着物

いつからか覚えてないけど、僕の枕元にはいつもお姉さんが立っている。
眠る時、見上げるとそこでじっとこっちを見ている。
真っ黒でまっすぐで長い髪、赤い着物。
隙間から見える肌は、とても白い。
冷たい目、無表情。

初めてお姉さんに気付いた時はすごく怖かった。
しばらく眠れなかったし、電気も消せなかった。
でもお姉さんは僕の傍から離れようとしなかった。

しばらくしてお姉さんがいる事にも慣れ
枕元に立っていても眠れるようになった。
それでもお姉さんは僕の傍から離れようとしなかった。

またしばらく経ってお姉さんがいるのが当たり前になった頃
僕は初めてお姉さんに話しかけた。
『ねぇ、何してんの?』
お姉さんは何も答えないし、離れない。

彼女がいる事すら興味がなくなった頃、ある事に気付いた。
悪夢を見る日、彼女は枕元にいないのだ。
『・・・あなたは僕を守ってくれてたの?』
彼女は何も答えない。

彼女は僕を守ってくれる人だった。
ああ僕は今までなんてひどい事をしていたんだろう。
これからはもっと優しくしよう。
そう心に決め、それからは出来るだけ優しい言葉をかけるようになった。

昨夜、また悪夢を見た。
枕元に彼女はいない。
『ああ・・・やっぱりいないみたいだよ。』
隣に寝ているであろう猫にそう話しかけようと寝返りを打った。

そこには、枕元にいるはずの、彼女の満面の笑みがあった。

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