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嘘を本当にする根源的なものとは?

こんにちは、"dawn"です。
私の投稿に興味を持ってくださり、ありがとうございます。今回は、前回に続いて、『【推しの子】』で語られる「嘘が本当になる」とはどういうことか、後書き的に深掘ってみます。


嘘が本当になる演劇性

前回は「嘘や演技は、演じ手と受け手、双方の努力による演劇性によって本当になる。」というテーマの投稿でした。

・アイドルは、ファンを愛そうとする。愛せる人になろうとする。
・ファンは、それを受け取ろうとする。受け取れる人になろうとする。
双方の演劇性によって「嘘が本当になる」が成立するということですね。

日常生活においても、求められている役割を演じたり、思ってることを盛って伝えてみたり、そういうことって往々にしてありますよね。

でも、それらの振る舞いは、必ずしも心の奥底から強く思ってるものでなくたっていい。悪意で嘘をついたり演じているのでなければ、「相手に好意を伝えたい」「何かしらポジティブな影響を与えたい」という思いで演じられているものであれば、それでいい。

そして、受け手にとっても、それが本心かどうか、どれくらい強い思いなのか、それ自体はあまり関係ない。少なくともそういう目的や意図をもって相手が接してくれていることに目を向ければ、「ありがとう」と感謝の念は持てる。感情が動く。

こうした両者が演じるお約束(=演劇性)によって「嘘が本当になる」という話でした。

演じるって何を?

「第三の自分」をつくる

そう考えると、気になるのが、双方が「何を演じるか?」ということです。前回の投稿でも真に迫る要素について触れましたが、もうちょい核心を掴めそうだなーと思ってたら、もう一個前の自分の投稿にヒントがありました。

この投稿では、人の人格には以下3種類が存在するという話をしました。

・生まれの自分
・育ちの自分
・何かのため(=パーソナルプロジェクト)の自分

誰かに対する愛情や仕事に対するプロ意識が、生まれや育ちとは別の人格形成に繋がるのです。それまでの自分とは別人の自分を作ることができるのです。そして、それは嘘偽りではなく、本当の自分の一部でもあります。

「第三の自分」=「本当の自分」だから嘘が本当になる

生れや育ちの自分とは異なる、何かのための「第三の自分」。まるっきりその人格一色になるわけじゃないけれど、その人格だって確かな本当の自分になる。だとすると、それを演じるときの言動だって本当であり、「噓が本当になる」ということなんじゃないかと。

『【推しの子】』のアイにも、この構造が当てはまります。アイは幼少期の家庭環境から、人を愛する感覚を持てていませんでした。だからこそ、アイドルとして「愛する人」を演じることで、「人を愛せる自分」という第三の自分をつくろうとしました。突き抜けたプロ意識でアイドルを演じることが、アイのパーソナルプロジェクトだったわけです。
こう考えるとYOASOBIの「アイドル」の歌詞にも重みが増します。

誰かに愛されたことも
誰かのことを愛したこともない
そんな私の嘘がいつか本当になること
(信じてる)

アイドル/YOASOBI

作中、アイは自分自身でも「人を愛せる」自分に確信を持てずにいましたが、今際の際にアクアとルビーに対する愛情に確信を持つことで、ついに自分の中の第三の自分を確かなものとして認めることができます。

今際の際のアイ

余談ですが、作中でアイが他のメンバーや世間から偶像化されるというのは、第三の自分以外の人格を否定されるということになります。これは確かに辛い。。。その悲劇を起点に進行するダークなストーリーが『【推しの子】』の緊張感のある面白さでもあります。

嘘を本当にする第三の自分

ここまで、嘘を本当にする演劇性と、それを真に迫るものにする第三の自分を演じるという話をしました。

これを私たちの日常生活に当てはめると、前段の「相手に好意を伝えたい」「何かしらポジティブな影響を与えたい」といった気持ちからくる振る舞いも、「第三の自分」の存在によって本物になると考えられます。

「相手に好意を伝えたい」「何かしらポジティブな影響を与えたい」の根底に「そうできる自分でありたい」という自己像が必要なのです。これは受け手にとっても同様で、「それを気持ちよく受け取れる人でありたい」という自己像が必要です。

このような「第三の自分」になろうと願う気持ちが、演劇性を真に迫るものにするのだと思うのです。自分が望む第三の自分を演じられた時、自分の感情が動き、誰かの感情を動かせているはず。「嘘が本当になる」んだと。

第三の自分をつくって、誰かや何かのために本当の振る舞いができたら、きっと感情が動いて最高の体験ができそうですよね!

如何でしたでしょうか。前回に続き、『【推しの子】』を題材に、「嘘を本当にする」というテーマで投稿してみました。私も、この記事を読んでくださったあなたも、最高の演劇ができたら幸いです。

ここまで読んでくださってありがとうございます。
また、別の投稿でお会いできたら嬉しいです。ではまた!

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