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天国に結ぶ恋、天城山心中

1957年(昭和32年)静岡県伊豆市天城山で学習院大学の男女学生が心中。
男は青森八戸の南武鉄道役員の息子、大久保武道。
女は愛新覚羅慧生といった。
あのラストエンペラー、愛新覚羅溥儀の姪だ。
二人の頭部には大久保のピストルで撃ちぬかれた銃創があった。
新聞はこの心中事件を「天国に結ぶ恋」として書き立てた。

溥儀の実弟である溥傑は日本の華族、嵯峨浩と結婚し、日本に住んで二女をもうけていた。
慧生は長女で、学習院大学の華としてもてはやされる存在。
いっぽう青森出身でバンカラ系の大久保は上流家庭の子女が多い学習院では浮いていたらしい。
大学はたくさんあるのに、なぜ彼は学習院を選んだんだろう。
彼が自分に合いそうなバンカラ校風の大学に進んでいれば二人の接点はなく、どちらも死なずに済んだはずだ。

嵯峨家では二人の交際を認めておらず、無理心中だとしている。
ざっと情報をさらってみると、慧生はこの恋愛に困っていた様子がうかがえる。
男から預かったピストルを友人に見せて、彼の自殺願望に関して相談を持ち掛けたりしている。
しかし、恋の最中の楽し気な彼女の書簡が残されているのも事実。
弾む気持ちを抑えきれない文面は、驚くほど今と変わらない恋愛感覚だ。

「大好きな大好きな大好きな大好きな大好きな大好きな大好きな大好きな武道様」
「武道様が思ってくださると思うだけでニャンコは幸せです。ほんとうに幸せ。世界で一番幸せです」
「『ゾッコン参って』います」

今だってSNSやブログの新着で上がって来そうなのに、65年も前のラブレターなのだ。
ほんのり気になる「ニャンコ」について調べてみたがネット上では明記されていなかった。二人の間の呼び名だったんだろうね。
慧生がニャンコなら武道は何?
返事に「ミッチーも幸せです」とか書いてあったら可愛いな。

検索中に「ニャンコ、戦争にいく」という菊池秀行の絵本のあらすじを読んでしまい、朝から泣いてしまった。ほんと菊池さんて怖い。

「愛新覚羅」について調べたこと。
愛新覚羅は満州の姓。字は当て字。
愛新は建州女真族(満州族)の王朝名で、漢語で「黄金」の意。
覚羅は女真族出身で清の初代皇帝となったヌルハチの姓「ギョロ」に漢語を当てたもの。
ヌルハチは清王朝を興した際に姓を「愛新覚羅」と改めた。
印象的な字面と響きを持つ姓氏、愛新覚羅の歴史はここに始まる。

中国の姓氏の8割は1文字の単姓であり、2文字の複姓はわずか。
それ以上で現存するのはこの愛新覚羅を含めて漢民族以外の苗字である。
愛新覚羅氏の多くは清朝滅亡後に「金」と改姓したが、今も中国に30~40万人の愛新覚羅氏が存在。
中国では姓を戻すことができるようで、この制度を利用して愛新覚羅に戻る金さんやルーツなき「愛新覚羅」さんも登場しているとのこと。

カッコいいもんね、愛新覚羅。

つらい毎日の記録