フルカイテンはバーティカルSaaSの「ブルーオーシャン型企業」なのか?
■ フルカイテンの勢いが止まらない
小売業の在庫問題を解決するSaaS『FULL KAITEN』を提供するフルカイテンは7月6日、シリーズB資金調達ラウンドにてジャフコをリードインベスターとする5億円の資金調達を実施をリリースした。
3年前、国内最大手ベンチャーキャピタル ジャフコの大阪支局長 高原氏は初めて『FULL KAITEN』に触れ「SaaSのブルーオーシャンをいく企業だ」と舌を巻いた。
SaaSで提供される事が多い「既存業務のシステム」ではなく「未来の在庫を適正化」するためのSaaSとはどのような価値を持つのか。
前回の取材記事「SaaSハードシングス - フルカイテン編 -」に引き続き、今回はフルカイテン取締役の宇津木さんに話を伺った。
* フルカイテンをはじめて知った方は上の記事から読まれることをお勧めします。
↑ 「代表の瀬川はメディア出演が多すぎるため今回は露出を見送りました」と取締役の宇津木さん(止められているのは瀬川さん)
宇津木 貴晴 | 株式会社フルカイテン 取締役
BtoB SaaSプロダクト歴 15年。2度の起業を経て2015年にfreeeに参画し、セールス、マーケティング、マネジメントに従事。2019年7月より、唯一無二の在庫分析SaaS「FULL KAITEN」に感銘を受けフルカイテン株式会社に参画。2020年9月に取締役就任。ビジネスサイド担当。
FULL KAITENがこの1年で魅せた価値とは?
前回、代表取締役の瀬川さんに「FULL KAITEN」誕生のハードシングスを伺った。今回、シリーズB資金調達のインタビューを進めると、この1年でのフルカイテンの急成長が見えてきた。
―― 今回の資金調達背景にはサービスの大幅な成長があったと聞きました。この1年間でどのような成長を遂げたのでしょうか。
絶対額は公表していませんが、2020年年初から2021年2Qで比較するとARRが50倍となるような成長を遂げました。
大手のアパレル企業をはじめとしたID数伸びに加え、1社あたりの契約金額も伸ばせたことが要因です。ARPAはこの1年間で4倍となるなどサービスの提供価値を上乗せすることができています。
―― なぜそのような高成長を達成することができたのでしょうか。
「FULL KAITEN」は国内でも数少ないエンタープライズが主力顧客のSaaSであるという点に特徴があります。
お客様の既存システムとの連携など導入の難易度は高いですが、大手アパレルメーカーをはじめとするお客様に「経営ど真ん中」を改善できるプロダクトであるという認識を持っていただけたことが大きいと考えています。
↑ 「経営ど真ん中」の自信が目力に宿る宇津木さん
サービスに対する期待の高さの裏付けとして初回商談では「8割以上で取締役以上の役職者」にご出席いただけている点に期待値が現れていると感じています。
―― 国内の多くのホリゾンタルSaaS企業と異なり、フルカイテンは「バーティカル×エンタープライズ」が現在の主力顧客です。なぜ最初から大手に食い込むことができているのでしょうか。
↑ FULL KAITENの導入企業。見覚えのある大手アパレルメーカー名が目立つ。
私たちが提供しているプロダクトはSaaSによく見られる「業務改善・業務効率化」サービスではなく「財務改善にダイレクトに寄与する価値」を提供しているからだと考えています。
多くの小売企業にとって在庫はBS(バランス・シート)に直結しています。私たちも在庫の扱いが上手くいかず3度も倒産の危機に直面するなど、適切な管理に苦労をしてきた経験があります。
「FULL KAITEN」は在庫の適正化だけではなく、一見すると売れ筋ではないポテンシャルのある在庫発見などができるため、在庫高の減少、現金の増加、客単価の向上といった経営に直結する価値を出しています。
小売業では大手企業による値下げや高付加価値競争がし烈になっており、今まで以上に「在庫を増やして売上を増やす」という旧来のビジネス戦略から脱却しなければという機運が盛り上がっています。
このような業界の本源的な流れに対し、われわれの深い知見に基づいたAIシステムが確実に価値を出している状況です。
これがフルカイテン流バーティカルSaaSの戦い方
――— 前職で宇津木さんはfreeeで営業やマーケティングを担当されていましたが、営業活動を行っていく上でホリゾンタルSaaSとバーティカルSaaSの違いをどう感じていますか
「FULL KAITEN」は「エンタープライズ × バーティカル × 非定型業務」のSaaSプロダクトです。これはこれまで私が扱っていたSMBをメインとしたホリゾンタル型業務系SaaSとは対称的な製品でした。
↑ 同じSaaSでもFULL KAITENでの営業アプローチは全く異なるものとなった
営業の仕方も「多数のリードを獲得しユーザープロブレムに対し訴求する」のではなく「非常に限られた顧客に対し経営イシューレベルの課題解決を訴求する」ため、マスマーケティング的なアプローチが有効でないことを学んでいきました。
そのような状況の中で小売業の経営者・意思決定者の方に認知してもらう方針に舵を切ったことで導入が加速をしました。
非常に上手くいっている施策は、「元新聞記者」の南(通称:デスク)を中心として展開している広報活動です。
↑ 溢れ出る記者感で業界に入り込む南さん(本人出演のイメージ写真)
もともと産経新聞で長年に渡り記者をしていた南(通称:デスク)は、その経験を活かし、どのように発信を行えば、業界紙などの媒体に注目してもらえるかといった「企業の見せ方」のプロです。
彼の尽力もあり、日経新聞での掲載や繊研新聞といった業界に影響力のある紙面で対談や連載などコンスタントに露出をし続けることができ「業界に新たな視点を提示する企業」としての認知を創り出すことが出来つつあります。
↑ メディア掲載履歴で毎週業界専門誌に露出していることが伺える
それだけではありません。自社の製品に関するPR情報だけではなく、瀬川を中心としてアパレル・小売業界への提言も積極的に行っています。
↑ 業界紙の一面でもデータの基づいた独自の発信を続ける
2020年夏以降に小売業界で大手企業による値下げの動きが相次ぐなか、フルカイテンは縮小市場である国内小売市場における価格競争と、大手以外の大多数の小売企業が採るべき「付加価値競争」について意見を表明しています。
1スタートアップがここまで取り組む事例は少ないと思いますが、業界にとって必要な情報を発信することで小売・アパレル業界の経営者の方に「話を聞いてみたい」という認識をいただくことが出来ました。
これにより営業における意思決定者との商談化率に非常にポジティブな効果がありました。
バーティカル × エンタープライズ向けSaaSの試練
――— エンタープライズ向けにシステムを提供することはシステムの連携やオンボーディングなど難易度も高い印象です。どのように乗り越えていったのでしょうか。
■ サービスを契約してもお客さんが使えない
「FULL KAITEN」は業務系SaaSと異なり、既に何らかのソフトウェアがあるけではなく、1から導入を進める必要があります。
いざサービスを使おうと思っても「そもそも在庫管理をするためのデータフォーマット」などありませんので、FULL KAITENに取り込むためのデータに変換していく必要があります。いわば、「小売業を営む方が持っているデータに命を吹き込む」工程です。
今ではこのやり方もだいぶ定型化できてきましたが、工数がかかり難易度も高いオンボーディング工程です。
私にとって入社から一番のハードシングスはせっかくお客様が期待を持って契約してくれたにも関わらずこのシステムの設定がなかなか完了せず、新規の営業活動をストップさせた経験です。
↑ ハードシングスが蘇ってきた宇津木さん
この他にも、エンタープライズ向けの営業活動やサービス提供には乗り越えるハードルは沢山あります。
・営業から成約・利用開始までの長さ
・意思決定者、決済者と利用者が同一でない
・顧客の中でシステムが引き継がれない
など、これまで行ってきたSMB顧客を中心とするSaaSビジネスとは異なった課題があることを知り、一つ一つ対応をしてきました。
特に、意思決定者と現場の利用者は導入時点においては、目線が全く異なるため、初期段階において合意形成を取ることなどは必ず行うようにしています。
このようなプロセスも自分たちでイチから考え進化をさせてきました。
フルカイテンはブルーオーシャンを走り続けるのか?
――— 今回のジャフコ 高原さんのコメントも印象的ですが、フルカイテンは今後拡大していく上でも、独自性の高さを維持できるのでしょうか。
フルカイテンの最大の強みは「ミッション達成のために必要なことであれば前例がないことでも諦めないで実現する」というマインドにあります。
↑ コロナ禍でも骨太な精神を失わない持つフルカイテンメンバー
難しい大きな問題を解決しようとすると、必然的にこれまでにないやり方を選択することがあります。その上でも組織として「必ずやり遂げる」という骨太な精神を持つ自負があります。
バーティカルSaaSは対象業界の業務領域に広く展開をしていき、アップセル・クロスセルを増やしていくことが定石です。
その中でも「まだ市場がない」ような独自性の高い領域のプロダクトつくりを指向しており、決して難易度が低くないことも覚悟しています。
その上で、これからも如何なくフルカイテンらしさを発揮し唯一無二の価値を届けていきたいと考えています。
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今回、資金調達を公表したフルカイテンは様々な職種で採用活動に力を入れています。
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