引用は青山美智子『赤と青とエスキース』(株式会社PHP研究所)に依る。
〈あらすじ〉
竜宮城のような
まさに、竜宮城のような本だった。
この本との出会いは、サークルの先輩方と4人でオールカラオケをした時に、自分含め3人が熱唱している傍ら、1人の先輩が永遠にこれを読み続けていて、「こんなやかましい環境で熱中できるくらい良い本なのだろうか?」と思い貸してもらったという経緯のもとに果たされた。あと、装丁が綺麗で惹かれたのもある。
この本を読んでいると、自分の時間と周囲の時間とがまったく異なって感じる。我々が、密室の中で感情を一切捨象した無機質なカラオケの電子音と、無責任なエコーで歌い手の声を増長させるマイクとに囲まれて、ある意味有意義で、ある意味無意味な時間を過ごしていた間、先輩はたっぷりとたゆんだ時間を味わっていたのだと思うと、少し妬けてくる。
エスキース
この竜宮城に訪れている間は、次から次へと登場人物たちが、生きることの苦しさをそっと呟き、そして生きるための確かな助言を手渡してくれる。なにかそれらに意味を添えて書き出したいとも思ったのだが、今回はじっくり寝かせてみたいと思う。この本を読むのに要した3杯のお茶のように。
実際、この本は、何か一つでも答えを見出してしまったら、緻密に組まれたテクスチャーが解けていってしまうような気がして、なんだか、この形が正解なように思える。
そう、まさにこれはエスキースだ。
でもやっぱりなんだか物足りない。この物語はやはり、239ページ分の文字と装丁とが揃ってはじめて完結するのだ。そしてこの気持ちをともに抱き合える人と出会えたらもっと良い。
ああ、いい物語だ。