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[シナリオ]スタアの条件


プロット(あらすじ)

シナリオセンターの課題。お題:「憎しみ」

演技に情熱を燃やす若手女優・羽川恵奈。恵奈は自身の原点とも言える松井博明の作品への出演チャンスを得るが、同じ劇団に所属する金田夏美の枕営業で役を奪われてしまい、憎しみを覚える。

人物

  • 羽川恵奈(9)小学生

    • (24)女優 劇団Mute所属

  • 金田夏美(30)女優 劇団Mute主宰

  • 荒木周(30)劇作家

  • 松井博明(42)劇作家

  • 劇団員A

  • スタッフA

○劇場・中(夜)

万雷の喝采の中、カーテンコールが行われている。

客席の羽川恵奈(9)。その目には舞台の光がキラキラと反射する。拍手喝采のなか、恵奈は感動を抑えきれず立ち上がる。

恵奈の手には劇のパンフがぐしゃりと握られている。題名は『星の雪』。

○アパート・外観(夜)

古びた木造アパート。

○アパート・中(夜)

雑誌や資料が散らかった部屋。

壁には『星の雪』のポスター。

部屋の片隅で布団が膨らんでいる。

恵奈の声「でも、私は貴方を愛せない!!」

隣の部屋から恵菜の部屋を強く叩く音がする

○アパート・布団の中(夜)

スマホの明りを頼りに台本に齧りつく羽川恵奈(24)。ドンドンドンと壁を叩く音が続く。

恵奈「あーっ、もう。練習させてよ…」

恵奈は布団を剥ぎ、不貞腐れた顔を壁に向ける。

○レンタルスタジオ新大久保・中

荒木周(30)と数人の劇団員達が練習をしている。扉が開き、恵奈が入ってくる。

荒木「あれ、恵奈さん。今日バイトじゃ」
恵奈「うん、でも夏美さんに来週の稽古場のことで確認したいことあって。いる?」
荒木「いや、来てないな。っていうかあの人いるときの方が少ないからな…」

頭をかく荒木。

恵奈「あー…。うん。大丈夫。でも荒木さんいるって聞いたから。本題はそっち」

荒木、少し肩をすくめて苦笑い。

荒木「またいつもの激詰め?参ったな。今日は逃げられると思ったのに」

恵奈、照れ笑いして台本を広げる。中には書き込みがびっしり。

恵奈「この庭園のシーン。でも私の心を知る権利はシオンにはありません、の所」
荒木「うん」
恵奈「権利があったのに、がよくない?」
荒木「カイリのシオンへの気持ちを残すってこと?」
恵奈「そう。じゃないとやっぱりカイリの厚みも出ないと思うの」
荒木「うーん…。話の筋が混線しないか?」
恵奈「そんな事ない。むしろこっちの方がスッと入ってこない?」
荒木「そうなると夜空のシーンが…」

恵奈と荒木、大声で議論を進める。
他の劇団員たちがそれを眺めている。

劇団員A「頑張るなぁー」

○ホテルオーハシ・ラウンジ・中

サングラスをした金田夏美(30)がソファに座り入口を伺っている。

松井博明(42)がスーツの男と入ってくる。夏美がその前に現れる。

夏美「あら先生、こんな所で奇遇ですね」

スーツの男が前に出ようとする。松井はそれを制して、

松井「失礼、どちら様でしたかな」

夏美、サングラスを外す。

夏美「夏美です。この前の栖鳳書房のパーティではお世話になりました」
松井「あぁ…」

松井が咳払いし、スーツの男がその場を離れる。

松井「今日はどういうご要件ですか?」

わざとらしい笑みの夏美。

○ファミレス・裏口・外(夜)

スマホを手に立っている荒木。扉が開き、恵奈が出てくる。

荒木「遅いよ」
恵奈「ごめんごめん。店長の目盗んでまかないくすねるの苦労して。でもほら」

紙袋を掲げる恵奈。

荒木「お、やるじゃん。それ夜食にして台本直すかー。一旦公園でいいよね」
恵奈「うん。悪いね。バイト後にまで」

荒木、笑いながら

荒木「ホントだよ。頑固すぎ」

苦笑いする恵奈。

荒木「そうだ。これ見てよ。あ。本当は明日公表の話だから、まだ言うなよ。一応」

恵奈、荒木が差出したスマホを見る。

画面には『松本博明最新作オーディション開催』とある。

顔をガバリと上げる恵奈。

荒木「そういうこと。しかもタイトルは流星夜。星シリーズってことは先生本気だね」
恵奈「私、星の雪でこの業界志したの」
荒木「知ってる、知ってるよ。もう何遍も聞いた。…実は俺も松井先生の脚本手伝うんだ。オーディションでは会うかもな」

スマホを両手で掴んで話さない恵奈。

荒木、笑って恵奈の肩を叩く。

荒木「流石に手伝えないけどさ。頑張れよ」

○ラブホテル・客室・中(夜)

ピンクの薄暗い照明。ベッドの上で裸の松井、煙草を吸っている。その隣に寄り添う夏美。

夏美が松井の耳元に近づき、

夏美「ねぇ先生、新作発表されるんですね」

松井、ニヤリと笑い、そのまま夏美の手に指を絡ませる。

○劇場・入口・外(夜)

雨が降っている。その中でフラスタがいくつか並んでいる。
その一つに『祝・流星夜主演 金田夏美様』とある。

○劇場・舞台・中(夜)

万雷の喝采の中、カーテンコールが行われている。

スポットライトの中心には夏美。笑顔で観客席に手を振っている。

○劇場・後方照明ブース・中(夜)

黒いTシャツを着た恵奈が、スポットライトを夏美に当てている。

拍手喝采の中、歯を食いしばる恵奈。

恵奈に荒木が歩み寄ってくる。

荒木「…本当だったんだな。照明役を買って出たって」

何も答えず苦悶の表情の恵奈。

荒木「こんな事言うべきじゃないのはわかってる。けど、夏美さんの芝居見たらどうしても我慢ならない。…あのオーディションで俺達が出した結論は、お前だった」

恵奈、ライトを握りしめる。

荒木「…すまない」

荒木、その場を歩み去る。

○劇場・会議室・中(夜)

流星夜のスタッフやキャストで賑わっている。各々ビールやジュースを手に軽食を囲み、打上げが行われている。

スタッフA「それじゃ一発芸やりま~す!ん~~っ!さけるチ~~~~ズ!!」

顔を赤くしたスタッフAの周りで大笑いする夏美とキャスト達。

恵奈、それを遠巻きに見ている。

夏美の元に松井が近寄り、何か耳打ちする。夏美も松井の耳元に何か返す。

松井に握られている夏美の手。

恵奈、手にしていた台本を強く握る。

○劇場・裏手口・外(夜)

雨が降っている。夏美が庇の下で喫煙している。扉が開き、台本を手にした恵奈が現れる。

夏美「…あら。誰かと思えば照明さん。何の用?」

恵奈、台本を開き夏美に突き出す。

恵奈「…74ページ。桜の丘のシーン」
夏美「…は?」
恵奈「サキのユウトに対する気持ちは、恋慕じゃありません。だから例えば…」

恵奈を遮り、高笑いする夏美。

夏美、煙草を灰皿に捨て恵奈を睨む。

夏美「照明が主演女優に演技指導?なにそれ?ふざけてるの?」
恵奈「…でももっと良くなります」
夏美「あんたね!調子乗るのもいい加減にしなさいよ!」
恵奈「お願いです。星シリーズは私にとって大事な作品なんです」

頭を下げる恵奈。夏美、恵奈の持つ台本をはたき落とす。

夏美「黙って聞いてりゃ偉そうに。あぁ、何?最近アンタ調子いいもんね。このまま主宰も私から奪おうって腹?」

恵奈「そんなんじゃありません!私はただ、演技の話を」
夏美「演技!ハッ!!」

夏美、恵奈の頬を鷲掴みにし、ぐっと顔を近づける。

夏美「女が一番演技しなきゃいけないのはね、ベッドの上よ。アンタもどうせ知ってんでしょ。悔しかったら股開いてみたら」

夏美は恵奈を離し、フッと笑う。

夏美「アンタの大好きな先生がベッドの上でどんな風に鳴くのか、今度教えてあげましょうか?」

夏美、扉を強く締め出ていく。

下を向く恵奈。夏美にはたき落とされた台本が雨に濡れている。

扉を睨みつける恵奈。口元が震え、目にはいっぱいの涙を浮かべている。

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