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お洒落なパン屋

お洒落なパン屋さんに憧れる。

こじんまりした店内。吹き抜け。ウッドデッキ。国産小麦。ジンジャーエール。デニッシュ。小さな手書きのメニュー。眼鏡とタートルネックの似合う大人の女性。

今日訪れたパン屋さんは、まさに憧れを具現化したようなパン屋さんだった。
高級住宅地から少し外れた丘の上にあり
、広い芝生の庭にはいくつかテラス席が置かれている。
次から次へとハイソサイエティな人々がやってきて、ちいさなデニッシュをいくつも買っていく。
ああ、これが「良い暮らし」。まさに。

丁寧に作り込まれたデニッシュはちいさく、甘く、値段が高い。
アグアグそれらを食べながら、パン屋さんになってみたいな、と考える。

塾屋になって早十数年、完全なる夜型のわたしがヨレヨレ起き出す。お洒落なキッチンに入り、早速粉をぶちまける。卵の殻が入る。水が多い。焦げる。
わたしは生来のぶきっちょで、あまつさえ雑ときている。そして何より、「美味しい」の基準がガタガタだ。
コンビニのパンも、ベーカリーのパンも、おなじ「美味しい」の枠に入れる。食べられる範囲なら大体すべての食べ物は「美味しい」。
だから、毎日おなじものを食べる。カロリーメイトはお菓子だと言い切る。ダイビングで沖縄に行き、ファミリーマートで食事する。

目の前に焼き上がるのは、可哀想にブスブスのパンだ。

だめだ、向いてない。
なにもかもパン屋向きじゃない。

我にかえると、目の前のデニッシュをいつのまにか食べ終えてしまっていることに気づく。
きっと美味しかったに違いない。


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