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[シナリオ]スーパーラッキーボーイ


プロット(あらすじ)

シナリオセンター課題。お題:「よろこび」

冴えないおっさんたちが協力して恋を成就させるよろこび。

人物

  • 橋本聡(46)派遣社員

  • 町田照之(39)派遣社員

  • 河本淳子(45)食堂経営

  • 佐竹桔平(67)無職

  • 日野賢治(35)フリーター

本文

多摩川競艇場・観覧席・外(朝)

レースが行われている。

まばらに埋まる席の一つ、ガリガリの体に髭面の橋本聡(46)が叫ぶ。

橋本「差せ!三番!差せッ!あぁぁっ…!」

ゴール板を最初に通過したのは一番の船。三番は四着。

橋本は崩れ落ちるように席に座り、持っていた舟券を握りつぶす。

橋本「クソ、給料日まで十日もあんぞ…」

蹲る橋本。視界の端に擦り切れたパーカーに太った腹の町田照之(39)。

町田「お、三万。ラッキー」

町田は地面に転がる舟券を拾い集めている。それを見た橋本、

橋本「おい。なんだお前。当たり舟券でも探してんのか。ひもじいなあ」
町田「え?あ、ああ。これは違くて。ハズレの舟券集めてるんです」
橋本「なんだそりゃ。…まぁ知らねぇけどよ、ハズレならここにもあるぜ。いるか?」

橋本、舟券をひらひらとさせる。

町田「おっ!いいんですか?やった!」

町田が橋本の手から舟券を取ろうとするが、橋本、強く掴んで離さない。

町田「ちょ、ちょっと…」
橋本「譲ってもいいけどよ。昼飯奢っちゃくんねぇか。外れて素寒貧なんだよ」
町田「あ、あぁ~…まぁ。近くに行きつけの定食屋があるんで、そこでよければ」
橋本「お、兄ちゃん話わかるな。助かるぜ」

食事処たぬき・外観

錆びた看板に『たぬき』とある。橋本と町田、古い引戸を開け入る。

食事処たぬき・中

扉が開き、町田と橋本が入ってくる。

店の壁を見る橋本。壁にはびっしりと舟券が貼られている。

橋本「うお、すげぇ。これ全部舟券か?」
町田「ええ。全部ハズレですけどね。競艇やる奴には有名な店ですけど、来たことないですか?」
橋本「俺は普段馬の方でな」
淳子の声「いらっしゃ…あら、町田さん!」

河本淳子(45)がエプロンで手を拭きながら店の奥から現れる。

町田「淳子さん、これ」

町田、舟券を入れた袋を淳子に渡す。

淳子「お、ありがと~!今日も大漁ね!」

ニコリと笑う淳子。とっさに目を逸らす町田。町田の反応を見る橋本。

橋本「女将さん、すごいねこれ。ここまでハズレだらけだと運気吸われちまいそうだよ」
町田「ちょ、何いって…!素敵でしょ!」

淳子、笑いながら

淳子「確かにそれは一理あるかも。あ、そこどうぞ」

橋本と町田、客席にかける。

橋本「だろ?なんだってまたこんなの」
淳子「何でだろうねぇ。最初はお客さんの悪ノリだったかなあ」

淳子、水を運び客席に並べる。

淳子「店に来て負けたーって大騒ぎするもんだから、見たら本当に酷くて。それでみんな大笑いしちゃって」
町田「それから面白がって続く人が増えましたね」
淳子「そうそう。私もこの歳で独り身でさ、ハズレくじみたいなもんでしょ?そう思うと何か舟券もさ、捨ててあると可哀想で」
町田「いや、淳子さんはハズレなんかじゃ!」

淳子、少し照れた様子で、

淳子「もう、やめてよ。まぁ、おみくじだって凶飾るしね。…町田さんはいつもの?」
町田「あ…は、はい」
橋本「俺も同じので頼むよ」
淳子「はーい」

淳子、店の奥へ。橋本はそれを見届け、

橋本「で、お前。あの人に惚れてるのか」

水を吹き出す町田。橋本、笑って、

橋本「お前わかりやすいなあ。でもよ、男なら待ってないでガツンと決めなきゃな」
町田「それは…考えてますよ。拾った舟券の合計が百万になったら告白しようと」
橋本「おいおい果てしないな。無理だろ」
町田「そんなことないです。今朝集めた分であと十万の所まできました」
橋本「…ほぉ」
町田「俺、金ないし、デブだし、不細工だし…何か踏ん切りが欲しいんですよ」

下を向く町田。橋本、水を一気に飲み干しコップを机に叩きつける。

橋本「おもしれぇ、その話乗ったぜ。今日中に十万円分のハズレ集めさせてやる」
町田「え…?でももう素寒貧って」
橋本「なぁに、俺に考えがある。任しとけ」

ニヤリと笑う橋本。

多摩川競艇場・ロビー

佐竹桔平(67)が立っている。

橋本の声「おっ、いた!佐竹さん!長老!」

佐竹が声の方に向くと橋本がいる。

佐竹「橋本か。また胡散臭いのに会った。お前が多摩川来るのは珍しいな」
橋本「へへ。耳寄りな情報聞いたもんで。…最終レース、一番と五番が怪我してるそうです。番狂わせの七番ありますよ」
佐竹「何をまた適当な…おや、君は」

佐竹、橋本の後ろに町田を見つける。

佐竹「たぬき屋の…。淳子さんは元気かい」
町田「あ、は、はい」
佐竹「…ふむ」

佐竹、橋本と町田をじっと見る。

佐竹「よし、橋本。お前の情報買おう」
橋本「さすが長老!ありがとうございます!」

佐竹、橋本に千円渡しその場を去る。

町田「今のは?長老って」
橋本「佐竹さん。大ベテランの賭け師さ。舟に鞍替えしてたのは本当だったんだな」
町田「はぁ」
橋本「皆あの人に意見貰うからよ。そこに嘘吹き込んどけばハズレの山が一丁上がりだ」
町田「えっ!さっきの嘘なんですか!?」
橋本「仕方ねぇだろ。しかし長老、情報の裏も取らねぇとは耄碌したなあ」
ボリボリと頭をかく橋本。
橋本「よし、じゃあこの話もっと広めるぞ。俺は東側からやるからよ。お前は西…」
町田「(大声で)も、もっと?い、いや!」
橋本「なんだよびっくりした…」
町田「お、俺。人を騙してまで、幸せになる気ないです。だからえと。もう大丈夫です」

橋本に一礼し、その場を去ろうとする町田。橋本はすぐに背を向けた町田の手を掴む。

橋本「おい待て!待てって!」

後ろ向きのままの町田。橋本、一つ溜息し、

橋本「…まぁ。わかるよお前の気持ち。平日昼にこんな所来てんだ。外じゃ上手くやってない奴が多い。それこそ騙されたりな」

町田の体がピクリと動く。

橋本「それぞれ事情があるのは何となくわかってんだ。本当に恨む奴なんていねぇよ」

町田、少し間をおいて天を仰ぎ、

町田「…自分は西側、でしたっけ」
橋本「…おう。まぁいざとなったらさ、俺のせいにしろ。こんなの屁でもねぇからよ」

町田の肩を軽く叩く橋本。

✕ ✕ ✕

大きな身振りを交え男と話す橋本。

緊張しながら男と話す町田。

橋本と町田、次々と客に声をかける。

✕ ✕ ✕

ソファでスポーツ新聞を広げる日野賢治(35)に町田が歩み寄る。

町田「あのう、舟券探してますか…?」
日野「あ。長老から聞いたよ。最終七番?」
町田「あ…はい。お得ですよ…あはは」
日野「お得?やだなあ。当たる訳ないじゃない。七番どルーキーでしょ」
町田「え?」

町田、驚いた表情。

日野「え?君、たぬき屋でハズレの舟券集めてる人だよね。いよいよ君が勝負かけるから買ってやれって聞いたけど…違うの?」
町田「え…いや、ちが、わないです」
日野「何だ。驚かさないでよ。まぁ俺、今五百円しか出せないんだけどね。頑張って」

日野、立ち上がり笑顔で去っていく。

その場に立ちすくむ町田。

同・観覧席・外(夕)

橋本の元に町田がやってくる。

橋本「おいおせぇぞ!レース始まってる!」
町田「は、はい…すいません」
橋本「七番だ、見てろ。こいつは絶対…あれっ?」

橋本が指をさす先の七番の舟、最終コーナーで他の船をゴボウ抜き。そのまま一着でゴールしてしまう。

口をあんぐりと開ける橋本。

同・入場口・前(夜)


スカスカのビニール袋を持っている橋本と町田。橋本は肩を落としている。

橋本「…すまん、こんなはずじゃ」

町田、笑いながら、

町田「いいですよ。皆喜んでくれてたじゃないですか。超万舟券だって」

町田、大きく息を吸い込んで、

町田「…うん。俺、決めました。淳子さんに告白します」
橋本「え?集めたハズレ十万円分もないぞ」
町田「いえ、もう十分背中押されました」

笑う町田。その上空に満月。

食事処たぬき・外観(朝)

『臨時休業』の札が掛かっている。

多摩川競艇場・喫煙所・中

煙草を取り出す橋本、火をつけようとした所で何かに気づく。

窓から見える観客席に町田と淳子。

ニッコリと笑う橋本。

橋本「あの野郎。上手くやりやがって」

観覧席で楽しげに笑う町田と淳子。

橋本「…禁煙でもすっかなあ」

橋本、煙草をしまいその場を去る。

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