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救済

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息をすることさえ苦痛な人生だった。毎日何かに追い詰められている感覚を覚えては、深夜に虚無感で潰されて涙を流すのにはもう慣れていた。


一人で部屋に閉じこもり、嗚咽で呼吸が出来なくなりながら自問自答を繰り返していた。

「存在価値が無いのにどうしてまだ生きているのだろうか。怖いから?痛いのが嫌だから?親族に迷惑をかけたくないから?」


痛みはもう感じられないほど感覚を失っていた。怖さを感じられないほど感情を失っていた。ご飯食べて、睡眠をとって、自慰をして、そんな普通の生活が出来ないほど欲も失っていた。


僕は社会人であるはずの年齢だが、家の前にあるコンビニで適当にアルバイトをしている。仕事はしたくなかったのだが僕がニートになるのは許されなかった。人が苦手なので極力部屋にこもっているのを知っていながら、精神障害の疑いがあると知っていながら、精神科には通院させて貰えなかったのは両親が周りの目を気にしてのことだった。気に入らないアクションを起こそうとすれば、その都度僕に手を上げた。最初は反抗をしていたが、身体も精神も砕け散ってしまうことを悟り、抗うのをやめた。言いなりになったほうが楽だと思ったからだ。


抗うことも出来ないなんて惨めだな。


親には「週二でしか入れないから」そう嘘をついて二日だけ働いている。その親も親族やご近所さんには社会人の息子という嘘をついている。

働いている日以外は部屋に籠って思考ばかりしていた。


僕の状況を知った数少ない友達は、深刻な表情をしながら僕に救いの手を差し伸べてくれた。でも僕はその手を払い除けて、大丈夫だからと嘘をついて笑った。思ってくれての行動だったのに無礼だなと思いながらも手を取らなかったのは、" 縋る " という行動は嫌だったからだ。


小説や論文を読むのが唯一の趣味だった。一番好きなのは、" 無知は愛である " というタイトルの小説だった。愛を知ってしまい苦しむそんな内容の本だ。感情がある故苦しんでしまう主人公を沢山見てきたことで、無感情であることが良いのではないか。そんな自分勝手な解釈をしている。その解釈のせいだ、きっと差し伸べてくれた手を振り払い続けたのは。


僕は、他人と違うということで自分を肯定している。無感情になってしまったことに優越感を覚えていた。友達にはお前は頭がおかしい、不幸な奴、サイコパス、そんなことまで言われた。別に僕は不幸ではないのに。


前までは心臓が潰れてしまいそうな苦しさや様々な感情で毎晩泣き続けていたりした。が、無感情になってからは涙を流すことさえなくなった。


そして今日は自殺するか否か、ということを思考していた。

無感情を手に入れて優越感を得ていたので希死念慮はあまり無い。



結論からいえば、自殺しようという考えに落ち着いた。好んで自殺を選ぶ人間はあまりいないだろう。自殺すれば他の人とは違うという感覚を、優越感をもっと得られるのかもしれないと考えたらこの選択になった。何も無くなってしまうが、何も無い僕にはふさわしい終わらせ方だろう。明日の予定は自殺。いつもより少しだけ胸を躍らせてベッドに入った。



翌日になり目が覚めた。部屋から出てきた僕に両親は驚いていた。何か言っていたような気がしたが、すぐに家を飛び出した。


近くに管理の甘い高いビルがあるので、そこから飛んでみようと思う。

「ほんとに警備が脆いんだな…」

エレベーターと階段を使ってすぐに屋上に来ることが出来た。


コンビニの廃棄にあったオムライスを持ってきたので、最期の晩餐と称して食べることにした。

味は前よりも感じることができて、なんとなく美味しいとおもった。

食事を終えて、さっそく柵から下を覗いた。この高さなら僕でも死ねるだろう。完遂できることを願って柵を超えた。あとは手を離すだけ。優越感で満たされた。


「さようなら世界」

目を閉じて、手を放した。



「死ぬんですか?」

ガシッと掴まれた腕に目を開けた。知らない女の子が僕を掴んでいた。そして僕を持ち上げて柵の内側へと戻した。彼女の力の強さに驚いて口が塞がらない。いや、スタイルはいいとは言えないがとても可愛すぎる女の子だったからという理由で塞がらないのかもしれない。


「死ぬのを止められたから唖然としてるの?それとも私の力が強くて引き戻されたから?」

「いや……」

人と会話をするということがあまりにも久しぶりなので言葉が出てこない。


「ごめんね。此処わたしの好きな場所だから警備が厳しくなってしまったら困るし、なんか止めちゃった。」

なんだ、僕を死なせたくなかったのかなんて考えが一瞬頭をよぎったがそうではなかった。



「なんで死にたいの?お兄さん顔色は悪いけど、別にすっごい苦しそうな訳じゃないし。」


「いやただ…その。なんか優越感を感じたくて。」

「え、自殺することで優越感が得られると思って死のうとしたの?!たったそれだけで!?」

彼女は笑いながらサンドイッチを食べている。


「苦しくて死にたくてっていう理由かとおもって心配したの損した〜!変な人だね。ほんとにウケる〜」


他の人とはちがう雰囲気と空気を感じた。なんだ?彼女は。僕は無感情を手に入れたのに、なんだか止めてくれたのがすこし嬉しいなんて、そう思ってしまっている。


「自殺止めてあげたんだからなんか奢ってよ〜!お返しは?無いの?」

詰め寄る彼女に、僕は戸惑う。

「ごめんなんか、何も言えない。僕無感情で、なにもわかんなくて。」

「無感情?精神疾患とかそんなやつ?助けてくれて嬉しいとか、ありがとうとか思わないの?」

「うん、僕は無感情を手に入れたんだ。」

少し自慢げに言ってみた。彼女は何を言っているのか分からない、そんな顔をして、

「無感情を手に入れたってなんだ…手に入れるもんじゃなくね?お兄さん絶対精神病じゃん、病院とか行ってないの?まあそうじゃないなら重度の厨二病?どっちにしろやばいね。」


続けて彼女は言う。


「じゃあ私のこと可愛いとか思わないの?結構言われる方なんだけどね〜太ってるけど。」

「それは…なんか、思ったかも。」

「太ってるって?最低!」

「いやそうも思うけど、可愛いって。わかんない。」


「うるさいな、お菓子辞めるし!でもそれなら無感情を手に入れたなんてただの思い込みだよ、可哀想に。プライドを傷付けちゃうかもしれないけど、人生は適当にそれなりに感情をもってヘラったり楽しいとおもったり、そのほうが絶対いいと思うんだけどな。」


私可愛いからね〜なんて言いながら彼女がいった言葉に、なんとなく傷ついた。無感情である方がいいということを全否定されたように感じた。


「お兄さんは何をするのが好きなの?なんの食べ物が好き?てか何歳?絶対童貞だよね、ウケる。めっちゃ孤独そうだし。」

「僕の考え方全否定されたみたいでなんか嫌だ。」

傷ついて、悲しいと思った。

無感情を手に入れたと思っていたが彼女の言う通り、単純に思い込んでただけなのかもしれない。悲しい。


「そんなんどうでもいいから〜質問に答えてよ〜あまりにも可哀想だからお兄さんの概念、私が破壊してあげるよ。悲しいと思ってるんでしょ、無感情じゃないじゃん。」


たしかにこれだと無感情とはいえない、他人と同じだという嫌悪感に頭が支配されても、彼女のことは何故か憎めなかった。


「ああ…質問ね。えっと、なんだっけ。好きなことは特になくて、好きな食べ物もとくにない。強いて言うならオムライスかな。25歳、童貞かもね。」

好きなことは思考することだけど、理解してくれそうにないし何も言わなかった。好きな食べ物なんて特にないんだけど、さっきオムライス食べたからなんとなく。あと童貞は事実。隠さなくてもどうせバレてる。

この女の子は観察眼が冴えてるというか、見方が鋭い。全て見透かされている感覚に陥る。


「はは、絶対無視すると思ったのに。プライドを折られてどうでもよくなっちゃった?質問に答えるなんて。25歳ならわたしよりうえだな。お兄さん、私明日もここ来るけどお兄さんも来ない?適当に話し相手になってよ。」

君は大人っぽくて僕と同じぐらいか少し下そんなふうに見えるから、年齢の想定がつかない。僕に興味がありそうなのはなんでなのかも全く。

「なんとなくで自殺するような僕とまた話したいの?まあ…考えとくね。あと僕より君の方がなんか変な人だよ。」

「よく言われるけど、お兄さんよりは絶対に変じゃない自信はある。精神疾患持ってないし。考えとくじゃなくて、じゃあ自殺を止めたお礼とかだと思って明日も来てよ。」

「……わかったよ。」


考えとくで誤魔化そうとしたが、そう言われると断れなかった。内心少し嬉しいなんて思ってしまったせいもある。感情に苦しめられてようやく無感情を手に入れたと思っていたのに…。


夜は彼女が頭に過ってあまり眠ることが出来ずに、朝が来てしまった。

あまり行きたくないな…そう思った。それなのに反して身体は目が覚めたら準備をしてあのビルへと向かっていた。


「あ〜お兄さん。おはよう。おはようの時間じゃないけどね。来てくれるとは!」

「…おはよう。お礼にできること何も思いつかなくて。」

お礼にとはいったものの、本当は話し相手が欲しかったのかもしれない。嬉しかった。求められるなんてことが初めてで。


「自殺阻止しちゃって憎まれてるだろうなと思ってたから、びっくり。ありがとう。忘れ物したから、ちょっとまっててくれない?」

「いや、別に、憎んでない。自殺した時の優越感は知りたかったけど、まだ感情あるんだって思ったから。いいよ、待ってる。」

彼女はすぐ戻ると言って、バタバタと階段を降りていった。僕が昨日、飛ぼうとした場所をもう一度覗き込んでみた。高さに少しゾッとした。思い込みだと気付かされたからなのか、感情が戻ってきている。本当に不思議で言葉が出ない。彼女のことが知りたいと思っている。戸惑いながら考えた。小説で得た知識でいうと、これは恋愛的感情なのか……。たった一日で?そんな、有り得ない。

苦笑しながら振り向いて座ろうとした時、彼女が鞄を持っていき忘れてることに気付いた。


「なんか知れたりして。」

知りたいという欲求で彼女の鞄を探ってしまった。その欲求に応えるように、僕は知った。



彼女は19歳、そして国立の医大生で心理学や精神に関する医学研究授業をとっているのできっと精神科医になりたいのだろうか。他に入っていたのは、沢山の薬とカッター。化粧道具。その他諸々。想定外の情報が次々脳に送られて、軽くパニックを起こしそうになった。見透かされているような感覚になったり、観察眼が冴えてるのに納得がいった。彼女は精神疾患なんてないと言っていたけど、いわゆるメンヘラなのか?人は見ただけじゃ分からない。


「なにしてんの。」

しまった。

「ああっ、おかえり。ごめん。別に覗きたかったわけじゃないけど、なんか君が分からないから知りたくて。」

「別に覗きみなくても、知りたいって言ってくれたら話したのに。大体会ってから二日目だから分からないなんて当たり前じゃん。ウケる。お兄さん、私に興味湧いたの〜?すごい成長だね。」


興味が湧いた、きっとそうなんだろう。自分でも自分が不思議でたまらない。


「で、なんか知れた?」

「君は僕とは違ってなんかこう…とんでもなく凄い人だったんだね。中途半端な僕とは大違いで関わっていいのか分からなくなった。」

「お兄さんみたいな考え方する人、今まで見た事なくてある意味お兄さんも凄い人だよ。」

「そう…かな。」


「お兄さんは私に興味があるんでしょ?なんか知らないけど私もお兄さんに興味がある。考え方が独特でもっとお話してみたいなと。時間あるなら私よくここにいるし、来なよ。」

興味があるなんて、言われたことなくて戸惑った。何が何だか分からないまま、僕はうんと頷いた。



「あとほら、見て。オムライス作ってきた。好きって言ってたから。」

目の前に差し出されたオムライスには、ケチャップでハートマークがかかれていた。適当に口から出た言葉だったが、言ってよかったような気がする。

「なに、このハートマークは、僕に気があるの?」

「僕は無感情だなんて昨日まで言ってた癖に、自意識過剰すぎない?感情ありありでは?」

「ごめん。なんか君といると感情が戻ってくるみたいで。いやそうゆうことじゃないんだけど。食べていいの?」

「どうぞ?自信あり」

口に入れたオムライスはこれまで食べてきたものの中で一番美味しく感じた。味覚もほとんどなかったのに…。

「美味しい。ほんとに。」

「でしょ?料理はできる。」

「なんか、不思議。何も無かったし何も感じなかった僕が君といると全部戻ってくるみたいで怖い。感覚も感情も。オムライス食べたら馬鹿になったかも。」


彼女はケラケラ笑いながら、

「私のオムライスが美味しすぎて全部取り戻しちゃったんじゃない?面白いね。救世主じゃん。いえーい。私あんぱんまん。」

彼女の言葉に僕は笑った。






あれから僕は時間があればビルの屋上に行くことにした。彼女がいる時もいない時も、僕は好きな小説を持って此処にきた。自殺しようとした場所がお気に入りの場所になった。そしてオムライスが本当に一番好きな食べ物になった。



彼女がいるときは沢山お話をした。僕は彼女になら不思議となんでも話すことが出来た。飛び降りようとした日からもう三ヶ月が経っている。こんなに月日が経てばお互いがお互いをそれなりに知っている、なんだか分かり合える不思議な関係になっていた。



「無知は愛であるって小説があるんだけど知ってる?全然有名じゃない小説家でもない一般人が書いてるネット小説なんだけど。」

「知ってるよ。」

驚いた、知ってるなんて。


「ほんとに!」

「私が知ってるお兄さんの中で一番意気のある声だったね〜今の。相当嬉しいのか。」

「嬉しい。人生で一番嬉しいかもしれない。」

「哲学的で胡散臭いなとは思ったりもしたけど、破滅的だけどいいお話で私も好きだよ。」

好きなことを分かってもらえることが趣味の共有が、こんなに嬉しいとは思わなかった。



「人生で一番うれしいこと、書き換えちゃうか。ねえ?お兄さん。私に色々話してくれたじゃん。それって私に心を許してくれてるから言ってくれたことだと解釈しているから言うね。私の家に来なよ。一緒に住もう。」

「…え?」

「お兄さん、きっと私といると楽しそうな顔をして話してる。お兄さんも君といると感情や感覚が戻ってくるみたいって言ってたけど、それが本当で私が救世主なら。一緒に住も。」


彼女といると感情のすべてが戻ってきたのは事実。感覚も。ビルの屋上に彼女が来ない日は気分が落ち込むし、話せなかった日の夜は寂しくてよく眠れない。話せると嬉しい。最近はご飯が美味しいと感じるし、膝を机にぶつけると痛いと感じる。一緒に住んだらなんて妄想もした。この関係を壊したくなくて何も言えなかっのに、彼女から提案されるとは思わなかった。


「いいの…?」

「いいよ。一週間のうちにお家においでよ。いるものだけもって。縛られなくていいんだよ、自由になったらお兄さんは他人と違うなんて言う優越感よりももっと強い感情をきっと知ることができるよ。私が救うよ。有言実行。最初に言ったじゃん?」

「いいなら、いく。知りたい。その感情は何?」


「うーん、幸せかなあ…多幸感。私が教えてあげるよ。」


こうして僕は彼女と一緒に住むことになった。付き合ってはいない、お互い好きと口にしたことも無い。彼女は多幸感を知ることができるよと言ったけど、僕はもうとっくに知っている。口に出さないだけで。

あの日から僕は彼女が好きで、きっと今は彼女も僕を観察対象としての興味じゃなく、好きなんだと思う。



親との縁を切り、バイトを辞めた。今は休職中だ。彼女が精神的に回復するまで休んで欲しいというから。

彼女の口癖は、「たくさん食べてたくさん寝て」だった。

彼女は僕が食べて寝て普通のことをするだけでも毎日褒めてくれた。多幸感を感じる日々。よくあのオムライスを作ってくれた。当然のように毎回ハートマークがついていて、僕は笑った。


一緒に住み始めてから、三ヶ月が経った。つまりあの日から一年程。傍から見れば恋人の関係に見えるだろうが、未だに付き合ってはいない。僕は彼女のお陰で精神状態もだいぶ良くなり、求職中のステータスだ。




「なんか買い出ししてくるね、欲しいものある?」

「いや、ないよ。いってらっしゃい。」

彼女に送り出されて僕は空っぽの冷蔵庫を埋めるために、買い出しに行った。

食べ物から日用品までしっかりと買い物をして家に帰った。



いつもなら空いてる鍵が閉まっていたので、偶然持ってきていた鍵を使ってドアを開けた。

「ただいま」




いつものおかえりなさいがないので嫌な予感がした。走って君の部屋に行った。

やっぱり。


でも今回は酷い。ODをしている見当はついていたが、致死量に近い量の薬を飲んでいる。


僕は不安に耐えられなくて安定剤を含んで、買ってきたものを玄関に置いたまま、眠っている彼女を見つめていた。




「あれ…」

そう言って目を覚ました彼女は三日間眠り続けた。僕は安定剤を飲みながらパニックを起こさないようにして、彼女の傍から離れなかった。


「おはよう、飲み過ぎだよ。」

「…ごめん。」

「死ぬ気だったの?今回、ほぼ致死量だよ。」

「わかってる。ごめんね。試験に落ちたことが割と人生の終わりすぎて。死ねたらなんて思っちゃった。」


僕を助けといて一人で死のうとするなんて、狡いんじゃないか。彼女もメンタルが弱いのはわかっていたから、気づいてあげられなかった罪悪感に駆られる。


「ごめんね、気付いてあげることが出来なくて。本当に。僕も安定剤のんで落ち着かせて眠ってる君を見てたんだけど、不安で死ぬかと思った。」

「不安にさせちゃったね。大丈夫。生きてるよ。なんか、オムライス作ろうかな。」


彼女はフラつきながらキッチンへと向かった。

その身体でオムライス作れるの…。否定すると彼女は嫌がることを分かっていたので、僕は後ろで椅子に座って、彼女を見守りながらそして思考する。


差し伸べられた手を振り払って縋ることを拒否しては一人で生きてきた僕にとって、彼女が差しのべた手を取ることは苦しい決断だった。最初はいつも通り縋ることなんてしなければよかった、間違えた。そう思った。だけど彼女は今となっては僕の中でいちばん大きい存在となっていた。僕のすべてと言ってもいい。それほど与えてくれたものは大きかった。


考えていたら、彼女がオムライスができたとテーブルに運んできた。いつもより形の悪いオムライス。そして今日は何故かハートマークが二つも。


「なんでハートマークがふたつ?」

「なんか変な形になったし、間違えてハートマーク二個になったし、多分味付けも間違えた。」

なんだか可愛くて笑いながら僕は食べた。

「ねえ、まっず。OD明けの味覚ってバグりすぎじゃない、?」

「だから忠告したのに。おいしいって言えな!」

「ごめん、おいしいよ。」

「最初からそう言えな!!」



このくそ不味いオムライスを食べ終わる頃、僕は彼女に言った。






「ねえ、気持ち悪い事言ってもいい?」

「それお兄さんの好きな小説のセリフじゃん。なんか聞き覚えあると思った。」




「結婚しよう」

「…ん?私達まだ付き合ってもないが?」

彼女ははてなを浮かべた表情をしている。

「いいよ、付き合うなんていらない。結婚しよう。」


僕は彼女がいないと生きられない。ずっと理解していた。検討する期間も要らない。ただ彼女がずっと僕の傍にいるだけで、それでいい。身勝手なんだろうな、そう思う。


「お兄さん、私はお兄さんを救うことが出来たの?」

彼女は泣きながらそう言った。

「僕が今息をして生きているのも、此処にいるのも、精神疾患が回復したのも、僕のすべて君が居てくれて救ってくれたからだよ。全部君がくれた。君は僕のことを変な人だと言ったけど突き放さなかった。君がいない世界に意味は無い。」


つられて僕も泣いてしまっている。何を話してるのかも分からないほどに涙が出てきて言葉が出なくなってしまった。


「私は過去に救えなかった大切な人がいる。メンタルが弱い私は自虐することで耐えてきた。偉そうにご飯食べて寝てなんていってたけど、人には言えても自分ではなかなか難しい。自信がなかった、なにもかも。お兄さんと喧嘩した時、耐えられないと思ったりもした。でも私もきっとお兄さんがいないと今生きていないかもしれないね。なんか泣いてると上手く喋れないね。」

彼女は泣きながらも僕を必要としてくれていた。本当に救われたことが僕の拙い言葉で伝わったのだろうか。

涙の雨がすこし収まってきたので僕は口にした。


「本当だよ。君がいないと僕はいない。ありがとう、救ってくれて。生きていてよかったなんて二度と思うことがないと思っていたけど、君と出会ってから思う。君が音ゲーが好きだからと連れていってくれたゲーセンで初めてゲームをして、ゲームという趣味が増えた。最初に聞かれた好きな食べ物は適当に答えたのに、君のオムライスをたべてからはオムライスしか食べないほど好きになった。君の全てを知りたくて。君が聞く音楽を聞いたり、僕は気持ち悪いのかもしれない。」

精一杯、これが僕の思いで言葉。



彼女はずっと泣いていた。

嬉しくて泣いているのか悲しいのかわからない。

泣き止んだ頃に彼女が言った。



「私は救えたんだね。ありがとう。救わせてくれて。お兄さんの好きな小説みたいな人生をしてるね。一緒ではないけどなんかそんな感じ。ウケる。お兄さんがあの時自殺しようとしてくれてよかった。私もきっとお兄さんがいないと生きていけないと思う。やだな、思考が似てきた。」

彼女も僕も笑った。


依存は壊れていくだけ。保てなくなるだけ。僕が好きな小説のセリフの一部。依存は僕もよくないと思っている。

今の気持ちではこの小説の感じ取り方がなにか違う。


お互いが依存してしまっている。

共依存。

僕も彼女ももう戻れない所まで来ている。分かっていた。小説を否定するように僕は思った。" 共依存 " それでもいいと思える愛もある。いつか壊れてしまうかもしれない。いつか潰れてしまうのかもしれない。けれど僕達はこれで良かった。無感情のときはなんの面白みもない、つまらない。何も分からないのだから当たり前だろうな。でも君が教えてくれて愛を知った。当然苦しみを覚えた。一人で潰されそうなあの夜の苦しみではない、苦しみと愛しさをそして多幸感を感じていた。

無知は愛である。知らないことは一番の愛かもしれない。だけど知って壊れることも愛なのかもしれない。

愛に定義などない。其れでいい。



「共依存してるのかな、私達は。」

「そうかもね。結婚してくれるの?」

「うん、わかるでしょ。」

「いつか壊れちゃうかもよ。それでも?」

「私の薬飲んだら?それでも延命できないなら…うーんどうしようか。一緒に心中しちゃえば。」

「考え方が似てきたね。」

「うるさいな、いいじゃん。もう私もお兄さんもお互いがいないと生きられないんだから。結婚しようか、お兄さん。」




人から見れば狭い世界で可哀想だと思われてしまうかもしれないな。

お互いに縛りつけているだけだと。

他人の意見なんてどうだっていい。

僕達の世界は狭くてとても生きやすい。

目の前の幸せだけを考える。

死が救済だった彼女と、無感情が救済だった僕。他人の目にどう映ったとしても、僕達の愛は歪でありながら美しい。




僕と彼女には。其れでいい。

例え、壊れてしまったとしても。




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