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随筆1 街、そして「料理屋」という手段

――皆さんの心の中に、印象に残っている街はありますか?

雑誌の編集という仕事柄、出張の絶えない生活をしてきました。
恵まれていることに、仕事を通して、47都道府県のほとんどを巡ることができ(2020年6月現在、未踏の地は高知県と熊本県のみ)、数々の魅力的な街、人、コト、モノに出会いました。

一方で、もどかしい出会いもそれなりにありました。僕にとってのそれは、画一化された、あるいは、画一化に向かおうとしている街との出会いです。

地方をレンタカーで走ることが多々あります。国道沿いを走っていると、道の両脇には、チェーンのラーメン店や回転寿司店、和食店、ファミリーレストラン、ファストファッション、ショッピングモールが立ち並んでいます。意外と、どこの地方でも国道沿いは似たような光景が広がっています。
地方都市にも似たようなことが言えます。駅前には見慣れた商業ビルが立ち並び、開発は進む一方です。
そんな、全国どこにでもあるような街や風景に、あなたは愛着を感じますか?

――故郷や、いま住んでいる街の風景を思い浮かべてみてください。それはどんな街ですか。
 
僕にとって印象に残っている街は、“土地の文化が息づいている街”です。
それは“観光客数”や“お洒落(定義が難しい言葉ですが)”といった物差しで図りづらい場合も、往々にしてあります。

たとえば京都。僕は京都が大好きです。いままで50回以上は訪れている街ですが、飽きません。むしろ訪れるほど、新しい出会いや発見があり、好きになります。(コロナ以前は)街を歩けばどこもインバウンド観光客で溢れていて、年々景観も変わっていきますが、やはり魅力的な街です。そこには、日本の源流ともいえる京都ならではの文化、そしてブランド力があるからだと感じます。

一方で、三沢という街があります。三沢基地で知られる、青森県の小さな街です。観光客数は、京都を引き合いに出すまでもなく、多くありません。ですが、僕は出張で一度だけ訪れた三沢の街が、とても印象に残っています。
米国人が多く住むこの街には、本場さながらのアメリカン・バーが軒を連ねています。湯処の青森なので、温泉に銭湯のようなカジュアルさで浸かることができ、青森名物の「バラ焼き」も楽しめます(「赤のれん」というバラ焼きの名店は、気に入りすぎて、1泊2日の出張中に2回も訪れました)。そして、バーが多いことから夜勤の人々が多く、深夜3時まで営業している「レスト喫茶 ポルシェ」は、そうした人々の止まり木になっています。
決して派手さはありませんが、こうしたオリジナリティのある街は貴重であり、本質的な魅力を感じます。

――地方を訪れたら、やはりその土地ならではの食や歴史、文化に触れたい。

地方を訪れてまで、わざわざチェーン店に入る必要はないですよね。いま、あるいは、これからの地方(日本)に本当に必要なのは「個人店」だと感じます。昔は個人店(や、その集合体である商店街)がどの街にも当たり前にありました。それが街の個性や風景の一部にもなっていました。ですが、画一化の波は年々強まるばかりで、伴って個人店が飲み込まれているのが現状です。

残念ながら、僕の故郷、岐阜県羽島市もその一つです。僕は大学卒業までを羽島市で過ごし、就職を機に上京しました。当たり前すぎて、また、それが世界だったので、当時は故郷に対して、さして思うことはありませんでした。
ですが、冒頭で綴ったように、仕事を通して、あるとき、ふと故郷が画一的な街なのかもしれないと気づきました。
厳密にいえば羽島にも文化はあります。文化がない街などありません。悠々と流れる木曽川や、緩やかに連なる養老山脈は、きっと昔から変わらない、羽島を象徴する風景であり、見る者に安堵感を与えてくれる素晴らしい眺めです。しかし、ほとんどの場合、住民は文化を忘れているし、土地の価値や魅力に気づいていません。
 
僕が「料理屋」という手段を取ったのは、故郷を”つまらない街”にしたくないからです。僕自身が故郷のことをもっと知って、気づいて、文化を未来に紡ぎたい。食は地域に欠かせないコンテンツであり、文化そのものです。
そして故郷の人に、文化の大切さや地域の価値に気づいてほしい。
「料理屋 人生」はそのための受け皿です。ここから交流が生まれ、新しいことが生まれていくことを願っています。それが、いまは店名を「架空」としている理由です。

最後になり、手前味噌にはなりますが、僕は妻の料理が何よりのご馳走だと思っています。“料理は人”だと、妻の料理をはじめて食べたとき、感銘を受けました。そんな妻の料理を多くの人に伝えることも、「料理屋 人生」の役目です。
夫婦でのこの活動を通して、皆さまの人生にささやかな気づきや幸せをもたらすことができたら幸いに思います。

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