見出し画像

【本屋大賞】なぜ『52ヘルツのクジラたち』で泣けなかったのか

こんばんは。村上がーるちゃんです。

好きな作家さんはいつつも、新しい本ともなるべく出会うようにしています。

知らなかっただけですごく好きな作品に出会えるかもしれないし。

新しいスタイルを発見できるかもしれないし。


しかし!!!!

この間の本屋大賞をとった『52ヘルツのクジラたち』

画像1

絶対泣けるぞって力強いポップもあったし読んでみましたが

私は泣けませんでした。


なんでかなーと考えてみた結果

すごく納得のいく自分の「好み」みたいなものを

再発見したので、記録がてら書いてみます。


『52ヘルツのクジラたち』あらすじ

【2021年本屋大賞受賞作】
52ヘルツのクジラとは―他の鯨が聞き取れない高い周波数で鳴く、世界で一頭だけのクジラ。たくさんの仲間がいるはずなのに何も届かない、何も届けられない。そのため、世界で一番孤独だと言われている。自分の人生を家族に搾取されてきた女性・貴瑚と、母に虐待され「ムシ」と呼ばれていた少年。孤独ゆえ愛を欲し、裏切られてきた彼らが出会い、新たな魂の物語が生まれる―。

注目作家・町田そのこの初長編作品!(BOOK☆WALKERより引用)


ちょっと補足すると、

この貴瑚という主人公は、度重なる悲しい出来事をきっかけに

祖母にが住んでいたという田舎の一軒家に引っ越して新しい生活をスタートさせようとします。


そこで出会った少年(ムシ)を助けたいという気持ちから

貴瑚の時間が動き出すわけです。


泣けそうな感じがするのだけれど、なぜ私の心にはグッとこなかったのか…

それは主に二つ理由があると思っています。


理由その1:情景描写が少ない

この作品は全体を通して「情景描写が少なすぎる」ために

物語の世界観全体が希薄な印象になり、物語に没入できませんでした。


例えば貴瑚引っ越した古い家。

そこは以前、貴瑚の祖母が大事に住んでいた家でした。

都会から一転、田舎での新生活をスタートさせる大切な家なのにその描写が一切ない。


周りにはどんな景色が広がっているのか

古いその田舎の家がどんな造りになっていて

どんな匂いがして、貴瑚にどんな印象を与えたのか


その辺りがもっと伝わってくれば、

物語の導入がもっと生き生きしたものになったのかなと思いました。

買い物をする近所の店で出会った、

説教垂れてくる老人が田舎社会の象徴的に登場したものの

なんだかもったいない。


後一つ、これは絶対に描写して欲しかったのが

52ヘルツのクジラの映像。

この小説のキーになるところですよね。


このクジラの鳴き声の周波数が他のクジラとは違うこと

それによって仲間とコミュニケーションが取れないという説明はありました。

ただその音を聞くだけでは、人間の耳では普通のクジラの鳴き声との違いは

聞き分けられない。


だからただの説明ではなく、そのクジラの映像についてももっと描写が欲しかった。

そのクジラは一体どんな姿(種類)のクジラなのか

どこをどう泳いでいたのか

何もない遠洋で一匹で鳴いているのか

他のクジラに向けて語りかけようとしているのか

そうしたことがもっと書き込んであれば

より印象的なシーンにも、魅力的なタイトルにもなったのではないかと思ってしまう。


情景描写について触れてきましたが、全体的にこの小説自体が

会話感情の説明で進んでいきます。

別にそれは構わないんだけれどね!!!!

説明しすぎると分かりやすくなる反面、

分かりやすすぎて情緒がないなあという気がしました。

特に扱ってるテーマがヘビーなんだから、こんなに直接的な表現で書き込んだら

読み手は気持ちがズーーンとなりそうだけどな…



理由その2:ハッピーエンドにすりゃいいってもんじゃない

これは声を大にして言いたい。

「ハッピーエンドにすりゃいいってもんじゃない!!」


この小説は、物語の中で取り扱っているテーマがとにかく多い。

虐待、家庭内問題、DV、トランスジェンダー、恋愛、友情


これらを全て物語の中に取り込み、

そしてそれを全部解決しようとした結果

後半に向けて不自然なくらい物事がポンポン解明されたり

解決されたりしていくわけです。


このスピード感、全て収まるところに収まっていく感に

急激に置いてけぼりにされていく人もいるんじゃないだろうか。

私はこの「全部まとめてハッピーエンド」的な結末がこの物語全体を薄めているように感じてしまった。


取り扱っているテーマが多いのはまあしょうがないとして

この全てを説明づけて物語の中に収めようとすることで、

私たちは読み終わった後に物語の謎について考えたり

せっかく扱ったテーマについて考えることがなくなってしまう。

だって全部が物語の中で解決されてしまうから。


これが非常にもったいないなあと感じてしまいました。

探偵小説じゃないんだから。全部解決しなくたっていいのよ…


以上2点が、私が『52ヘルツのクジラ』を読んでも

涙が出てこなかった理由だと思います。


だから自分で読む物語は

世界観を楽しませてくれるような情景描写と

何度でも読み返したくなるような謎めいたところがある

そんなお話が好きだなと再発見したのでした。


江國香織とかその天才だと思うな♡

生活感とか、その場の空気感とかを表現するのがすごく素敵だし

人の気持ちなんて結局は理解しきれないものだっていうのを、いつも教えられる…

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?