Dance On The Moon『ファミレスを享受せよ』
ゲーム概要
プレイ状況
プレイ時間2.4時間でエンディング2種ともクリア
練られた設定と丁寧なストーリーテリング
本作は主人公が深夜のファミレスに訪れたところから始まる。
気づけば店員もおらず、外の世界も真っ暗な不思議なファミレスにいた。
そこには数万、数十万年前からここにいるという先客たちがおり、主人公は彼らと会話することでこのファミレス「ムーンパレス」の秘密と、先客たちの正体、そしてこのファミレスに我々が集まった理由を知っていくこととなる。
というのがざっくり導入だ。
細かい舞台設定やキャラ設定とかは多分他のところでも書かれていることと思うので、このレビューでは言及しない。
というかEND 2(いわゆるTrue Endみたいなやつ)をクリアしていればゲーム内で舞台設定などの確認もできる。
私はほとんどこのゲームについての知識を入れずにプレイしたので、最初のうちは何となく不思議な話をなんとなく追っていって、ふわっとした雰囲気で終わる系のゲームなのかなと思っていた(もちろんそういうゲームも好きだが)。
が、本作は進めていくうちに、結構ちゃんと裏設定とか練られていることが分かってきたし、そういった設定や秘密が明かされていく過程も丁寧であることに驚いた。
幻想小説だと思って読んでいたら推理ものだった、みたいな夢野久作とか読んでいるときの感じ。
例えばそこは死後の世界で、先客たちの過去の話を聞いていくうちに成仏していってよかったね、ってなる感じかと思っていたら、実際は何万年たってもファミレスの外には出れないし、出ていくためには客たちの信頼を得て、数万年をかけてパスワードを解き、客たちの過去を覗き見して真実を明らかにして行く必要があるのだ。
ファミレスの客と会話していくなかで話題を手に入れ、それを別の客にぶつけてみたりして会話を広げていくことで、各人の過去や内面への創造を広げさせる工夫もよくできている。
かといって会話が重いとか文章が長いとかそんなこともなく、洒脱で趣きある緩い会話なのでとっつきやすい。
また、ふとしたきっかけで事態が急変すると、それまでなんとなく気楽なものだったファミレス探索が急に不穏になってきたり、物語の核心に迫るような会話パートもドラマチックだったりで、短い時間の中で小綺麗にかつ重みをもって展開されていくシナリオが素晴らしかった。
引き込まれるアートとBGM
本作はシンプルだが味のあるアートワークと、これまたシンプルだが妙にノスタルジックでメロウなBGMで各場面が印象的に描かれている。
夜の青と月の黄色を基調とした色使いで、荒くジャギった輪郭線であらゆるものが構成されており、不安定さがありつつもレトロお洒落感を感じる絵作りがされている。
また、画面がほぼ正方形のアスペクト比というのもシンプルでいい。
またBGMに関しても基本は無音だが、探索・会話パートで時折流れてチルい演出をしてくれたり、印象的なシーンで雰囲気をまとめ上げており、曲数自体は少ないながらも効果的な役割を演じている。
キャラ造形
主人公含め各キャラクターの造形がよく、これはオタクが好きなやつだなーと思いながらプレイしていた。
人でないものが多い中で、特に主人公が誰に対しても気さくに質問攻めをし、かと思えば感性は割と普通だったり、あふれるエネルギーだけで16桁のパスワードを数万年かけて解いたり、といった若干ズレた一般人の感じが良かった。
おわりに
私自身はあんまりファミレス行かないものの、深夜のファミレスの雰囲気とかはわかるので、このゲームやった後に深夜ファミレスとかいっちゃうとそれだけでちょっといい気持ちになっちゃいそうな、いい余韻を与えてくれるゲームだった。
ところで本作のBGMではタイトルでFly Me To The Moonがオマージュされていたが、私はAuroraのDance On The Moonなんかがこの作品には合う気がしている。誰か二人が流刑の月で踊っていることを思って。
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