誕生日

彼はもう30過ぎのお兄さんで、その割には子供っぽい性格をしている。
犬が好きで、猫が嫌い。
理由は生まれてすぐ両親と別れ
8才くらいまで預けられた家では10匹以上の猫に囲まれて育ち
その家では自分よりも猫たちの方が大切に扱われていたからだ。

そんな彼と僕の出会いは突然だった。
10才を過ぎた頃、彼は僕のいた家に住む事になったのだ。
初めて会った日から、僕や他にいた奴やうさぎやわんこにとても優しくしてくれて
でれでれと甘えに行った僕に優しいキスをくれたのがとても印象的だった。

それから僕らはずっと一緒に過ごした。
何をするのも一緒だったし、楽しいも嬉しいも、哀しいも寂しいも、全部全部彼と一緒だった。

だけど彼が27才になった頃
今度は僕が前にいた家に戻る事になり、彼と離れる事になった。
『いつか絶対また一緒に暮らそう。』
そう僕は彼に約束をして家を出た。

前にいた家での生活はすごく悲しくて寂しくて、毎晩彼を思って泣いた。
だから僕はそこに暮らす家族に僕は必死でお願いした。
『どうか彼と一緒に暮らす事を許して。』
『彼はすごく優しいよ。みんなもきっと会えばわかるよ。』
『大好きなんだよ、離れていたくないんだ。』
何ヶ月も、必死で何度も何度もお願いした。
家族はそんな僕を見て、彼がこのうちに来るなら・・と許してくれた。

そして、彼との再会の日。
家族も僕もとても緊張して彼を出迎えた。
彼はすぐにこのうちを気に入り
家族も彼をすぐに気に入ってくれた。
いいこだね、可愛いね、優しいね。
そう言ってくれた。
けれど僕は、痩せ細って食欲の減った彼を見ていられなかった。

『僕と一緒じゃなかった間、何があったの?』
『夜になると窓の外を見て泣くのは、なんで?』
そう聞きたかったけど、怖くて聞けなかった。

そんな日々がしばらく続いた。
けれど彼はだんだん食欲が戻り泣く事もなくなり、ますますこのうちでの生活に慣れていった彼を見て僕は思った。
ひとりで乗り越えなきゃいけない事もあるんだって。
彼は彼で、つらい思いがあったんだろうと思う。
僕も僕で、たくさん哀しいことつらいことがあった。
でも、だからって一緒にいて一緒に乗り越えなくてもいいんだ。
少なくとも僕は、彼の存在だけで一緒にいなくても頑張ってこれたんだから。
そう思うようになって、僕は前以上に元気になり前以上に彼が大好きになった。

そして今日。彼は33才になった。
相変わらず子供っぽい性格で犬が好きで、猫が嫌いな彼。
昨日は2階から落ちて右手の親指に怪我をしてしまうようなドジっ子だ。

そんな彼と二人きりで迎えた誕生日。
僕がプレゼントに買ってきたのは、彼のお気に入りのご飯。
『誕生日おめでとう。』
そう言ってプレゼントを見せ、頭や眉間を優しく撫でると
彼は嬉しそうに『にゃおん』と可愛く、鳴いた。

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