『休まず育てる』その4

ゆきさんが生まれて二ヶ月が過ぎた。予定日よりひと月早く生まれたので、もう二ヶ月。早い気もするし、長かったような気がする。つまりは時間の流れなんてなかった。
最近は動くものを目で追うようになった。ゆきさんの目にはどう見えているのだろう。壁に吊るした鳥たちや、動く僕やゆかりさんを見て何を思うのだろう。きっと覚えていない。覚えていないぶん、僕がずっと覚えていようと思う。
ものを目で追うようになったのならば、音楽も聴こえているのかもしれない。眠るとき子守り歌w歌うのだが、レパートリーがなく、ただずっと読経のように「ねーむーれー」と歌うしかない。しかしゆかりさんは鼻歌で何かをゴキゲンに歌っている。よく聞くと、ピクニックを歌っている。「丘を越えー行こうよー」と繰り返し歌っている。ゆかりさんとゆきさんはどんどん丘を越えていく。ときどき、仲間を呼ぶ時に、僕もコーラスで動物の鳴き声の真似をするが無視される。
何度も丘を越えても僕は仲間に入れてもらえない。ゆかりさんが眠り、ゆきさんを寝かしつけているときに僕もピクニックを歌ってみた。うごごと聞いたことのない声で反応してきた。

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