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孤独の正体

私は定期的に孤独に襲われる

人と繋がりたい

この寂しさは
現在のつながりだけではなく
過去のつながりの薄さも関係しているのかもしれない


夫は気が向いたらたまに母方の実家の田舎に行く

おじさんや従兄弟、甥っ子姪っ子は
互いに気兼ねなく話せる存在のようだ

実の父とは折り合いが悪かったが
大人になって本音でぶつかり合ってから
いい関係を築いているようで
昔の自分は父親のことを理解しようとしていなかったと言っている

仕事では信頼できる相手と二人で組んで
大変ながらも毎日一生懸命働いている

現在
複数のゆるい繋がりをもって生きている

過去はどうだろう

夫には最近まで祖父母がいた
こどものころ夏休みに母方の祖父が早朝にカブトムシをとって
夫の枕元において驚かせてくれたという
その話をとてもうれしそうにする
私はその自分には知り得ないような話を聞くのが好きだ
何度も聞いているが夫はいつもうれしそうで
私にもそのうれしさが伝わってくる

父方の祖父とは一緒に暮らしていた
弟が病気で入院をしており
母親はそちらに忙しかったようで
祖父と日々を過ごしていた夫はじいちゃん子だった
怒られると蔵の中に閉じ込められたりもしたようだが
それすら懐かしい思い出として楽しそうに話す
夫が小学校低学年の頃に亡くなった時は涙もでなかったという

父親と関係の良くなかった中学の時に
東京の製本業を営む親戚のうちに泊まりに行き
製本の仕事を手伝ったという話も何度か聞いた
今は亡くなってしまったが
親戚のおじさんにも可愛がられていたようで
大人になってからもほとんど会うことはないものの
時々メールのやりとりをしたり
おじさんから時計を譲り受けたりしていた

祖父二人も東京のおじさんも亡くなってしまったが
彼らのことを話す夫の心のなかには
皆、生々しく生きていると感じる

肉体はこの世から消えてしまっても
彼らとの思い出は夫の中でずっと生き続けるのだと思った

そして夫は
そういった思い出に支えられ守られているのではないだろうか

夫は私のように孤独を感じたことがないという
孤独というものがどういうものなのか分からないのだそうだ


私は小学校一年生から鍵っ子だった
年の離れた姉はほとんど家にいなかったし
一緒に住む祖父母もいなかったしまわりに親戚もいなかった

夏休みは目覚めるともう両親はすでに仕事に行っており
母の帰る夕方18時までひとりで過ごした
電車で通勤していた母を駅まで迎えに行ったりしていた
母は時々、事前の連絡なしに飲みに行ってしまい
いつも降りてくる電車から降りてこず
ひとりで帰ることが何度もあった
今思えばひとりで過ごす時間が圧倒的に長いこども時代だった

両親は健在だが会っていない
優しい両親ではあったが
こどもの気持ちは考えていない人たちだった
優しいがゆえに
両親のおかしさに気づくのが遅れてしまった
恨む気持ちは和らいだが
会えば必ず体調を崩すと分かっている
次に会うのは葬儀の時だろうか
生きている間に会うことがあるのだろうか

親戚には心を許せるような大人はいなかった
なんとなく何かしらの評価をされているような気がして
温かく見守られていたという感覚はなかった

祖父母との交流もほとんどなかった
祖母はふたりとも物心つく前に亡くなっていたし
祖父とも会っても話をしたという記憶がない
今はふたりとも亡くなっている

夫の話を聞いたり
物語や誰かのエッセイでなど
本の中に出てくる祖父母の存在
そういったものを見聞きするたび強い憧れをいだく
そんな人がひとりでもいれば、と

その後も仕事や友人関係で信頼できる人はいない
人との繋がり方が分からないのかもしれない


人間は共同体で生きていく生き物らしい
群れなくたっていい、自分といういちばんの味方と一緒に
生きていけばいいと思っていても
時折どうしようもない寂しさに襲われ、強い孤独を感じる

やはり人間にとって
人との繋がりは欠かせないものなのか
どうしたって
群れで生きる種族であるということから
逃れることはできないのかもしれない

ゆるい繋がりを複数持っている人は
幸せだと感じていることが多いという
私は自分のことを不幸だとは思っていないが
足元はいつもグラグラとしていて不安定だ
何かあった時
家族以外に助け舟を出せる場所はない
気軽に相談できる人もいない

幸せとは強烈な何かではない
日常に潜んでいるあらゆることだ
こどもたちが笑顔でいるだけでそれはもう幸せだ
私の日常は幸せで溢れている
けれどそれだけでは足元は安定しないのだ
足元がグラグラしていると
その小さな幸せすら見えなくなる時がある

家族が一本の大樹だとしたら
それを支えるたくさんの枝分かれした根が必要だ
その根は、現在と過去における人との繋がりなのかもしれない
私はそれを育みそこねてしまったようだ

今から育て直すことはできるだろうか


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