石川

Twitter @_gerogerooee

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最近の記事

秋来ぬと目にはさやかに見えねども 風の音にぞおどろかれぬる

    • 昨晩は嵐だった。ベッドに横たわり、携帯で天気予報を何の気なしに眺めながら、眠りについたのだった。私は目が覚めてすぐ、枕の横にある携帯を手にした。時刻が13時を過ぎていることを確認すると、SNSを開いた。旅行中の友人が、グランドキャニオンを背景にした写真を載せていた。私はメールの返信と、SNSの更新を何度か確認した。何かを見た気もするし、何も見ていないような気にもなった。時刻は16時を過ぎていた。今から何かを始めるには、もう手遅れな時間だと思った。私は肘をつき、上体だけをベッド

      • 戯曲:ゴールドマンサックス

        休日の昼間、全くの快晴。 上池袋の道路の中心を老婆と介護士の女が歩いている。 介護士(舞台の端から現れる)もう少し早く歩けないのかね 老婆(介護士よりやや遅れて息を切らしながら現れる)ひい…ひい… 舞台の端から部活帰りの中学生の集団が走り抜ける。道の真ん中を歩いている老婆にぶつかりそうになったので、介護士は老婆の腕を強引に引き寄せる。老婆、悲鳴をあげる。 老婆 (介護士を睨み上げるように)夢だと思いたいね…この世界の何もかもが… 介護士 (腰が曲がった老婆の目線に合

        • 習作

          山の麓にある山下病院には、私の弟が長い事入院している、ブラジリアン柔術の道場に行って、頭が変になって帰ってきた。快活な表情をしていて、全然病人には見えないが、全ての人が炎に見えるらしい。看護婦に付き添われて病院の敷地内で頻繁に散歩などをして活発に動いているらしいが、軽いらしい弟の病気は全く良くならない。私はその病院の前を通る度に、憂鬱な気持ちになるのだった。 弟は医者が廊下を通るたびに、廊下に面した鉄格子に顔を近づけて「先生、僕はいつになったら退院できるのですか」と必ず聞く

        秋来ぬと目にはさやかに見えねども 風の音にぞおどろかれぬる

          小銭袋

          僕の父親はアパートで床のシミになって、一人で死んだ。死後一ヶ月を過ぎた状態で発見された死体は腐敗が進んでおり、本人の特定には難航した。最終的に僕の弟のDNAを調べることで、親族関係があることを特定した。父親は財産を殆ど残さなかったが、数百万の借金を残した。父親は酔うと「息子たちに財産を残す」と言っていたが、実際に残したものは大量の借金と、小銭が沢山入った袋である。 借金は、父のギャンブル癖にアルコール依存症が拍車を掛け、益々膨らんでいった。僕が物心つく前から、家にはよく借金

          小銭袋

          旅行記

          旅行記を書いてみたらどうか と言われたことを思い出した。旅行は好きなので、来週は東武東上線の終点まで行ってみようと思う。終点は寄居というらしい。寄居駅の近くには、荒廃して惨めになった駅にさらに追い討ちをかけるように、chillという馬鹿げた名前を冠した喫茶店があり(馬鹿の大都市渋谷でもそんな名前の喫茶店はない)、このような哀れな風景が、若者の自殺と東京の一極集中化に拍車をかけていると言われている。 東京に出る前、地元(札幌の片田舎) に住んでいた時の話だが、春明けの登校中に

          旅行記

          藤井賢太郎就活日記

          木曜日 11時 どうして私は弱者という立場に甘んじてきたのだろうか。一刻も早く、就職してアゲていかなければならない。ゴールドマンサックスに就職し、性的強者となり、自らの性的資源を利用して異性を蹂躙することが、最も脳汁が出て気持ち良いのではないだろうか。そうか!物事は実にシンプルだった!性別ロールプレイングこそが一番の娯楽なのだ!弱者同士で徒党を組むのはもう辞めだ!一刻も早く、強者男性になる必要がある。私の部屋は化石化した養命酒やヤクルト1000の残骸で埋もれており、私自身は

          藤井賢太郎就活日記

          日記

          1/21 朝練後に人生最高レストラン(松屋)で290円の朝食を食べていたら左向かいのジジイが絶叫し始めて思わずニッコリ。松屋で始まる最高の一日、最高の笑顔。絶叫するジジイを全無視してバイト開始。ぶち上げていっぞ! 1/22 30分パソコンに向かって唸り続け(Twitterでは90分と書いたが、流石に盛りすぎた)北村さんに 俺は何もしていないのにパソコンが壊れました笑 というLINEを大量のエラーメッセージのコピペと共に送り付ける寸前で解決して、また15分作業が進み、また

          能:マイルーム・マイステージ

          登場人物 ・藤井・宮澤 ・石川・高山・いずみ ・老婆 藤井「今日は集まってくれてありがとう、ってかゼミのみんなのノリじゃないとここまで集まんないっていうか、あー、いずみちゃんと高山くんがもうヤリラフィー!って感じだから早めに自己紹介しとこっか笑 えーっと本日幹事を務めさせて頂く藤井 "KILL THE RICH" 賢太郎と申します、趣味は裁判傍聴と草むしり、好きな言葉は武士は食わねど高楊枝です!」 宮澤「ああ!死にたい!」(ト持っていた短刀を腹部に突き立てながら正座

          能:マイルーム・マイステージ

          初冬

          菜奈「紅葉に色付いた葉がすべて散ってしまうでもなく、閑散として木々に付いているわ、この葉が全て散ってしまうまでは、まだ秋なのだろうね。 散るをいとう世にも人にも先駆けて散るこそ花とふく小夜嵐 この歌の情景は春だけど、詠まれたのは初霜が靴の裏に軋む初冬の月なのよ」 将暉「君は才媛で、随分と詩的なんだな」 菜奈「ねずみ色の空が東の果てまで続いてる時、初冬の肌寒い空気を思い出すのよ」 将暉「東の果てまでって言っても、雲はいつか途切れるじゃないか」 菅直人「途切れないよ、

          好きな人

          私は大学を卒業後に新卒で就職し、中央区にあるビルのオフィスでExcelに好きな人の名前を書く仕事をしている。この仕事はシンプルだが実に奥が深い。入社した当初はこんな仕事になんの意味があるんだろうって思ったこともあったけれど、充実した設備と信頼できる上司のお陰で毎日成長することができている。 聡明な読者なら気付いていると思うが、ヨルシカの『盗作』という作品は、好きな人の名前を書き続ける私の心理を巧みに書き出しており、私の思考を盗聴することで完成された"盗作"である。 嗚呼、

          好きな人

          7月16日

          練習に疲れたので近所の喫茶店で休憩を取ることにした。ゆっくりと食事を取り終わった後は持ってきた文庫本に長いこと目を落としていた。しばらくしてからふと喫茶店の窓から交差点に目を移してみると、夕暮れを予感させるほどに橙色になった日差しが人々の肌に優しくかかり、一日の終わりを柔らかく彩っていた。青空と入道雲のキャンパスにせり上がる白いビルと赤を基調とした物体が配置されている そんな写真が午前中に沢山TLに流れていたことが嘘みたいな暖色の彩りである。僕は夕暮れの柔和な輝きを確認したこ

          7月16日

          君にSUPER LIKE

          夏雄「僕は遮光された薄暗い部屋で、プレパラートを顕微鏡でジッと見つめるように、いつもあなたのことを考えていました。それは七月の初めの頃だったと思います。赫燿とした太陽が閉じきった部屋の窓から微かな光を漏らし、薄暗い部屋を淡く照らしていました。僕はその日に何故か、カーテンを開けてみようと思ったんです。カーテンを開けると、青空のへりからせり上がってくる入道雲と、天高く聳える太陽が見えました。そうしたら僕はいてもたってもいられなくなって、あなたのいる街へと駆け出したんです。」 朝

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          完全に夏が来た

          ピシッとしたオフィスカジュアルの服に、バンドマンみたいな風貌がくっ付いている男2人が レコーディングの締切を守らない女 の話をしていた。かつてだらしなかった男たちは社会に迎合して、社会に迎合しない女の世話をすることになったのだろう。社会に迎合しない若い女は責務から逃れる代わりに青春とか、すぐそこまで迫っている夏とかを目一杯享受するのだろう。そして夏が終わり日が暮れて、脂気のない和紙のような肌に老いの翳りが差すのはいつなのだろうか。 誰もが雑居ビルの螺旋階段でタバコを吸う老人

          完全に夏が来た

          義偉。お前、才能無いよ

          夜。新潟のイオンモールの駐車場。裏日本の陰湿な爆弾低気圧により暴風の爆音が鳴り響いている。下手には空き地がある。見るも忌まわしき乞食の老婆、ユリコが腕組みして座っている。上手には松屋とマックの光が輝いている。 キビボ 義偉。お前、才能ないよ 義偉 ああ、そんな。小生、国民の皆様のために一生懸命頑張ってきました。東海(トンへ)の荒波を掻い潜り、一労働者としてここまで登り詰めてきました。 キビボ (首を左右に振り)もう無理だって。 義偉 しかし、小生はまだ、何も。 キビ

          義偉。お前、才能無いよ

          思い出はかなしみと結び付いた時に完成する

          どこまでも管理されていない殺風景な自然が続いている。田舎の北海道の冬は、生活音の全てを雪が吸収するので、近くに道路がなければ木々が風に吹かれて擦れる音以外は、自分が雪を踏みしだく音以外存在しなくなる。僕は車一台が通れるほどの幅しかない雪道に立っていた。ちらほらと落ちてきた雪がコートの上に綿毛のように蓄積されてゆく。雪道の左右には落葉しきったブナ科の木々が、土や木の皮で薄汚れた雪を貫くように立っており、木々の隙間を分入っていくように大小の獣の足跡が続いている。遠くには名も知れぬ

          思い出はかなしみと結び付いた時に完成する