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「2023年11月の珈琲 Indonesia:朝靄のトンネル」

11月の珈琲「Indonesia:朝靄のトンネル」の力強いコクは、山登りの一場面を思い出させる味わいだった。

Indonesia:朝靄のトンネル
あたたかさとつめたさに囲まれて
わたしはそこに立っていた
オレンジ色したトンネルの入口に
鎮座する巨大な朝靄
道は見えなくとも夢見た場所へ
こころを決めて歩きだす
背負った荷物をしっかりと感じるようなコク

2泊3日分の食料と水、そして、テント泊の用意をねじ込んだザックは、今までに背負ったことのない重さだった。

風呂に入れない1日目の夜を過ごした身体には疲れがたいそう溜まっていて、いくつもやってくる山道のアップダウンがこたえたのはいうまでもない。

それでも歩きつづけなければならなかったのは、歩いている道に逃げ場がなかったからだ。

自分の足を前へ前へと押し出しさえすれば、いずれ、目的の場所に着く。

それだけは間違いのない事実だった。

2日目の宿泊地は温泉街だった。

と言っても、宿に泊まるわけではない。

温泉街の一角にある広場にテントを張り、その中で寝るのだ。

ただ、さすがは温泉街で、2日目にして、風呂に入れたことは大きかった。

温泉街を流れる川を一望できる公衆浴場の窓からひとり外を眺めながら湯に浸かっていると、身体のあらゆる部分から疲れがどっと剥がれていくことを感じた。

そして、疲れも汚れも剥ぎ落としたわたしは、3日目の靄がかかった朝を迎えたのだった。

人の気配のない広場の向こうにある東屋で、簡単な朝食を済ませ、1日目よりも、そして、2日目よりも、確実に軽くなっているザックを背負った。

軽くなっているといえど、やはり、その肩紐は肩にずっしりと食い込んでいることを感じながら、目的の場所へと続くトンネルの入口に立った。

朝靄がかかっていたせいだろう。

トンネルはそう長くはないはずなのに、奥にあるオレンジ色の灯りはかすれ、まるで、トンネルの向こうに、底なし沼か異世界があるかのような異様な雰囲気が漂っていた。

背後には温泉街の地熱で熱を帯びたあたたかさが、正面にはトンネルから漂ってくる異様なつめたさ。

そのふたつに挟まれて、わたしはトンネルの入口で立ちすくんだ。

でも、ここに鎮座する巨大な朝靄を突っ切っていかなければ、わたしは先へは進めないのだ。

肩紐に指をかけ、重たいザックを背負いなおしたわたしはこころを決めて、歩き出した。

11月の珈琲「Indonesia:朝靄のトンネル」の力強いコクは、山登りの一場面を思い出させる味わいだった。

背中にずっしりと乗った重いザックがあっても、先の見えない道に不安を覚えても、わたしが足を前に出しさえすれば、夢見る場所に辿り着ける。

そんなことを感じた珈琲だった。


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