ショートショート「ゆるキャラ」

「これが最終候補かね」
「はい。市民の一般公募のなかから、観光振興課のものたちで会議をして決めました。あとは市長のご判断をもって決定したいと思います」
「まーいまどきゆるキャラのない町なんて珍しいくらいだから、うちも早く決めないとな」
「はい。ゆるキャラがあることでSNSの発信力も違うと思います」
「そんなもんかな。まーいい。どれどれ」
「地元在住のデザイナーの作品でわが市の特産物と観光名所がモチーフとなっております」
「デザイナー?すごいじゃないか」
「ええ。ちょっとゆるキャラらしからぬセンスの良さがうちの課の若い者にも評判が良く、配色などもやはりプロっぽい感じが…」
「ゆるキャラらしからぬじゃ困るよ。ゆるキャラなんだから」
「ははは。ですが他のゆるキャラとの差別化することで認知度も上がるかと」
「…なんか色が」
「いろ」
「ちょっと色が中途半端だな。もっと明るくて目立つ色じゃないと」
「それは地元特産の野菜の色がモチーフとなっております」
「野菜?」
「はい。特産の野菜の」
「野菜なんかどこにもないじゃないか」
「野菜をデザイン化した図形がシンボルとして額にあしらわれておりまして」
「あーこれじゃ野菜だか何だか分からないよ。誰が見ても分かるようにしないとゆるキャラの意味がないから」
「ですが全体のバランスをふまえて…」
「色は赤」
「は」
「こんな地味な色じゃ駄目だ。赤が一番目立つから赤にしよう」
「それにこのおなかについてる変なのはなんだね」
「それは観光名所にある歴史的な建築物をデザイン化したマークになります」
「デザイン化デザイン化って分かりづらいだけじゃないか。子供から年寄りまで誰が見ても分かるようにしないと」
「は」
「そうだ。頭を野菜の形にしよう」
「頭を」
「そう。わが市のシンボルの野菜を頭にもってこなくてどうする」
「ですがそれでは」
「おなかのマークはいらんな」
「…」
「それにきみは責任者として一番肝心なことに気がつかないのかね」
「といわれますと」
「よく見てみなさい」
「ええ。それはもちろん見てきましたが…」
「見すぎるとかえって気がつかないものなんだよ」
「は」
「わたしは一目で分かった。きみがいつそれを言い出すか待っていたのだが、どうやらわたしの期待外れだったらしい」
「…」
「いいかね。これではどこの町のキャラクターか分からないじゃないか」
「あ。それは入れない方がいいといううちの課の若い者の支持もあってこのデザインに」
「おなかに市の名前を入れよう。誰が見ても分かるように大きな字で」
「…」
「それで作り直した案を提出するようにそのデザイナーに伝えなさい。春の観光シーズンに間に合わせないといけないから急がせるように」
「は」
「春か…」


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