私流、グラフィックイコライザーの調整方法。備忘録。
はじめに
30年前、私はオールディーズのライブハウスや自身の店で、音響エンジニアをしていたことがありました。
その時に、グラフィックイコライザーをよく調整しました。
完全な独学でしたが、せっかくなのでその時の経験を備忘録として書き留めておきたいと思います。
ただし、
レストラン風な小箱で、
音楽のジャンルも毎日ほぼ変わらず、
3~6人編成のバンドが演奏出る程度の一般的なPAシステム。
使っていた機材は31バンドのアナロググライコ。ミキサーに内蔵されているものではなく、卓とPAパワーアンプの間に入れるもの。
素人一人の独学による調整
という、かなり限定された環境での話であることをご理解ください。
そして、あくまで個人の感じた意見であり、正解不正解を議論するつもりはありません。また、なにぶん30年前のことを思い出して書いていますので、現在は当てはまらないかもしれません。
ま、その程度のものとして読んでいただければ幸いです。
基本は下げ調整
私のいた環境でのグライコの目的は、箱に合わせた音場の調整です。歌がメインのライブでしたので、声を聞きやすくすることが最重要事項でした。
なので、
「声が、声のように聞こえること」
「声が聞こえなくなる要素を排除すること」
が、グライコ調整の一番の目的です。
音楽のジャンルに合わせた音色を作ることではない、という前提で
話を進めたいと思います。
〇基本は下げ調整
基本的に調整はフェーダーの0のラインから下げる「下げ調整」が多く、フェーダーを上げていく「上げ調整」はほとんどしませんでしたね。
「耳につく周波数」「余分な周波数」というのは、盛り上がっているから聞こえるのであって、聞こえる音を判断して抑えることは比較的容易にできるのです。
が、「足りない周波数」「不足している周波数」ってのは聞こえていないのですね。
聞こえていない音をピンポイントでどこがどれだけ足りないのかを判断するのは難しいと思います。
経験豊富な技術者ならば相対的に判断できるのでしょうけど。
なので、明らかに音色がおかしい場合を除いて、下げ調整ばかりで、上げ調整をして足していくことは、ほとんどしませんでした。
〇調整が済んだら、いじらない
たとえばライブハウスによっては、
「キラキラしたテクノっぽい演奏にしたい」とか
「クラブ風な重低音が欲しい」とかいう目的で、
日によって、演者によって、グライコ調整を変えていくこともあるかもしれません。
高音や低音のどこかを上げ調整して、色を付けたりすることもあるでしょう。
しかし、ボーカルがメインだった私の箱では、ボーカル用に調整を済ませた場合は、あとはミキサー卓で補い、グライコは基本いじらない、としていました。
そうしないと、基準がなくなるからです。
グライコを毎回いじると、音も元に戻せなくなり、迷走する。
そしてミキサー卓での調整も毎回混乱する。
これでは調整の意味がありませんよね。
グライコの調整は、季節や温度、湿度、暖房、冷房などによっても変わるので、絶対に変えないというものではないのですが、そうそう頻繁には変えないほうが良いと思います。
まあ、そういう意味で、デジタルプリセットでいろんなパターンを記憶させておいて、一瞬で変えたり元に戻せたりするのは、すごく便利だと思うんですけどね。
30年前はそんなの無かったので(笑)
調整すべき周波数の見つけ方
マイクで声を発したとき、なんか変な声だな?と違和感を感じたことはありませんか?
それは、声のどこかの周波数が多いのかもしれません。
その周波数を適切に下げれば、違和感は解消するでしょう。
その周波数を見つける方法を紹介します。
まず、音楽を再生したり、声を発しながら
怪しいと思われる周波数のフェーダーを、一旦グイ~~っと上げます。
そして元に戻す。
これを一通りやっていきます。
これだけです(笑)
この時、調整すべき周波数にあたったときは、
最初に感じた違和感が、増幅されます。
変だ、と思っているところが増幅されるので、
すぐわかると思います。
で、その周波数のフェーダーを、違和感のないところまで下げて調整します。
だいぶざっくりとした方法ですが、私はこれでやっていました。
周波数の判別がつかないときは、一旦上げる、というのは間違いないんじゃないかと思います。
重要だと思われる周波数
私が調整するときに、特に重要視していた周波数を解説します。
正解かどうかは定かではありませんがね(笑)
〇 630Hz~2.5kHz
この周波数帯は、人の声の部分です。
男女に違いはありません。ほぼほぼこの中に納まります。
なので、人の声が変に聞こえるときは、主にこの中を調整します。
そしてこの周波数帯が、全体のレベルと比較して、相対的に
1.平坦のとき
2.凹んでいるとき
で違ってきます。
これについて説明します。
1.平坦のとき
だいたいこの周波数帯が、前後と同レベルとき。
つまり0dbのラインからあまり変わらない場合です。
この時は声が前に出て聞こえます。声の音像がスピーカーより前の位置にあるように感じます。声が近くに感じられるので、演者のモニタースピーカーには適しています。
声の音像をより前に出したいときは、平坦よりもやや上げ調整で、盛り上げてもいいでしょう。
ですが、バックバンドの楽器もこの周波数が上がるため、楽器の数が増えたり、音が大きくなると、うるさく感じることもあるでしょう。
モニターの数も多くなると、かえって聞き取りづらくなるかもしれませんね。
2.凹んでいるとき
この周波数帯域を0レベルよりも下げて調整した場合です。
この時は声が奥まって聞こえます。声の音像はスピーカーの奥にあるように感じます。声が少し遠くにあるように聞こえるので、客席に向いたメインスピーカーに適しているでしょう。お客さんから見た演者までの距離感が適正に感じられるのですね。
この調整はいわゆるドンシャリで、ハウリングも起きにくくなります。また、楽器の音も、声の帯域だけ抑えられるので、声が邪魔されなくなります。私個人では、この周波数帯をがっつり下げて、ボーカルはミキサー卓のフェーダーで上げてやる、というのが好きでよくやっていました。
〇 2kHz, 2.5kHz
この周波数は、”声の抜け”に関係します。
昔のマイクは性能が悪く、抜けの悪いマイクだと、
歌声の高音域が失われ、とても苦しいと感じるものでした。
歌声の、特に張った時の声が、張り上げたとおりに出ない。
一瞬自分の声が行方不明になるような、そんな苦しさを感じます。
そんな時に、グライコの2kHzをちょっと足してあげると、
声がすっとでるんですね。軽くなったように感じます。
さらに2.5kHzで声色を合わせます。
これで歌声の高音域も普通の声と同じようなボリュームで聞こえるようになると思います。
最近のマイクは性能が良いので、抜けの良いマイクが多いのですが、それでもここの周波数帯は、歌っているときの声にかなり影響すると思います。
なので、個人的見解では、ここの周波数帯はカットすることはほぼなく、マイクによっては、少々足してあげてもいいのかなと思っていました。
歌声にとって一番重要な周波数帯です。
〇 1kHz
個人的な見解では、この1kHz が非常に厄介で、難しいです。
なんといっても、「聞こえない」。
他の周波数なら、確認のために一旦、グイ~~っとブーストすると、音色が大きく変わって、その存在が分かるのですが、
1kHzに限ってはわかりずらい(笑)
なにも変わっていないように感じる。
それでも、声を出しながら調整すると感じることですが、
1kHzが多いと、ちょっと声に、”もや”がかかったように感じるのです。
で、ここを下げ調整をしていくと、だんだん声がくっきりとして、前に出てくるんですね。だいぶ抽象的な表現しかできませんが、この”もや”が晴れたところがベストな位置だと思っています。
なので、1kHzに限っては、多いと邪魔なだけです。
良いことはありません。
声の輪郭を”もやっと”させるだけ、な気がしています。
ステージモニターの調整中に、
音色は問題ない、
音量も問題ない、
楽器はよく聞こえる、
なのに演奏中、”声だけ” 聞こえない!
と演者が申してきたときには、この1kHzが多くなっていることを疑います。
”もや”っとしたせいで、自分の声が聞き取りづらくなっているというイメージでしょうか。
で、この状態で、聞こえないからと言って声のボリュームを上げていくと、ハウリングを起こしやすい。
経験上ハウリングも、この周波数が多かったように思います。
こういう時に1kHz付近を下げる調整をすると、全体的にすっきりして、声がよく聞こえるようになりました。
うまく説明ができないのですが、感覚的にそんな感じです。
なので、基本1kHzは「下げ調整」が多いです。ここを足していくことは、ほとんど無かったです。
〇 100Hz
100Hzは、いわゆる低音です。最も低音らしい低音で、
スピーカーの性能面で低音が足りないときは、まずここを足してあげます。
なので、ここは、足すことはあっても、下げることは少ないんじゃないかと思います。
〇 200Hz, 250Hz
この周波数帯に関しては、ほかのPA屋さんから聞いた話になるので
すが、基本、「下げ調整」です。
というのは、スピーカーの箱の大きさによる共振のせいで、
ここの周波数が盛り上がることが多いらしいんですね。
なので、ライブハウスの会場の大きさや、
スピーカーのメーカー、位置、数等にかかわらず、基本、下げ、でよいと。
スピーカーの大きさなんて、大した違いはありませんから、
下げるもんだと思っていて良いようです。
確かに、ここを適切に下げ調整すると、低音の輪郭がはっきりして、より力強く感じるということがありました。
まあ、はっきりとはわかりませんがね(笑)
下げ調整しなくても問題なければ、それでいいとも思います。
でも、わざわざ足していくことは、無いんじゃないかと思っています。
〇 50Hz以下
50Hz以下は、「全カット」していました。
そもそもこの周波数は人には聞こえません。というか、存在は認知できたとしても、”音”としては、とらえることができません。
そして、この周波数帯の音は、
鳴らすのにかなりのパワーが必要です。
それだけスピーカーの負担になっているんですね。
なので、聞こえない音にパワーを使うよりも、
ここはカットして、聞こえる部分を充分に働かせたほうが
スピーカーの性能を引き出しやすいだろう、という訳ですね。
なるほど、これに関しては納得がいきます。
よって、ここは確実に全カットです。
機材によって、「ハイパスフィルター」という機能があって、これをオンにすると、低音カットの効果になるのですが、いかんせん違いがよく判らないです(笑)
念のため、フェーダーで下げていましたね。
〇 15kHz以上
これも、50Hz以下と同じ理由で、聞こえないのでカットしても良いと思います。
しかし、昔よりもスピーカーの性能は上がっているのと思いますし、カットせずに残して再生したほうが、臨場感がでるということもあるかもしれません。
ここに関しては、お好みでどうぞ。
私はもう年齢的にも聞こえませんがね(笑)
まとめ
以上のようなことを考慮して調整すると、
だいたい次のような形になります。
何件かのお店で調整させていただきましたが、
どこもだいたいこんな感じに落ち着きます。
まあ、スピーカーの性能や、好みにもよりますので、これが正解、ということは絶対にありませんが、一応、この形になる説明はできるよ、ということで、ご理解いただければと思います。
グライコの調整に関しては記事が少ないので、
私の経験がちょっとでもお役に立てればと思い、備忘録として書いてみました。
ほんの少しでも参考になりましたら幸いです。