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冷酷無情となることを選択した、勲を求めた一人の男


※ネタバレの可能性があります。ご注意ください※
(6/3に一部訂正を行いました)

コトゥン・ハーン
2020年に発売されたGhost of Tsushimaに登場する、魅力的なキャラクターの一人です。今回は私が好きなこのハーンというキャラクターについて語っていきます。

※「ノンフィクション」と記載していたことに今更気付いた為、本日(8/21 14:00)訂正しました。顔が真っ赤です。
太字にしていなかったのがせめてもの救いです。ここで太字にすることでプラスマイナスゼロにしたいけれど、そんなことはできるはずもないので追加コンテンツを遊んで心を静めます…

※このゲームは元寇を題材にして制作されたあくまでも「ゲーム」であり脚色が加えられた「フィクション」です。歴史を確実に追うことや史実について述べることはしませんゲームの物語に沿って話を進めていきます。当時の対馬で鎌倉武士として生きた記憶は私の中には全くありませんので、何卒ご了承ください。

1.初登場シーンからもう強い

かっこいいです。これはもう文句なしに格好いいです。
第一声、周りの蒙古兵に比べての装備の重厚さ、体格や歩き方。
「敵だが。何か?」という何者にも引かない態度

演じられたパトリックさんのドン…と構えた人相がまた格好良さを増幅させているのです。画像検索で出て来たお写真はどれも優しそうなお顔をされていました(全部怖かったら逆に怖い)。

そして豪快で躊躇がない。やるときは確実に殺る。
主人公(境井仁)達が一斉に「ハッ…」と息を飲んだシーンは、私も同じように息が止まりました。

また、吹き替えの磯部さんの声が死ぬほど格好いいです。「そうであろう」と問いかけられ「はい…」となったのは私だけではないはずです。
あまり別ゲームのキャラクターを持ち出すべきではないと思いますが、ノクトのお父さん(レギス)も演じられています。

2.人心の掌握・学ぶことに長けている

とあるシーンでハーンは、自分を殺そうとした敵である対馬の武士に対し、敬意を示します。体裁上のこと・戦略的に行ったことであるかもしれませんが、それでも目に見える形で敬意を示します。相手がそれを重んじていることが分かっていたからだと思います。

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『学んだのだ』『この国の言葉 しきたり 信仰』。

戦場において、地獄になる場所において、こんな重い言葉があるでしょうか。これを言われた時点で主人公達が確実に100-0で負けていると思います。

会話の所々で「蒙古襲来の噂が流れたとき」というような台詞がありますが、敵襲があるかもしれないという半ば確定的な状況でありながら、相手について学び策を練るという選択をしなかった。自分たちが信じて行っていることこそが、最も勝利に近い道だと信じたかった。自負があったから。

自分が話す言語を相手が話したり理解できると分かったとき、慣れ親しんだ文化を受け入れられたとき、少しだけ心を開かされる気がしませんか。

ゲーム中では「蒙古どもが」と思っている島民の方々がほとんどですが、時に「(自分が大変な事情を抱えていたから)蒙古が来てくれてよかった」という人もいます。あれだけ島の至る所でひどい光景が広がっていてもです。
自分本位な言葉のように聞こえますが、否定されている現状より肯定されたいという気持ちが湧いてくるのは人間としてごく自然なことです。その先に酷い未来が待っていようとも最後に一時でも幸せになりたい、それは自然な欲求なのだと思います。

ハーンは、これらの信じるという心・すがる心すら手段として利用しようと考えたのだと思います。

蒙古兵の中には時として流暢どころではない日本語を話す兵士がいます。「気づいたらうっかり情報漏れてました」ということが普通にありえそうなレベルで居ます。(戦闘の流れや物語を分かりやすくするという役割としての設定もあると思いますが)

蒙古兵は基本的にモンゴル語を話しているようなので(あの「どうしよー!」など)、限られた人数ではあるものの、それでも確実に主人公達や島民が話していることを理解できる蒙古兵は何人もいるということになります。
それはハーンと同じく敵国について学んだということを意味します。

この物語ではハーンがトップでも、国に帰還すればハーンよりも偉い立場の人間はいくらでもいる。だからこそハーンも『その機会すら得られぬ』と心根では思っている。
それに対し「ならば何が何でも己の力でのしあがってやる」という気概がある。その為の初手が対馬侵略であり、自分ができる限りのすべてを行動に移す。そうして動いたうちの一つが「敵国について学ぶ」ということだったのだと思います。

そもそもハーンの存在自体が史実には存在しないということですが、こういう考えを持ってハーンのような戦略を取ろうとした(もしくは取った)戦士はどの国にも居たと思います。
現在なんて普通にスパイがいて、情報がそこかしこに転がっていることで、もはやその必要もなくなっているのかもしれませんが。スパイ事情には詳しくないけど。むしろスパイじゃない人がスパ…(ハーンはスパイでも何でもないです)

3.橋上の一戦、その時見えた人間らしさ

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あの場面で名を呼ばれたときにわざわざ自分が赴いたのは、仁さんに対し「こんな奴ちょろい」と感じた気持ちが強かったからだと思います。実際ハーンにとっては一武士などちょろかった。絶対に勝てるから一対一で戦い自分の強さを示すことで、一人でも多くの人間を従わせたかった。

ここでのハーンは、親心で諭すような物言いをしています。
武器を下げ、『やめよ』『降れ』と言ったときのハーンは、境井仁の現状やこれから選ぶであろう未来を憂う表情をしているようにも感じました。

その後に『死にたくはなかろう』とも言った。これはどちらかと言えば、仁さんの心が揺らごうものならそれこそハーンの思う壺であるからではないでしょうか。
「あの時助けてやった恩をここで返せ」などと言えば、自分のため忠実に動く兵にできる可能性もゼロではないから。私はこの場面でハーンの二面性のようなものを感じました。

でもここで思わぬ抵抗をされた。
それまで飄々とした態度を取っていたのに、刀で頬を裂かれた瞬間に彼は怒りを露にしました。その時の仁さんの戦闘能力・精神状態を見れば、ハーンなら拷問などで簡単にねじ伏せることができたはずです。

ここでの彼(ハーン)は、仁さんを殺さなかったのではなく殺せなかったのではないか。「生かしていいように利用する」という思考よりも、本能的な一時の殺意が上回ったように思います。

結果的に仁さんを始めとした対馬の人々を利用し、これでもかと泳がせ、どんどん自分のペースに巻き込んでいきます。それでもあの時とどめを刺さなかったハーンからは、どこか人間らしさを感じました。

4.信仰心を利用する心と、それでも信仰心を守ろうとする心

場所は、おそらく開発段階のプロモーションで仁さんが鉤縄をかけていたお寺なのですが、そこですぐに特攻(闇討ち等)せずにいると、聞ける会話があります。

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「寺を壊すとハーン様怒るらしい」「古い寺は特に」ということなのです。
(蒙古兵はこの後「なんでだろうな」という会話をしていたような気がするのですが、現時点で確認できなかったので定かではありません。)

この会話から、ハーンは「対馬の人々が信仰心を持っている(人が多い)と認識している」ということが感じ取れます。それと同時に「ハーン自身が信仰心を大切にしている」ということだとも思います。

収集アイテム「文と書状」の「ハーンとの対話」でも書かれていますが、ハーンは割と普通の感覚を持っているのではと感じる部分もあります。
衝撃的な展開の場面でこれでもかとハーンが出てくるので、うわ…と思う部分も少なくありませんが、手段を選ばず怖いくらい突き進むまっすぐなところは、方向性は違えど仁さんと同じだと思います。

「ハーンとの対話」を書いた僧は「ハーンに魅入られてしまいました」というようなことを書いているあたり、これも人の心を利用するのが得意なハーンに掌の上で転がされているからではないか?……と思っている部分もあったのですが……書いているうちにこれは流石に自分の思い込みのような気もしてきました。

仁さんに対し自分の鬱憤をぶちまけたり、どうにかのし上がってやるという思いは物語としてプレイヤーも見ることが出来ますし、飴と鞭の使い方が長けていて、頭も要領も文句ないけど何か運ないみたいな…

心を許した人間には正直だからこそうまくいかない部分もあるのかなと思います。本来優しいところもあるけど非情に振り切りたいような。ハーン以外の蒙古兵もよく『道理の通じぬ獣』と言われていますが(そう思われるのも無理はありませんが)、彼の場合は自らそれを選んだような気がします。

だから信仰の許容については「(あえて残しておくことで)戦略に使うという思考」「ハーン自らの信仰心」「島民の信仰心に対する心からの理解」、そのすべてを持っているのがハーンなのではないかと個人的に思っています。

5.最高に魅力的な最高の敵

ハーンは本当に目的に向かってまっすぐに進みます。

戦闘中に怯えて逃げ出す蒙古兵もいることから、恐怖に負けて島民に助けを求めた人間も中には居たかもしれません。
すべての兵士がハーンに従っていたわけではないと思います。蒙古兵が国でどのような扱いがされていたのかが想像できるような品もありますが、ハーンを出し抜いて手柄を立てようとしていた兵士もいたはずです。

そんな中ハーンは、重要な場面ではいつも自分が表に立っていたような気がします。もちろん利用するものは最大限利用していたと思います。勝利し生きる為、そして『死してなお続く勲』の為に、彼なりに全力で足掻いていたのだと思います。

主人公でさえ助けようとした島民にすら命を狙われるような世界線なのだから、ハーンだって同じように味方から命を狙われていたであろうし、恨みもかっていたはずです。ハーンも完璧ではないから。

心底恐ろしくて、勝つためなら残虐な行為もためらわない。
でも、強くてかっこよくてどこか人間味がある

それがコトゥン・ハーンだと思います。

6.おまけ

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はまった

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ひたすらフォトモードで写真を撮りまくる楽しみ方もあります。蛙も馬も狐も鹿も蟹も…そのほかの皆もかわいいです。癒しです。もうハーン関係ねえ

『我が名はコトゥン』ていうあの言葉の響きが好きなのですが、同じように好きな方はいるんだろうか…