と川の者たちが
手を組めば統一の日は近い
国の名は王の名 王が
生まれたままの名を轟かせた

モチーフは、

  • ヒラマサ(yellowtail kingfish、王の名を持つ者)

  • イエローテールメダカ(japanese killifish、姿を変えられた殺し屋)

  • クマノミ(yellowtail clownfish、道化師)

  • ウメイロ(yellowtail blue snapper、青いカメラマン)

  • パンガシウスの一種(yellowtail catfish、黄色い尾の猫)

ですね。

イエローテールメダカが「姿を変えられた殺し屋」なのは、まあ……他の魚を名前で登場人物に変換してるからこれも無理やり変えるか、「kill」って入ってるし殺し屋かなあ、って思ったからです。「姿を変えられた」という部分は、改良品種なので……メダカってめちゃくちゃいろんな色の改良品種いるんですよ。でも、メダカはメダカだから、全部japanese killifish。

ウメイロというのは、魚です。青くて背中としっぽが黄色。「snapper」を辞書で引いたら「パパラッチ」と出たので、まあ丸い言い方でカメラマンかなあ、と。青いカメラマン、服が青いんだろうか。それともまだ若造なんだろうか。
ちなみに、ウメイロにはウグイスという名前もあるそうです。鳥やん。そういやハマチも一瞬メジロになるな。

パンガシウスはナマズです。ダイエーに売ってた一番安い魚の切り身(冷凍)がこれだったので、名前だけ知ってました。まさかお前もイエローテールとは。雑炊にしたらおいしかったです。
ナマズはcatfishなので、猫になっちゃいましたね。

さて、前半は全部登場人物紹介として、問題は後半です。

「南の者と川の者たちが 手を組めば統一の日は近い」というのは、モチーフが南の魚3+淡水魚2なのをそれっぽく言ってますね。

「国の名は王の名 王が生まれたままの名を轟かせた」の部分は、ハマチと対比させてます。
「王の名を持つ者」ヒラマサは、出世魚ではないんです。生まれたときからヒラマサ。ちょっと王王うるさい文章になりましたが、無理にでも「王が生まれたままの名」というフレーズを入れたかったんです。

それに、ミステリでいう「読者への挑戦」パートを入れる構想もありましたし。「ぎなた読み(区切る場所を変える言葉遊びの一種)で歌詞にブリの幼名が隠されていることに気づけば、本当の歌詞が導けるよね?」みたいな。「ここはハマチの話してないよ!」と示すために入れたかったのです。

妖精史

最後のストーリーは、王国が天下統一を……という流れからは少し外れています。

北と南の妖精がある日出会った
森が小さくなったから
毒の力が人を傷つけると石を投げられ
追われたのもそっくりだった
最弱と思われた無毒な者の
助けを得た毒の雨
壊さないと人々が誓った山に
小さな城を築いた

こちらのモチーフは、

  • モンシロドクガ(yellowtail moth、北の妖精)

  • イエローテールモス(これもyellowtail moth、南の妖精)

  • イエローテールクリボー(yellowtail cribo、最弱と思われた無毒な者)

です。

2匹の蛾を妖精として描きました。北と南、というのは生息地。モンシロドクガはヨーロッパやアジアに分布、シベリアにもいる白い蛾です。日本でも見られます。もう片方(和名がなかったのでイエローテールモスと呼びます。茶色い蛾です)は、南アメリカに生息しています。両方とも毒蛾で、害虫として扱われているため、「毒の力が~」という一節を書きました。

途中から出てくる「最弱と思われた無毒な者」は、イエローテールクリボーというヘビをイメージ……というか、連想のし過ぎで別物になってしまいましたが。
クリボーっていったら、マリオの最弱の敵でしょう。あと、毒シリーズでまとめようとしたら、一番毒がありそうなヘビが無毒で肩透かしを食らったという個人的な背景もあります。

「助けを得た~」からは、特にモチーフを設定していません。そういう伝承ってあるよな、というイメージだけで書いてます。

ただし、最後の2行は、他の歌詞と繋がったときに変な文章になるように設定しました。「壊さないと人々が誓った山に 今 山割りに行くに谷あり 破り 王国となる」というフレーズが生まれて悪の王国みたいになったり、天下統一を目指した割にモジャコ王子の城が小さかったりしてます。


以上!

長くなりましたが、「yellowtail」という名前を持つ生き物の和名や英名から連想したことを書いただけです。

生き物の生態についてはほぼ触れていないので、生き物ソング投稿祭参加作としてはいまいちだったかなー、とも思っています。一方で、一つの言葉がこんなにいろいろな生き物を表すことがある、という観点を示せたのは悪くないんじゃないでしょうか。生き物ソング生放送見ると、「民俗学的な観点から」みたいなことを言われている作品もちらほらあって、確かに別の切り口を示すのも意義あることだなー、なんて。

というわけで、最後に特大ミスを示して終わろうと思います。

動画の最後に一瞬だけ映る元ネタ解説画面

yellowtail kingfishはカンパチじゃなくてヒラマサだ!!!

  • カンパチ:greater amberjack, greater yellowtail

  • ヒラマサ:yellowtail amberjack, yellowtail kingfish

  • ハマチ:japanese amberjack, yellowtail

むずいて。


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