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おばさまとお食事。

以前、近所のおばさまの話を書いた。
私と同じ年齢の娘さんが亡くなって心が痩せてしまった方。
とてもとても優しい人だったのでほっておけなくて、月に一度ぐらい顔を見に行っている。

先月、メルカリで売れ残ってしまった高品質のジャケットやコートなど、3枚持って行って、よかったら使ってくれないかとお願いした。
そしたらおばさまは、懇意にしている移動販売の八百屋さんを呼び、練り物(こちらでは「天ぷら」と呼びますが、「さつまあげ」がわかりやすいかな)や野菜を買って持たせてくれた。おばさまの分と合わせて合計2800円。八百屋で買う額じゃないよね?
おばさまボラれているんじゃ、と心配になる。
だって個別に値段が付いてないんだもの。

帰宅後、天ぷらをうどんに入れて食べたらめっちゃおいしい。
大当たりでした。長崎平戸で買ったハモ入りのものとそん色ないおいしさ。
美味しいものだから高い。そういうことかしら。

またあの天ぷらを買おう。
月曜日と金曜日に来ると記憶していたので、リハビリ後におばさまに電話して時間を聞いてみた。
時間も品ぞろえも決まっていないらしく、八百屋さんに確認してくれることに。おおごとになってしまった^^;
折り返しの連絡が来て、

「車でくる?」
「どっちでも大丈夫ですよ」
「じゃあ車でおいで。ゴハン食べに行こう。連れて行って!今から行こう」「いいですよ、行きましょう^^」

前回、近所の回転寿司にゴハンに誘われて断った経緯がある。
一回だけごちそうになってもいいかな。私が払ってもいいし。
こんな時期ではあるが、意外と回転寿司は大丈夫そう。
おばさまもあちこち出掛けてないみたいだし。病院には行ってるけど、それを言うなら私だってリハビリで通院してるからリスキーな人だ。

八百屋さんはおばさまから連絡を受けて、取引先に在庫を確認してくれたけど用意できなかったみたいで、月曜なら持って来られるとのこと。
そこまでしてくれなくてよかったんだけど・・・。なんだか色々申し訳なかった。
「だから今日はゴハンに行こう」
とのことで、おばさまの道案内でたどり着いたお店は都市部にあるプチ料亭であった。
想定外だ。払える気がしない。

予約メインのお店っぽいが、店のご主人と顔なじみのよう。
少し話した後、メニューも見ずに「おまかせで」と注文。

おいおいおいおい、わたし、払えないよ!!

おずおずとランチメニューを見ると「日替わり 1200円」というのがあった。これなら大丈夫だけど、横に「おまかせ 4200円」が目に入る。こっち!?

しょうがない、今日はおとなしくご馳走になるしかない・・・

吸い物などが付いた高級お寿司のランチ。二度と来ることはなさそう。

最初はきれいに切り目の入ったイカだった。
ここでさらに想定外の出来事が。

ワサビが入ってる。

私はワサビがダメで、しかも今、絶賛口内炎なのである。
新鮮だから辛いのなんのって。
食べた瞬間、痛くて死ぬかと思った。いやマジで。

痛すぎて味がわからない。
どうしよう。

3個まで我慢して食べたのだが、これ以上食べたらおばさまのことが嫌いになりそうだったのでワサビを抜いてもらうよう頼んだ。

「最初に言わなきゃ(笑)」と笑われてしまった。確かにそうでした。
回転寿司ではさび抜きがデフォ。
高級寿司屋に入ったことがないから知らなかったんだよ・・・。
そういえばはるか昔に東京で「魚がし寿司」に入った時はいちいち「さび抜きで」って頼んでたなあ。

「私はいつもお寿司を食べたい時はここにくるの。回転寿司なんかは本当のお寿司とは思ってない」

旦那さまは料亭の板前さんだったおばさま。
やっぱり相当のグルメさんで、私なんかよりずっと優雅に暮らしてきた人で、古着なんかあげていいのかと悩むほどの格差を感じた。
洋服は最初から「もらっていただいている」という認識ではあったけど、ほんとにもらっていただいているのであろう。
なのに、こうしてご飯をふるまってくれる。律儀な人だ。

回転寿司とはネタの質がぜんっぜん違う。
ご主人も静かに職人の仕事をしてる感じが好感持てる。

親戚に魚好きでセレブっぽいことするのが好きな女性がいて、たまに高いとこに連れて行ってくれたが、その人の行きつけよりずっと美味しい。
彼女は、明るくて騒しい店が好みで、店主やスタッフに酒をすすめて「あんたたちも飲みなさい」「ありがとうございます!いただきます!」みたいなノリが好きなのだ。アホみたい。
こちらのおばさまの粋なことよ。

最後にいなり寿司が出たが、これもおつゆたっぷりで並のいなり寿司とは大違い。最近「まるで別の料理みたい」なんて騒がれてるいなり寿司があったが、こんな感じだろうか。
私はぜんぜんグルメじゃないし、食への興味が弱いので、そういうのを聞いたら「別の料理がいいならいなり寿司じゃなくていいじゃん」とか思ってしまうタイプ。(笑)

かなりお腹いっぱいだったのに、おばさまは追加させたいようで、何が一番おいしかった?と聞いてくる。
海老の踊りが出たので、どうやらそれを食べさせたかったようだ。
私が「ウニです」と答えると、「ウニお願い」と有無を言わさず追加されてしまった。食べたころに店主に「もう1つ握りますか?」と聞かれ、おばさまが「そうね、お願い」とオーダー。
おばさまもお代わりかなと思ったら、自分に出されたウニを私にくれた。
「食べないの?食べてください」と言ったが「私はもうお腹いっぱい^^」とのこと。私もです(^^;
すでに食べ過ぎていたが、せっかくなのでいただきました。残すなんて選択肢はありえません。

だってね、スシローでは今、通常メニューにウニはないし、こちらのウニははま寿司の5倍ぐらい乗ってるんですよ。

質も段違いで、トロトロでめっちゃ美味しい。
自腹で来れるわけもなく、もう食べる機会はないだろう。

帰り、おばさまは1万円札を渡して「お釣りはいいよ。ほんの少しだけど」と言っていた。オシャレやわー。
私も財布を確認したらなんとか大丈夫そうだったので、財布を開けて「自分の分、払います」と必死で言ったのだが「出さんでいいよ。しまいなさい」と取り合ってもらえなかった。
よかった、取り合われたらしばらく生活が苦しくなるところだった( ;∀;)

人は、食事をごちそうしてもらったことは忘れないと言う。
私もきっと忘れない。
毎日リハビリやそのほかの苦しいことで気持ちがすり減らされる中、素敵なお店で素敵な人といい時間を過ごしておいしいものをいただいたこと。

おばさまは「一緒にゴハンに行けてよかった」と言ってくれた。
私にお金を使っても何も見返りなんかない。純粋な好意だ。
その好意を、ほんとにありがたいと思った。
でもごちそうはもういいです。
私がポンコツすぎてついていけないもの(笑)

今後もときどき顔を見に行って、おばさまの健康を確認しよう。
それは損得じゃなくて、気になるからです。


つらい毎日の記録