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アイドルと社会学

この投稿は、私が学部の頃に書いた社会学の成果物の一部を抜粋したものです。内容が古いことや一部誤りなどがあるかもしれませんが大目に見てくれると嬉しいです。。。内容は、ほぼ原文のままアップロードしています。

はじめに

この現代において、アイドルというものは社会的なブームとなっている。漫画家であり評論家でもある小林よしのり氏もAKB48のファンであることは、かつて秋元康氏を小林よしのり氏が批判していた背景からみると、考えを改めており非常に興味深い。

このAKB48というアイドルグループは、かつてのアイドルには無かった新しい試みが成されたアイドルである。AKB48は「AKB48劇場」「総選挙」「握手会」という3つのメインシステムで構成されており、それらは以前のアイドルでは考えられない革新的な思想の元に実現した。

それらの3点を踏まえたアイドルとファン、双方の視点の社会学的考察を行う。

アイドルと宗教

アイドル(idol)とは、本来「偶像」という意味である。これは民衆(ファン)が崇拝する対象であり、手が届かない存在であることを皮肉に示している(そうでなければ、あえてアイドルなどという言語が一般に普及しただろうか)。

デュルケム(Emile Durkheim)によると、宗教とは「信仰」と「儀礼」からなる。ここで争点となるのが、AKB48が崇拝の対象となっているかである。

ファンの中には、音楽番組やYouTubeなど動画の無料配信サイトなどでしか楽曲を聴かない程度の者や生活の軸としている者もおり、信仰しているか否かというのは、本人次第となり客観的に判断するのはとても難しいものである。以上から、ファンの行動からAKB48が信仰の対象となり得るかを考察する。

AKB48のCDには「握手券」やAKB48の総選挙において使用できる「選挙券」が同梱される。これは、CD1枚に対して1枚同梱されるので、複数購入することにより、その権利を行使できる回数が増えるのである。自分の応援しているメンバーに対し大量のCDを購入する者も、もちろん大量に存在しており、100万円単位で購入する者、果てには3000万円を超える者もいる。もしも、一般の人であり崇拝の対象となりえないのであれば、握手などに対しこれだけの金銭を費やすというのは考えられない。これは、そのファンにとってメンバーが特別な存在である、つまり聖なる存在であると言えるのである。 

以上からアイドルという言葉が示す「偶像」という点においては頷ける。AKB48ではCDをファンが大量に購入するのはメンバーという神を信仰し秋元康という神父の作り出した「免罪符」を購入する様にも見えるが、そのような一種の狂気が、宗教というものであり、ファンにおいてそれらは何ら異常性を持ってはいないのである。

アイドルとゲーム

このAKB48の面白い特徴に「会いに行けるアイドル」というコンセプトを持っていることが挙げられる。AKB48の最大の特徴に「AKB48劇場」という施設を秋葉原に所有していることが挙げられ、この劇場では、ほぼ毎日公演を行っている。

これはかつてのアイドルでは考えられないことである。アイドルというものは、これまでの概念ではテレビでのみ観るものであり、直接会えるといっても、とても大きなライブ会場で、豆粒ほどの大きさしか見えないということが常であった。しかし、この劇場ではすぐ近くでアイドルに会うことができる。これが、アイドルに対する固定概念を破壊するコペルニクス的転回となった。この変容が、「アイドル」と「ファン」とのこれまでにない新たな関係性を作った。

社会学者の濱野智史氏は、AKB48に対し「ものすごく真剣にハマれる育成ゲーム」という例えをしている。これは、ファンがアイドルを育成しているということを示しており、以前に存在していたアイドルよりもAKB48がファンとの間により親密な相互依存関係を築いていることを示している。これは、劇場において自分の好きなメンバーに対する「コール」を行い、それにアイドルも応えてより良いパフォーマンスでライブを行う。確かに、人気のあるメンバーのコールは大きいが、発声を鍛えれば十分に対抗する余地があるし、また周囲のファンも協力してくれる。このように、メンバーに対するコールにしても十分なゲーム性があるとしている。

そして、そのAKB48の育成ゲームをより過熱させるのが総選挙というシステムである。総選挙とはAKBメンバーを序列づけるものであり、ファンたちは自らの育成している(と錯覚している)メンバーのCDを複数枚購入し投票する。そして、その結果に対し良い結果なら十分な満足感を得て、もしも結果が悪くなっても自分の努力不足であると思い次回の選挙に備えて邁進する。そして、そのメンバーも同様にファンに対して感謝したり、自らの努力不足であると反省し邁進するのだ。

このような、ファンとメンバーが密接に関係するゲーム性が、AKB48を日本で知らない者がいないほどの知名度へと成長させたのである。


【参考文献】
・家泉裕香「アイドル文化の宗教性—AKB48の場合—」 東京外国語大学 平成24年度卒業論文 http://www.tufs.ac.jp/education/yushuronbun/doc/yusyu24_06.pdf
(2016/07/22参照)
・「AKB48の何が人々を熱狂させるのか」社会学者・濱野智史が語るAKBのシステムと未来
  http://ure.pia.co.jp/articles/-/12998?page=2
(2016/07/22参照)

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