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【独占取材】AI×SaaSで「効率化」を考えてはいけないワケ

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世間はいま、生成AI・LLMブームだ。

メディアはChatGPTのプロンプトの書き方、最新のアプリケーション活用法をこぞって取り上げている。

SaaS企業においても、既存サービスとChatGPTを組み合わせ、新たな価値提供を行う取り組みが始まっているが、多くの事例においては、まだ実験段階と言える。

今回、企業データが使えるノートでは「LLMやChatGPTをいかにSaaSに組み込むべきか」という視点を獲得すべく、AI×SaaSの先駆者であるAI inside社CEO渡久地氏へインタビューに臨んだ。

だが、取材は私たちが予期していたものとは全く異なる展開となった。

「LLMを真に活用するのであれば、これまでのSaaSをつくるように考えてはいけない(渡久地氏)」など、発せられる言葉は、意外性と示唆に富むものであった。

加えて、日本企業のLLMへの取り組み、メディアの論調に対し「ChatGPTを活用するだけではふたたび失われた30年が続く」と警鐘を鳴らし、AI inside自身がその状況を打破しようとする強い決意も聞かれる。

これまで企業データが使えるノートが3年間に渡り取材を行ってきた中で、最も渡久地氏の熱量が高まったインタビューを解説と併せ伝えていく。

AI inside 代表取締役社長CEO | 渡久地 択
2004年から人工知能の研究開発をはじめる。以来10年以上にわたって継続的な人工知能の研究開発とビジネス化・資金力強化を行い、2015年にAI inside 株式会社を創業。2019年には東証マザーズ(グロース)上場を果たし、グローバルNo.1のAIプラットフォーム構築に向け舵を取る。

「昨今のLLMブームはAI黎明期を彷彿とさせる」

――― LLMや生成AIに対する各企業などの取り組みを見ると、ChatGPTを組み込んだサービスリリースなども見受けられますが、大きな収益貢献につながるといったレベルまでは達していません。現時点の状況をどのように見られていますか。

渡久地氏:市場調査会社等と話している感覚も含めてですが、まず数年前のAI勃興期と似た感覚を得ています。昔、AI領域は実証実験とかコンサルティングなどのビジネスが立ち上がりました。その後、AIがSaaS化した流れがありましたが、その時と全く同じ印象を受けています。

企業がChatGPTを活用し「こういう実証実験をしました」というプレスリリースがたびたび見られる時期が続いていくと思います。

LLM・生成AIに関して明確なユースケースまで至っておらず、関連ビジネスでは実証実験とコンサルティングがメインな感じがします。

――― AI insideでは、今年6月にInsideXというコンサルティングチームを立ち上げていますが、これは、企業に向けて、LLMなどをいかに活用するかなど指南を行うイメージでしょうか。

渡久地氏:これまで私たちはAI-OCRのSaaS化などを通じ、業務カットで課題へのソリューションを展開してきました。スケールスピードが早いメリットもありますが、このようなアプローチだと、特定業務のコスト削減といった面にとどまります。

InsideXとしては、テクノロジーありきや業務カットではなく、経営課題に対してテクノロジーでどうやってアプローチするかを解決していく狙いがあり、そのツールとしてLLMが最適ならLLMを使います。

AI insideが見出す国産LLMの勝ち筋

AI insideは今年6月、社内組織XResearchを設立し、140億パラメータの日本語LLMサービス「PolySphere-1(ポリスフィア-ワン)」を開発した。8月2日には、この基盤を活かしたAIエージェント「Heylix」をリリースしている。なぜいま、AI insideは急ピッチで取り組みを進めるのか。

――― 6月に公表されたT Noteでは、非常に強い言葉で国内の生成AI・LLMに対する危機感、取り組みの覚悟が示されています。今、現在、国内のAI・LLMの動きに対してどのような視点をお持ちでしょうか。

渡久地氏:国内のメディアはLLMに関して、ChatGPTに偏った報道が多く、企業自体も「ChatGPTを使えばいい」という動きがほとんどです。

これまでの日本でIT産業が勃興しなかったことにより「失われた30年」が起きましたが、LLM・生成AIを「使う側」でありつづけるのであれば、同じ30年を歩むようになると危惧しています。

プラットフォームに乗り続けるのではなく、われわれがLLMや大規模AI、Autonomous AI(自律型AI)領域でプラットフォームをやる、そして世界で勝っていくという強い想いを持っています。

AIの発展はエネルギーや処理可能量に規定されるところがありますが、そこでもイノベーションがおき、もっと潤沢にリソースが使える未来が来たら、さらに大規模の学習が瞬時にできる世界がきます。

そのような観点を踏まえて大規模な技術に取り組まなければ、日本はフォロワーにとどまりつづけると思います。

――― 既にOpenAIは約1,600億円の資金調達を行っており、今後、資金集約や桁違いの投資がなされていくなかで、LLM・生成AI領域でどのように競争力をもてばよいでしょうか。

渡久地氏:先日出席した生成AI系のカンファレンスでも「OpenAIが何ヶ月もかけて作ったものと同じようなレイヤーで戦っても、勝てるわけがない」という話が聞かれました。

はたして、そうでしょうか。私は、資金量や開発規模だけで勝負が決まることはないと考えています。

それはムーアの法則と同じように、今日、1,000億円をかけて作ったAI技術が、明日は、1,000億円より安く作れるということが起きているからです。

例えば、GPT-4が出てから今日までの間にPythonのコードを書くマイクロソフトのPhi-1というモデルの論文がでました。わずか13億パラメーターと従来のものよりもサイズが小さいにも関わらず「GPT-3.5(1750億パラメーター)」を上回る成績性能と言われています。

100分の1のパラメータですので、1,000億円をかけていた開発が10億円になるかも知れません。

かなり単純化して言いましたが、パラメータ数よりもデータの質を上げるという戦い方も出てきているので、勝ち筋は資金やボリュームだけでなく、ポイントの置き方次第だと思います。

実際、AI-OCRという観点では、OpenAI等の技術よりも我々の精度が勝っています。

――― OpenAIの課題はGPUの枯渇という指摘をされていましたが、大規模ゆえに各ユーザーのニーズの応えづらくなる点に勝機を見出しているのでしょうか。

渡久地氏:OpenAIは、10億人のユーザーにまで一気に広まりましたが、それ故に問題が生じると思います。彼らがユーザー一律に同じサービスを提供すると、それだけで足回りが重たくなるのです。

ファインチューニングが提供しづらかったりするのもそういう背景ではないでしょうか。我々はまだユーザーも少なく、それゆえに独自進化させられる部分が多くあります。

*8月14日にも「Enterprise-level GPU shortages continue to haunt AI companies」などの報道がなされている。

SaaS企業はいかにAI・LLMを取り入れるべきか

――― ここからはより“SaaS企業”を主語にしたテーマを伺いたいと思います。SaaS企業でもLLM活用が増える中で、いかに自社プロダクトに取り入れるか、試行錯誤がなされています。渡久地さんから見て、こう取り組むと良いという視点はありますか。

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