[シナリオ]紬ちゃんはバレてない

登場人物

  • 桜木真奈(16)高校生

  • 榊涼太(18)高校生

  • 橋田結花(16)高校生

  • 相原紬(18)高校生

  • 女生徒

  • 生徒会役員

お題:写真

場面1:学校・屋上(昼)

桜木真奈(16)と橋田結花(16)が談笑している。

真奈「結花、みて。最近インスタで見つけた子なんだけど、紬ちゃんっていうの。可愛くない?顔めっちゃ小さくてやばい」

真奈が結花にスマホを見せる。画面には相原紬(18)が映っている。

結花「ふーん・・・確かに。でも現実にも目の保養になる男いるよ。ほら、あれ」

結花が指をさした先に、榊涼太(18)がいる。校舎裏で女生徒から手紙を渡されているが、突き返している。

真奈「あらら、振られちゃった」
結花「学校トップの成績で生徒会長でイケメンでしょ。あんなスペックモンスターに告白する勇気あるだけで凄いって」
真奈「あれ、生徒会長こっち見てない?」

屋上を見上げる涼太が二人を捉える。

結花「ほんとだ。えへへー」

手を振る結花。涼太はそこにいろというようなジェスチャーをして、校舎に向かい歩き出す。

結花「え!こっち来る!どうしよ真奈!」
真奈「今からメイクする?リップ貸すよ」
結花「お願い!」
真奈「まじか」

慌てて髪や服を整える結花。程なくして屋上の扉が開き、涼太が現れる。

涼太「君たち、屋上で一体を何している。ここは一般生徒立ち入り禁止だ」真奈「あ、えーと・・・。そっか。あはは」

顔を見合わせる真奈と結花。

涼太「そのリボン、二年だろう。ルールは知っているな」
真奈「ええと、私たちはお昼を食べていただけで・・・」
涼太「知っているかと聞いている。イエスかノーで答えろ」
真奈「ええと・・・はい・・・」
涼太「クラスはどこだ。先生に報告する」
真奈「本当に悪気はないんです。ここ、暖かくて気持ちいいし・・・」
涼太「クラスを聞いているんだ。質問に答えろ」
真奈「E組・・・です」
涼太「堺先生のところだな。このことは報告しておく。反省文は免れないと思えよ」
真奈「ちょ、ちょっと待ってください。いくら何でも厳しすぎないですか?」
結花「そうですよ!私たち、反省してます」
涼太「そうか、なら反省文も早く終わるな」

言い捨てて涼太が屋上から出ていく。真奈と結花、顔を見合わせて苦笑い。

場面2:学校・生徒会室(夕)

真奈が机に向い反省文を書いている。涼太がそれを立って見ている。

真奈「会長ぉ~・・・これでどうですか?」

涼太、紙を受取り素早く朱を入れる。

涼太「ほらここ、誤字、脱字。酷いな君は。お友達はとっくに終わらせて行ったぞ」
真奈「ちょっと手加減してくださいよ・・・。ほら私、スポーツ推薦なので。部活行かないと。大会近いんですー」
涼太「俺だって堺先生がご多忙でなきゃ君の反省文見るよりやる事あったんだがな」

真奈、渋々机に向う。部屋の扉が開き、生徒会役員が涼太に呼びかける。

生徒会役員「会長!また野球部と陸上部が校庭の縄張りでもめてます!」
涼太「またあいつらか・・・。わかった。今行く」

涼太が生徒会室から出ていく。程なくして真奈は反省文を放り投げ、出ていこうとする。出ていこうとしたところで涼太の鞄が目につく。

真奈「仕返ししちゃお」

真奈は涼太の鞄からノートを取り出し、大きく落書きをする。そのままノートを鞄に戻し、そそくさと生徒会室から出ていく。

場面3:真奈の部屋(夜)

真奈がスマホに噛り付いている。画面には紬の配信が映っている。

真奈「うおおお、紬ちゃん今日も可愛すぎる!えいっ!えいっ!」

真奈がスマホの画面を連打する。配信画面にハートが飛び交い、紬が笑う。

真奈のコメント「紬ちゃん今日もかわいい!」
紬「あははっ。はむ(注:真奈のアカウント名)さんいつもありがとう」
真奈のコメント「聞いて紬ちゃん。今日学校でめっちゃ怒られた。慰めて」
紬「ふふ、はむさんいつも優しいのにね。どんまい!」
真奈のコメント「紬ちゃんは今日なにしてたの?」
紬「学校行って、普通かな。あ、でもそういえば、友達にノート落書きされてて、帰ってみたらびっくりしちゃった」

紬が配信でノートを見せる。昼間に涼太にしたはずの落書きが映っている。

真奈「えっ?これ・・・なんで?」

真奈、スクリーンショットを撮る。

真奈「もしかして・・・」

場面4:学校・生徒会室前の廊下(昼)

真奈が涼太に向って頭を下げている。

涼太「え?ちょ、ちょっと君、突然何だ」
真奈「会長!お願いです!紬ちゃんに会わせて!」
涼太「何だって?」

真奈がスマホを取り出し、涼太にスクリーンショットを見せる。表情が凍り付く涼太。

真奈「紬ちゃんが私の落書き持ってました。会長、お兄さんとかなんですよね」
涼太「あ、あぁー・・・そうだ。紬はその、双子の妹だ。まさか知っているとはな」
真奈「やっぱり!今度の日曜、駅前のカフェとか誘ってもらえませんか?」
涼太「あ、あいつは人混みダメなんだ。ええと、日曜の学校とかなら平気じゃないか」
真奈「学校・・・!それはそれでいいかも!じゃあダンス教わりたいです。紬ちゃんの投稿見て、興味あって。あんなに上手くは踊れないと思いますけど、やってみたいなって」
涼太「は、話しておく。その、代わりといっては何だが、紬の事は内密に頼む」
真奈「大丈夫です!会長もお願いしますね」

真奈、元気よく返事しその場を去る。

場面5:学校・屋上(昼)

スポーツウェアを着た紬と真奈がいる。紬が真奈のダンスを見ている。

紬「真奈ちゃん凄い!今日一日でとっても上手になったね!」
真奈「いやいや、紬ちゃんに比べたら全然だよ。筋肉が違うのかなあ。私も結構鍛えてると思ったけど」

真奈が紬の肩に触れようとする。紬がとっさに身を引く。

真奈「あ、ご、ごめんね。急に」
紬「ううん。えっと、私もう行かないと。日曜の学校って新鮮で楽しかった」
真奈「あ、今日予定あるんだよね」
紬「うん。バタバタしててごめん。着替え、真奈ちゃんの教室使っていいんだよね」
真奈「うん。さっきの所。案内いる?」
紬「大丈夫。それじゃあ、私行くね」

紬、荷物を纏めて屋上から出ていく。

真奈「はぁ、今日ずっと避けられ気味だったな・・・。やっぱり強引だったかな」

場面6:学校・教室(昼)

真奈が教室の扉をノックする。

真奈の声「紬ちゃん?屋上に水筒忘れてたよ」

教室の中から大きな物音がする。

真奈の声「どうしたの?大丈夫?・・・入るね?」

真奈が扉を開け教室に入ると、そこには涼太が立っている。

真奈「あれ?会長?どうしてここに?」
涼太「あ、ああ君か。紬なら帰ったよ」
真奈「ん?っていうか、あれ?下着・・・」

真奈が涼太の胸元を指さす。ワイシャツにピンクのブラが透けている。涼太は慌てて胸元を隠す。

真奈「会長、もしかして・・・」

何も答えない涼太。

真奈「変態?」
涼太「違っ!いや、違わないか・・・認めるよ。その、相原紬は、俺なんだ・・・」

真奈、口を大きく開け言葉を失う。

真奈「嘘・・・」

涼太は観念し大きくため息をつく。

涼太「俺が榊病院の長男なの知ってるだろ」
真奈「いえ・・・」
涼太「そうか。この辺じゃ珍しいな。まぁとにかく、長男だから、跡取りだからと言われて育つうちに、いつの間にかこういう逃避が身についてしまった」

涼太、下を向き顔に手を当てる。

涼太「もう好きにしてくれ。人生終わりだ」

真奈は無言で歩み寄り、脱ぎ捨ててあった涼太のジャケットに袖を通す。スマホを手に取り、自分を撮り始める。

涼太「何してる」
真奈「これ、男に見えますか」

真奈、撮った写真を涼太に見せる。

真奈「見えないですよね。別の性別になりきるって難しいと思います。でも私、今日言われるまで会長ってわからなかった」
涼太「それはまあ・・・色々あるからな」
真奈「ですよね。きっとすごく頑張ったんですよね。メイクも服も。声色だって。その努力を、私は逃避だと思いません」
涼太「そう、か・・・」
真奈「はい。紬ちゃんは今も私の憧れです」
涼太「・・・ありがとう」

涼太が笑顔で返事する。その眼には涙が溜まっている。

場面7:学校・教室(朝)

教室机に座っている真奈。結花が駆け寄ってくる。

結花「ちょ、ちょっと真奈、あんた会長と付き合ってるの!?」
真奈「え?」
結花「学校中で話題になってるわよ!会長が彼シャツ着たあんたの写真を待ち受けにしてるって!」
真奈「え?え?」

教室に涼太が現れる。涼太は周囲を意に介さず真奈の席に近づいてくる。

真奈「会長?ここ二年の教室ですよ・・?」
涼太「今度の日曜、今度は駅前のカフェでもいい。会えるか」
真奈「え?あ、はい・・・」
涼太「そうか。じゃあ、またな」

涼太が教室から去る。教室に黄色い悲鳴が吹き荒れる。

結花「ちょっと真奈!説明して!」

肩を揺らす結花。呆然とする真奈。

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