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「2023年8月の珈琲 Colombia:蝉しぐれの二度寝」

二度寝のなかで感じていた夏の朝は、永遠に終わることなくつづく。

Colombia:蝉しぐれの二度寝
すだれがつくる陰で咲いた朝顔
じょうろからあふれた水は
ベランダを濡らしていた
回りつづける扇風機の羽根が
一斉に鳴きはじめた蝉の声を揺らす
二度寝のなかで夏の朝が終わらない
安心感が広がる香ばしさとコク

わたしが住む家の隣には手のつけられていない大きな空き地があった。

手がつけられていないという証拠に、夏には、その大きな空き地で育った葛の葉が、空き地を覆うフェンスを乗り越えてくるほどだった。

そんな葛の葉のように、家のベランダにはプランターから上へ上へと蔓を伸ばす朝顔が何株もあった。

夏の朝は早い。

布団のなかでうとうとしながらも、もうとっくに夜があけていることはわかっていた。

なぜか、体は布団に沈んだままで、まぶたは一向に開く気配がない。

ただ、耳だけは夏の音をとらえていた。

開かれた窓から、植物に水をやる音が聞こえてくる。

きっと、今朝も、太陽の光をさえぎるすだれの陰で、それはそれは大きな青紫色の朝顔がいくつも咲いているに違いない。

じょうろからあふれた水が、打ち水のように、ベランダを濡らしているのだろう。

おかげで、どこかひんやりとした風が、窓から入ってくるのを感じた。

そろそろ起きる時間だと声をかけられた気がする。

でも、気温が高くなる前の夏の朝の心地よさは、わたしをなかなか離してくれなかった。

そうこうしているうちに、蝉が一斉に鳴きはじめた。

蝉の声が、わたしのそばで回りつづける緑色の扇風機の羽根のせいで揺れているように感じる。

二度寝のなかで感じていた夏の朝は、永遠に終わることなくつづいていくようだった。

8月の珈琲「Colombia:蝉しぐれの二度寝」の安心感が広がる香ばしさとコクに、思う存分に身も心も委ねた夏の朝の二度寝を思い出した。

これから先、同じ朝を体験することはできないけれど、いつだって、思い出せるあの夏の朝だ。

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