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シナリオセンター本科卒業した

タイトルの通りだけど、青山にあるシナリオセンターの本科を卒業したので備忘録をつけておこうと思う。

実は卒業したのは今年の1月で、これを書いているのが6月だからだいぶ前の記憶にはなるけど…。体験記が誰かのためになることを願って簡潔に書いておこうと思う。本科はクラスが複数あるので、これはあくまで自分の主観であって、生徒や先生が違えばまた違ったものになることは最初に断っておく。


シナリオセンター本科ってなに

シナリオってなに

まず「シナリオセンター」の前に「シナリオ」とは何かを一応書いておく。シナリオとは映像化する作品のためのストーリーを書き下したもの。映像化する媒体ならなんでもよく、ドラマ・映画・アニメ・漫画などなんでも良い。例えば漫画っぽいシナリオを書きたいけどここでは学べないといったようなことはない。ただし、シナリオセンターではドラマを一番の本流とするきらいがあり、先生も生徒もドラマを念頭に置いて話をすることが多い。

シナリオは小説とだけは大きく異なる。映像化を前提とするため、客観的に目で見てわかる情報しか書けない。例えば「赤い花」とは書けるが、「美しい花」とは書いてはいけない。「⚪︎Aの家・玄関・外(夜)」のように場所と時間をきっちり示すフォーマットもあったりする。

noteにはシナリオ形式の文章をあげている人がちょくちょくいるし、自分もいくつかあげているので興味があれば見てみてもよいかも。普通の文章とは少し違うので面食らうかもしれない。手前味噌だけど自分が課題として書いたものをあげておく。

シナリオセンター「本科」ってなに

シナリオセンターは

  1. 8週間講座

  2. 本科

  3. 研修科

  4. 作家集団

というレベルに分かれている。本科に進級するためには8週間講座を修了する必要がある。8週間講座の方は座学が中心で、シナリオの基本的な書き方だけ知りたい場合はこの講座だけでよい。

本科はより実践的になって、20枚シナリオというのを書く。20枚シナリオは20字×10行で1ページとし、20枚以内で決まったお題について書く。お題は例えば「マッチ」「兄弟」「悲しみ」とか。教室では生徒が各々持ち寄った20枚シナリオを音読で発表し、それを他の生徒と教師が講評する。ただ、20枚シナリオを毎週書いてくる人は少数派で、毎週通っていれば講評することの方が多くなるとは思う。

本科は20枚シナリオを20本書いたら卒業になる。研修科の授業内容は本科と同じように、与えられたお題に関してシナリオを書くということを30本やるらしい。一応本科に比べてより内容に踏み込んだフィードバックになるということにはなっているが、先生や周りの生徒次第でそのクオリティは変わるので、期待しすぎてはいけないと思う。作家集団は逆に課題の縛りがなく、コンクールやコンペに出すものを見せ合う感じが基本と聞いた。
作家集団まで行くとその人達しか参加できないコンペを紹介されたりするらしいので、それに向けて頑張っている人は多いのかなという印象はある。

本科の授業はオンラインで受講できる。自分は数回教室に顔を出したが、殆どは Zoom から参加した。また、自分が本科を卒業するまでにかかった時間はちょうど一年だ。ただし間に3ヶ月ぐらい休んでいた期間があるので、課題を提出するのはおしなべて月2本ぐらいのペースになった。周りを見るに大体平均か、それよりほんの少し早いくらいかなと思う。授業は毎週出席する必要はない。今週は書きあげられなかったし、人の発表きいてるだけっていうのはつまらないから行かなくていいや、というのも別にOKではある。

20枚のシナリオでも、クオリティをそれなりに気にすれば一つ一つには時間がかかる。ネタの浮かぶ浮かばないはあまり時間に比例しないが、それでも考えない訳にもいかず、ネタが浮かばない時間がキツかった。自分は働きながらではあるけれどかなり時間の融通が利く方なので、普通にカツカツに働いていれば20本をこのペースでやるのは難しかったかもしれない。

なんでシナリオセンター入ろうと思ったのか

以前絵の勉強をしてみたいなと思ったのとほとんど変わらない。

  • 学ぶスキルを試してみたい

  • クリエイティブに対する憧れ

この二点だと思う。絵を少しやってみたからお話作りもやってみようかなという安直な発想に起因している。何がなんでも絶対プロになりたいとかではないけど、自分が面白いと思える話を作れたら楽しそうだなという気持ちはあるし、せっかくだから本科卒業までは絶対やろうとは思っていた。

本科の他の生徒雰囲気も自分に近しい温度感だったかなと思う。プロ志望と明言していた人もいたけれどかなり少数派だった。曜日が違う別のクラスだったらもしかしたら違うのかもしれない。緊張も親しみも適度で、自分は楽しく過ごせた。何回かお酒も一緒にもさせてもらった。ありがとうございました。

本科を卒業までやって良かったこと

他人からのフィードバックがもらえる

自分たちみたいな素人がシナリオを書いて、他人から感想をもらえる機会なんてほとんどない。特に今の時代、文字の媒体なら尚更だと思う。
シナリオを人前で発表して講評するという性質上、フィードバックは確実に得られる。しかもそれが講師や生徒さんからで、ある程度シナリオに理解の人からということも嬉しい。

ここをポジティブに受け取れるかどうかで本科に通って楽しいかは大きく変わる。自分はエンジニアなので、書いたものについて何か言われることも、逆に人の書いたものについて議論することも苦ではない。というかコードレビューをしているので日常茶飯事だ。そういう時のものの伝え方、受け取り方というのは人よりも慣れている方だと思う。

ディスカッションに慣れておらず、フィードバックを全然受け付けなかったり、逆に過度に深刻に受け止めてしまったりする人だとあまりいい事にならないかもしれない。逆にフィードバックを与える側のときでも、相手の気持ちを無碍にせず常にリスペクトを持ってコメントするべきだ。

コメントをくれる相手の顔を見られるというのも大きい。例えば少し辛めのフィードバックだったとしても、その人の性別や年代が自分と全然違えば「それは刺さるわけないよなあ」と思えるし、逆にそういう人からポジティブな評価があると「この辺は自分と同じなんだ」という発見もある。本当に人によって受け取られ方の差はかなりある。ネットのフィードバックで相手の属性が見られることは稀なので、書いたことが果たして伝わっているのかどうか、顔を見て判断できるのはとても面白い。

課題を与えてもらえる

シナリオを書く機会というのは、普通は作らないとなかなかない。自分でそういう縛りを設けたとしても、締切がないからなぁなぁに延びていってしまう人が大多数だと思う。なのでコンクール応募を探してそれを目標にしたりするけれど、欲しいタイミングで定期的にある保証もない。

そういう意味で「学校に課題を出されている」というのはありがたい。自分には十分書く理由になったし、必ず守らなければならないわけでもないのでキツければスキップできる。ちょうどいいプレッシャーだと思う。

あと、シナリオ20枚という決まったフォーマットが20回連続するのもいい。コンクールはレギュレーションが毎回違うが、本科の課題は違うお題でも同じ長さで連続するので、自分の成長を実感しやすい。「こういうのを試してみよう」と思った時にそれがどうだったのかも、こういう定性的な決まりが一つあるだけで随分わかりやすくなる。

自分のような初学者にとって一番大事なのは質よりも量なので、そういう意味でこのプログラムはとても理にかなっていると思う。

本科を卒業までやって良くなかったこと

テレビドラマ至上主義

最初の方にもちらっと書いたが、シナリオ自体はドラマ・映画・アニメ・漫画などに使える書き方ではあるけれど、センターではテレビドラマがメインとして扱われているような気がした。そこを頂点とするので、他の媒体を想定したシナリオは伝わらなかったり、軽く見られる傾向があるように感じた。それも自分が思っているより強くあった。

自分はアニメ・漫画・映画にはそれなりに触れてきたが、テレビドラマには全然触れてこなかった。しかし周りはその逆で、テレビドラマに触れてきた人が生徒・講師共に多かった。もちろんそれをお互いに面と向かって否定したりはしないが、そうなってくるとシナリオを書いても「ノリが合わない」場面が多くなる。実際に自分のクラスのメンバーは年齢高めな人が多かった。

例えばマッチングアプリで男女が出会う設定にしたとする。正直自分にとっては「居酒屋でたまたま居合わせた男女が仲良くなる」ぐらいフランクなことなのだが、これを書くと「何やら胡散臭い遊び人」とか「現代社会の闇に切り込んだ社会派ストーリー」、そこまでいかなくても「今風の設定でちょっとコジャレ感」みたいな捉えられ方をしてしまう。いずれも自分が考えた効果とは違う。

展開の速さの感覚もかなり違うように思う。自分は初手の設定にインパクトは大事だと思うのでそこを多少工夫してみるのだが、みんなあまり興味はないらしかった。フィードバックがもらえるのは有り難いことではあるけれど、決定的にノリが合わない立場からだと歯がゆい思いをするだけ、というのは否定できない。

この「ノリ」は割とシナリオという世界全般に共通するものらしいというのもわかった。これはシナリオのコンクールから見ると構造がわかりやすいのだが、コンクールで最も権威があるのはTBSやフジテレビといった大手キー局が主催しているものだ。だからテレビドラマに合わせて書くし、指導もそうなる。なのでまぁ自分の目線で言えばあまり好きじゃない感じになるのかなと思う。もちろん大手キー局以外のシナリオ公募もあるが、それなりの規模で、かつ定期的に開催されるものはないという認識だ。この構造はどうやらプロの間でも同じで、ドラマをやってた人がアニメの脚本書いてくれるんですかという感じ、とはっきり講師でいらっしゃったプロの脚本家がおっしゃっていた。

書き方の指導で不透明な部分がある

例えば「渋谷スクランブル交差点 俯瞰」とか「A子の家・玄関・外」とか色々書き方があって、それの教え方が体系だっていない。一応本科の前の8週間講座で教えてもらえる建付けになっているが、本科に行ってからそれ初耳なんだけど…ということが多く面食らった。

シナリオの書き方というもの自体世の中に100%定まったものがなさそうなので、これは仕方のない話だと思う部分もある。客観的な視覚情報と言っても、例えば「悲しい表情」はどうなんだというグレーな表現も多い。
シナリオセンター以外の学校ではまた別の書式を教えているという話もある。更にいうとシナリオセンターの先生が違えば違うことを言われる場面もあった。「シナリオは物書きの中では理系」と先生はおっしゃっていたが、普段プログラミング言語を相手にしている自分からすれば曖昧すぎて腑に落ちない点は多かった。

あまりにも体系だっていないので最終的には小言のように聞こえてしまい、まぁそんな真面目に聞かなくていいか、となってしまうのはどちらにとってもよい結果ではないのかなと思う。

行ってよかったか、次どうするか

行ってよかったか、ということについては間違いなく行ってよかったと思う。行く前はそもそも自分にストーリーなんて考えられるのだろうか、というレベルだったので、20本やり遂げられたという事実は大きな自信になった。

まだ全然未熟だけれど、数をこなしたことでどういう風にすれば自分らしい話が作れるのかも多少はノウハウが溜まった。この方法は十人十色で、なかなか定まった方法はなさそうだというのがわかったこと自体も収穫だった。

では本科を終えて次の研修科に進むかどうかという話になるが、自分は進級しない方針でいる。理由はやはりシナリオの世界が割とドラマ前提であるような空気があるので、あまり自分にあっていないと思うから。別にプロの脚本家になりたいわけではないので、無理にそっち側の世界に合わせていく気にはならない。

ただ、同じシナリオセンターでも漫画原作講座など、別ジャンルに特化した短期カリキュラムが開かれることがある。折が合えばその辺りには今後も参加してみたい。また、テレビドラマ以外のコンクールで興味があるものがあったらチャレンジしてもいいかなとも思っている。実際1月に卒業してから3月締切のやつに一つ応募してみた。
あとはコミティアで漫画を出すことを頑張ってみてもいいかなとか考えている。

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